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パッキアオのライブステージ。クアラルンプールの復帰戦はゴングが鳴るのか?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
プレゼンで勝利を誓うパッキアオとマティセー(写真右)。(写真:Philstar)

 アジアの英雄、6階級制覇王者マニー・パッキアオ(フィリピン)の1年ぶりの試合が7月15日マレーシア、クアラルンプールのアシアタ・アリーナで予定される。昨年7月、豪州ブリスベーンで地元のジェフ・ホーンに惜敗。現在無冠のパッキアオはWBA世界ウェルター級“レギュラー”王者ルーカス・マティセー(アルゼンチン)に挑戦する。“ファイト・オブ・チャンピオンズ”のキャッチコピーが付いた一戦は米国テレビのプライムタイムに合わせ、現地時間の午前に開始されるスケジュールだ。

延期はフェイクニュース?

 試合は米国だけではなく、アジア太平洋、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アフリカと世界中に中継される。「パッキアオの勇姿が観られるだけで満足」というファンは多く、彼の衰えぬ人気を裏付ける。だが39歳という年齢、自国の上院議員という要職から彼らを熱狂させる時間はそう長くない。1階級下のスーパーライト級で一世を風靡したマティセーは39勝34KO4敗の強打者。彼が尊敬するフアン・マヌエル・マルケス(メキシコ)がパッキアオを完全KOしたシーンの再現が、もしかしたら起こるかもしれない。

 そんなスリル満点の対決だが、果たして無事に試合が開催されるのかという疑念が燻っている。最初にそのニュースが流れたのは5月中旬。マティセーの地元アルゼンチンのテレビ局「TyCスポーツ」が「試合は延期される見込みだ」と報じた。これに対してパッキアオ陣営は「事実に反するフェイクニュース。悪意にさえ満ちている」と反論。マティセーのマリオ・アラノ・マネジャーも「試合は問題なく行われる。日程の変更はなし」とツイッターで発信。パッキアオ本人も「ネガティブなニュースでもプロモーション活動に貢献するから歓迎だ」と意に介さなかった。

 ところが今週初めからイベント開催を危惧する噂が再燃している。スポーツ専門ケーブルで、ホーン戦同様、今回の試合を全米へ放映するESPNが伝えた。

 それによるとパッキアオのプロモーション会社「MPプロモーションズ」がマティセーにファイトマネーの前金として50万ドル(約5500万円)を渡したが、200万ドル(約2億2000万円)が未払い。また同プロモーションがPPV(ペイパービュー)放映の費用を期限までに納金できなかったのが影響していると報じる。

 これに対してパッキアオ側はまたも全面否定。MPプロモーションズのビジネス担当トップのアーノルド・ベガフリア氏は「試合は行われる。すべてが調整されスケジュール通り。パッキアオもマティセーもキャンプでハードトレーニングを敢行しており、ファンはアクション満載の拮抗した試合を堪能できるだろう」と断言。長年パッキアオの代理人を務めるマイケル・コンツ氏も「先ほどもパッキアオと話し前向きに進めている。試合が実現した時、すべての懐疑者は前言を取り消すに違いない」と強調する。

1年ぶりの復帰にハードなジムワークを行うパッキアオ(写真:MPプロモーションズ)
1年ぶりの復帰にハードなジムワークを行うパッキアオ(写真:MPプロモーションズ)

イベントのバックグラウンド

 あと2週間あまり。開催の肯定論の根拠として次の項目が挙げられる。

1.デポジット(前金)を渡すことはあってもファイトマネーは試合直前に支払われるのが一般的。全額を渡すまでまだ日数がある。

2.ホーン戦はESPNのPPV放送だったが、今回はESPN+(ストリーミング発信サービス)が有力。コストの問題はこれから解決できる。

 逆に開催を危ぶむ理由としては次の事項が挙げられる。

1.開催地マレーシアは隣国シンガポールと並んで最近ボクシング興行に力を入れているが、今回のファイトに向け資金調達面で不安があるかもしれない。

2.自国フィリピンで船出したMPプロモーションズは今回初めてビッグイベントを手がける。長らくパッキアオのプロモーターだった米国のトップランク社のサポートなくして興行は大丈夫なのか?

3.トップランク社のドン、ボブ・アラム・プロモーターは試合が流れた場合、ホーンをストップしてベルトを奪ったテレンス・クロフォード(米=WBOウェルター級王者)とマティセーとの統一戦を計画。これはパッキアオをリングに上げない揺さぶりともとれる。

4.前回ホーン戦のパッキアオの報酬は1000万ドル(約11億円)。それ以上を望んでいるが、今のところ保証はない。

デラホーヤ氏は実現を保証

 否定論の方が多くなってしまったが、27日現在、試合は予定通り挙行される公算が強くなっている。マティセーのプロモーター、ゴールデンボーイ・プロモーションズのオスカー・デラホーヤCEOは「私は試合10日前に現地入りする予定。マニーのプロモートをヘルプしたい。飛行機の往復チケットもすでに購入済み。試合が開催されることにすごく確信がある」と太鼓判を押す。

 マティセー(35歳)が1月、テワ・キラム(タイ)との王座決定戦で得たファイトマネーは21万ドル(約2300万円)。今回の250万ドルは約12倍に相当する。収入だけでなく、スーパースター、パッキアオとグローブを交えることは大きな名誉で、もし勝てば一挙に株が上がる。マティセーがこんなビッグチャンスをみすみす逃がすとは想像できない。何が何でも対立コーナーに立ちたいと念じている。

アリ戦以来のビッグイベント

 両者がリングに登場すれば1975年のモハメド・アリvsジョー・バグナー以来43年ぶりにマレーシアで開催されるボクシングの一大イベントとなる。パッキアオは故郷ミンダナオ島で急ピッチで調整中。最近のジムワークでスパーリングパートナーをダウンさせるなど好調ぶりが伝えられる。予想賭け率も2-1でパッキアオ有利と出ている。

 ただしパッキアオを取り巻く状況は今までと異なる。まず過去16年間コンビを組んだフレディ・ローチ・トレーナーと決別した。代わりに親友でデビュー以来ずっとアシスタント・トレーナーを務めるブボーイ・フェルナンデスが陣頭指揮を執る。そして既述したようにボブ・アラム氏のトップランク社とも関係を絶った。立場はフリーエージェント。自立してやって行けるかは今回の結果如何にかかっている。試合内容と勝敗はもちろん重要だが、ワンマンライブがどんな結末をまねくかにも熱い視線が注がれる。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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