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三浦隆司も内山高志も引退を撤回する?スーパーフェザー級戦線異状あり

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ラスベガスで世界王座を獲得した尾川堅一(写真:HBO)

連続金メダル対決はロマチェンコが圧勝

 ボクシングの130ポンドクラス(スーパーフェザー級)の世界タイトルマッチと重要試合が9日(日本時間10日)アメリカの東西で行われた。東のニューヨーク、マジソンスクエアガーデンの試合ではワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)がギエルモ・リゴンドウ(キューバ)に6回終了TKO勝ちでWBO世界スーパーフェザー級王座を防衛。注目度が高かったオリンピック連続金メダリスト対決は村田諒太vsアッサン・エンダム2に似た結末でロマチェンコが圧勝。西のラスベガス、マンダレイベイ・リゾート&カジノでは帝拳ジム所属の尾川堅一がテビン・ファーマー(米)に2-1のスプリット判定勝ち。決定戦を制しIBF同級世界王者に就く殊勲を上げた。

 ラスベガスのメインでは元WBOフェザー級&スーパーフェザー級王者オルランド・サリド(メキシコ)が今年1月、三浦隆司に最終回KO負けしたミゲル“ミッキー”ローマン(メキシコ)に3度倒され、9回TKO負け。同じく三浦、サリドと死闘を繰り広げた前WBC王者フランシスコ・バルガス(メキシコ)が上位ランカー、スティーブン・スミス(英)に9回負傷判定勝ちで再起を飾った。

リゴンドウにはブーイング

 ロマチェンコvsリゴンドウは勝敗予想は下馬評どおりだったが、「好ファイトが展開される」の期待は残念ながら外れた。“ハイテク”のニックネームを持つウクライナ人がワンサイドの攻防からキューバ人をギブアップさせたものだが、棄権をリクエストしたのは村田戦でエンダムのチーフセコンドだったペドロ・ディアス・トレーナー。今回は拳の負傷を言い訳にしたが、信ぴょう性は薄い。勝者のロマチェンコをして「これはビッグな勝利とは言えない。(リゴンドウは)体重も体格も小さい。ボクシング好きのファンは喜んだかもしれないけど、私にとっては普通の試合と変わりない」と言わしめたほど。40万ドル(約4400万円)のファイトマネーを得たリゴンドウにはファンや関係者からネット上で批判的な言葉が浴びせられている。

 これで4試合連続、挑戦者の棄権によるTKO防衛のロマチェンコは相手の戦力を低下させ、士気をくじく天才といえる。これだけ「参りました」と言わせる試合が続けば今後、対戦相手探しに苦労するのは明らか。マイキー・ガルシア(米)、ホルヘ・リナレス(帝拳)と1階級上のライト級王者とのビッグマッチがクローズアップされる。この3人の組み合わせはどれもスーパーファイト。来年18年、いずれかが実現してほしい。

リゴンドウ(右)を圧倒し棄権に追い込んだ”ハイテク”ロマチェンコ(写真:Top Rank)
リゴンドウ(右)を圧倒し棄権に追い込んだ”ハイテク”ロマチェンコ(写真:Top Rank)

36年ぶりに世界王座奪取

 尾川vsファーマーはタイトルホルダーだったジェルボンタ・デイビス(米)が8月の防衛戦で体重オーバーし王座をはく奪されたことによる決定戦。予想どおり試合は守るファーマー、攻める尾川という展開に終始。コンピュータ集計ではサウスポーの技巧派ファーマーが59発多くパンチをヒットしたが、公式スコアは116-112、115-113(尾川)、116-112(ファーマー)で右強打を振るい続けた尾川に凱歌が上がった。

 尾川(23勝17KO1敗)は元WBAジュニアミドル級王者の三原正以来、36年ぶりに日本人選手が米国で世界王座を獲得する快挙。また名門帝拳ジムで初めて赤いベルト(IBF)を獲得したボクサーになった。相手がスター候補のデイビス(19勝18KO無敗)ではなく、叩き上げで世界的に無名のファーマー(25勝5KO5敗)だったのはラッキーだった。それでもインタビューで開口一番「チャンピオンになれたことが全て」と語ったように、今後、米国リングで活躍の場を構築するチャンスをつかんだ。これまで挙げた選手や強豪相手の試合が話題を集めることだろう。

 帝拳ジム本田明彦会長によると、すでにバルガスから対戦オファーが届いているという。パンチャーの尾川はテクニシャンのファーマーより、メキシカンスタイルの方がかみ合うと推測される。15年11月、三浦との倒し合いを制したバルガス。先輩三浦のリベンジに燃える尾川――という設定も胸が躍る。

三浦に倒されたローマンが復活

 同じリングでローマン(58勝45KO12敗)がサリド(44勝31KO14敗1無効試合)に引導を渡した(試合後サリドは現役引退を発表)のはサプライズだった。今年1月、三浦の強打に沈んだ時は控え室で意気消沈。6月に地域王座を獲得して再起したローマンだが、今回は完全なBサイド(引き立て役)。メキシコを離れ、ロサンゼルスでルディ・エルナンデス・トレーナーに師事したことが実を結んだ。

 ローマンを倒した三浦は、バルガスをストップして戴冠したミゲル・ベルチェルト(メキシコ)に7月挑んだが、大差の判定負け。同月末、引退を発表した。もうリングの勇姿が見られず惜しむファンも多かったが、こればかりは本人の意思を尊重するしかない。

 それでもローマンが復活したことは三浦の闘争心を刺激するのではないだろうか。ローマンはベルチェルト挑戦が濃厚。そこでもしローマンが勝てば、三浦はより復帰に心が動くと想像される。米国で名を売った三浦だけに本場ファンの期待も募る。今回、尾川が快挙を成し遂げたことも三浦を“その気”にさせる材料になるだろう。

サリドを激闘の末TKOで破ったローマン(右)。強敵相手にサバイバル(写真:HBO)
サリドを激闘の末TKOで破ったローマン(右)。強敵相手にサバイバル(写真:HBO)

内山の心も動く?

 現に尾川vsファーマー戦の直後、本田会長は「これでは三浦も内山もやりたくなるだろう」と冗談交じりに発言。内山とはもちろん、三浦と同時期引退を決意した元WBAスーパーフェザー級“スーパー”王者の内山高志のこと。内山からタイトルを奪い、再戦でも連勝したジェスレル・コラレス(パナマ)が10月の防衛戦で体重オーバーしたあげく、アルベルト・マチャド(プエルトリコ)にKO負け。スーパーフェザー級史上屈指の名王者に昇華した内山の王座が重みを失っている。“KOダイナマイト”が名誉復活をかけて腰を上げることだってあるかもしれない。

 一方リゴンドウを一蹴し、一息つくかとも思えたロマチェンコだが「ビッグファイト、ビッグネームを私は求めている。いつでも準備オーケー」と胸中を明かす。もし130ポンドにとどまれば、来年中にデイビス戦が実現するとも噂される。トラブルに巻き込まれ重罪が科される可能性もあったデイビス(23歳)は幸い無罪放免となった。これを真摯に受け止め、節制を怠らずトラブルを回避すれば彼の前途は洋々だ。

 バトルロイヤル状態のスーパーフェザー級に今回、尾川が参入。そこへ引退を撤回した2人の元チャンピオンが加われば、ますますヒートアップすること間違いなし。無敵ロマチェンコに土がつくことだってありうる。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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