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12年ぶりのリベンジ戦。亀田和毅は「レイー和」対決で勝利できるか?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
正規王者バルガスvs暫定王者亀田和毅の因縁の戦い(Photo:WBC)

 プロボクシングWBCスーパーバンタム級暫定王者・亀田和毅(協栄=36勝20KO2敗。27歳)と同級正規王者レイ・バルガス(メキシコ=32勝22KO無敗。28歳)が対戦に合意した。亀田は昨年11月、アビゲイル・メディナ(スペイン)との決定戦に勝ちで暫定王座ながらWBOバンタム級王者に続く2階級制覇に成功。一方バルガスは17年2月にこれも決定戦で獲得した王座を4度防衛している。米国メディアは日本からの情報として試合は7月13日、ロサンゼルスのディグニティ・ヘルス・スポーツ・パーク(旧称スタブハブ・センター)で挙行されると伝える。

伝統の大会ファイナルで対戦

 時は2007年。El Torneo de Guantes de Oro Mexcio DF(メキシコシティ(連邦府)ゴールデングローブ・トーナメント)に当時16歳だった亀田がジュニアの部門にエントリーした。このトーナメントはメキシコシティ周辺のアマチュアのトップ選手たちが一堂に出場する大会。この時は遠くアカプルコやメキシコ南部の州からも選手が参加。かつてはビセンテ・サルディバル、ルーベン・オリバレス、カルロス・サラテ、リカルド・ロペス、イスラエル・バスケス、マルコ・アントニオ・バレラらメキシコの伝説的な名チャンピオンたちがアマチュア時代に腕を磨き優勝した権威あるイベント。この年、予選はアレナ・コリセオ、準決勝と決勝はアレナ・メヒコとメキシコシティの格闘技の殿堂2会場が使用された。

 この大会を実際に観戦した関係者の話をもとに話を進めよう。(ここから亀田は→和毅と表記する)

 予選で和毅は4勝してベスト4に残り、準決勝でメキシコシティ郊外トルーカ在住のガリバイという選手と対戦した。和毅はスプリットデシジョンで敗れる。ところがここで父・史郎氏を中心に亀田家は猛烈に抗議。プロでも和毅をコーチするトレーナーのルーベン・リラを前面に立て大会運営責任者と折衝。結局、強引に「再試合」を認めさせ、再戦でガリバイに判定勝ちした和毅が決勝に進出した。

 そして決勝の相手がレイ・バルガスだった。バルガスはメキシコシティ出身で、自称アマチュアレコード100勝5敗という新鋭。予選からバルガスを見ていたプロ関係者は「上背があってスピードがあるだけでなくパワー、特に左右アッパーが武器。とても和毅が勝てる相手ではない」と予想していた。ただ亀田家だけは勝つ気満々だった。

バルガスのアウトボクシングに屈する

 ジュニアの試合は国際ルールで、すべて1ラウンドの2分の3ランウド制。ヘッドギア使用で採点はこの時コンピュータ・スコアリングが採用された。決勝は左右に動いて長いジャブを突き、アウトボクシングに徹するバルガスを直線的に突進する和毅がチェイスする攻防となった。観戦者の記憶でヒット数(採点)は13-4ほどでバルガスの勝利。ただ2,3ラウンドには前進する和毅の右ストレートがアゴを直撃しバルガスがグラつく場面があったという。経験と当時の実力の差が勝負を分けたとみる。

 それでもバルガスは準決勝まですべての相手をKOあるいはRSC(レフェリーストップコンテスト)で下していたというから決勝は慎重に戦ったといえる。和毅は敗れたが善戦しポテンシャルを見せた試合だった。ただし準決勝でミソをつけたのはいただけない。その後プロで兄の興毅、大毅が試合判定でスキャンダルを起こす素地がそこにあった。

 ただ運命の巡り合わせは皮肉で、和毅がアマチュアで唯一黒星を喫した相手に挑戦(WBC内の統一戦とも呼べるが)する背景はストーリーとして見た場合、非常に興味深い。和毅がどんなかたちにせよ、アマチュアの注目される大会でバルガスと対戦したことは試合設定の中心となる。和毅本人も「あの一敗があったから今の自分がある。バシッと倒してプロは違うというところを見せてやりますよ」とリベンジに燃える。

暫定王座決定戦でアビゲイル・メディナ(左)を下した和毅。2階級制覇達成(Photo:mundodeportivo.com)
暫定王座決定戦でアビゲイル・メディナ(左)を下した和毅。2階級制覇達成(Photo:mundodeportivo.com)

気になるパンチの質

 その「プロは違う」だが、15歳でメキシコへ渡り、腕を磨いた和毅を現地のエキスパートはどう評価し、世界王者に2度就いた姿を見ているのだろう。その一人は「実力向上に一途で練習や減量に取り組む姿勢がとても真面目。元々スピードがあり、練習熱心だからスタミナはトップクラス。技術面も不動の世界王者レベルとは言えないまでも上位ランカー級のものを体得している。ただしプロとしてパンチの質の軽さが、それは練習では補えない先天的なものだが、気になる」と発言。スペイン語をマスターし、現地女性と結婚した和毅にしてもメキシコ人特有のパワーは身に着けられなかったということか。

 ではそのメキシカンのバルガスとの戦いはどんな攻防と結末が待っているだろう。長年メキシコのボクシング業界で活躍する日本人F氏に聞いてみた。

 「最近のバルガスの試合をじっくり見ていないので何とも言えないのですが、以前の印象、両者の戦力を比較すると、バルガスの3-0判定勝ち.あるいは終盤のKO勝ちを予想します。理由はパワーの差です。単純なパンチ力、パンチの質の重さ、体全体のパワー(バネ)すべてです」

 とはいえ和毅にもチャンスはあると同氏は言う。

亀田家、史上最高の晴舞台

 「バルガスの欠点は頑丈なメキシコ人には考えられない打たれ弱さ、グラスジョーにあります。彼が練習するロマンサ・ジムのトレーナーに聞いたところ、スパーリングでも重い14オンスのグローブとヘッドギア付きで時々ダウンするそうです。その脆さをこれまでスピード、技術、パワーとスーパーバンタム級では考えられない体格、身長とリーチでカバーしてきました。しかし最近の拙い試合の連続は打たれ脆さに加え歴戦のダメージが蓄積してきたのかもしれません」と評価。

 そして「和毅の勝機はそこにあると思います。ハンドスピードでは上回っていますから、ためて打つメキシカンスタイルのバルガスに比べてパンチがコンパクトに打てる利点があります。出入りを速くして判定勝ちを狙うのが最善の道でしょう。もしバルガスの仕上がりが拙ければ、その可能性が広がります。ただ試合地のロサンゼルスはメキシカンのホームですから、判定に関しては厳しいかもしれませんね」

 15年、和毅は当時のWBAバンタム級王者ジェイミー・マクドネル(英)に2度挑み連敗。場所はいずれも米テキサス州。初戦は僅差だったが再戦は中差の判定負けだった。F氏も以前「和毅が負けるのはジャブの名手と対戦した時」と予想していた。マクドネルは昨年、井上尚弥の挑戦を受け初回TKO負けし評判を落としたが、ヨーロッパスタイルのテクニシャン、ジャバ―に属する。

バルガスが王座決定戦で下したギャビン・マクドネル(左)は和毅が連敗したジェイミー・マクドネルの双生児の弟(Photo:boxingnews24.com)
バルガスが王座決定戦で下したギャビン・マクドネル(左)は和毅が連敗したジェイミー・マクドネルの双生児の弟(Photo:boxingnews24.com)

 データではマクドネルのフレーム(身長&リーチ)はバルガスを上回る。4年前の挫折を糧に和毅が一世一代の出来を披露して痛快なリベンジを果たすシーンも期待できる。はからずも史郎氏が「令和やから、レイ(バルガス)と和(和毅)でレイ-和対決や」と命名した?因縁の一戦。三男が宿敵を迎えるにあたり、亀田家は一丸となり空前のビッグステージににらみを利かす。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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