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「注射なんてしていないよ」薬物疑惑のルイス・ネリを直撃インタビュー

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
練習中、山中戦の写真と記事に見入るネリ(Photo:筆者)

 2時間以上も待っている。メキシコ・ティファナのサングレ・ヌエバジム。WBCバンタム級王者ルイス・ネリをインタービューしようとアポを取ったのだが、さっぱり本人が現れない。ネリのトレーナーでジムを主宰するイスマエル・ロドリゲス氏は3度ぐらい催促の電話をかけている。その都度「すぐそっちへ向かう」と言うのだが、どうなっているのか。ロドリゲス氏が言う。「いつもこうなんだ。ヤツは約束を守らない。アマチュアの時から変わっていない」

 メキシコ人の気質に慣れている私は、スッポカされるのではとも思ったが、試合まで1週間あまり。練習をサボることは考えられない。ジム到着時、高かった陽が沈み、夜のとばりが降りた時、バッグを肩にかけたネリがやってきた。山中慎介に挑戦する前、彼を取材した時期は試合まで間隔があり、まだふくよかだったが、今回は試合間近で体が締まっている。

問題って何だい?

 早速、「話を聞きたい」とリクエストすると「練習前の今がいい」とネリは返答。拳にバンテージを巻く王者の前に座りノートを広げた。しかし紙にペンが走ることはなかった。予想はしていたが、同じ人物とは思えないほど、口数が少ない。シー(イエス)、ノー、沈黙の3パターンで押し通す。

――あなたには不本意かもしれないけど、どうしても例の問題について質問しなければなりません。

ネリ(以下Nと約す)「例の問題って何だい?」

――ドーピング違反に関して。

N「・・・・・・」

――WBCが薬物検査で陽性反応が出たと発表した時、どんな気持ちがしましたか?

N「私は注射なんかしていないよ。何にも。問題は肉だけだ」

――これまで弁解しているように検査前に食べた肉に混入されていたと。

N「そういうこと」

――発表後、トレーニングに集中できないとか影響はありませんでしたか?

N「ノー。全然変わりない」

――11月4日、ノンタイトル戦を行いますが、その後処分が下る心配はない?

N「ノー」

――やはり肉、あるいは他の食料に(違反物質ジルパテロールが)入っていたと信じている?

N「もしかしたら日本で計量後、食べた肉が原因だったのかもしれない」

 「それはいくら何でも違うだろう」と言いそうになった。今まで報道されているように山中の所属する帝拳ジムが米国の機関VADA(ボランティア・アンチドーピング機関)に依頼した検査は7月27日に実施されている。山中戦の半月以上前の出来事だ。そしてネリには唯一の希望と思われたBサンプル(検体)も米国のリング誌の報道では陽性反応が出ている。

開き直るネリ

――再検査の結果もあなたに不利なものだったが。

N「そりゃそうだろう。同じ肉を食べたのだから」

――あなたの所属するサンフェル・プロモーションズはソーシャルメディアでリング誌の記事に反論してましたね。

N「そうだった?知らなかった」

――今回WBCが試合出場の許可を出した理由は何でしょう?

N「よりアクティブに活動できるように配慮してくれたから。それだけだよ」

――相手のアーサー・ビジャヌエバ(フィリピン)はWBCランキングに入っています。もしドーピングの問題が発生しなかったら、タイトルマッチになっていたのでは?

N「たぶん、そうだろう」

――今回の試合に向けて練習を開始したのはいつ頃?

N「山中に勝ってからすぐ私はトレーニングを始めていた」

――山中陣営はあなたとの再戦が実現するなら、リングに復帰させると言っています。リマッチに応じますか?

N「シー」

――山中にメッセージはありますか?

N「何もない」

――相手が山中あるいは別の挑戦者になるにせよ、防衛戦はいつになりますか?

N「来年2月、いや3月頃を予定している」

――いったい、真実は何だったのですか?

N「だから私は注射はしていないし、錠剤も飲んでいない。それだけ」

3000万円超なら山中と再戦する

 質問よりも相手の回答が極端に少ないのはインタビュアーとして失格だ。応答の最中、何度もネリは「何でそんなことを聞くの?」という態度を示した。最近のニュースではネリに制裁は下らないともいわれる。事件は迷宮入りの様相も呈している。

 この日のネリは10ラウンズのスパーリングを行った。パートナーは一人。後半の4回はヘッドギアをつけず、それでも激しい打ち合いを披露した。試合を前にケガでもしたらと心配したが、山中戦を彷彿させるノンストップ連打を見せ、さすがと思わせた。

途中からヘッドギアを外してスパーリングを始めたネリ(Photo:筆者)
途中からヘッドギアを外してスパーリングを始めたネリ(Photo:筆者)

 練習後、雑談していると最初むっつりだったネリがニコニコしながら言った。「山中はカムバックするのか?」

――ルイス・ネリと対戦するオプションのみで……。

N「そうかい。それは光栄。でも彼らに言ってほしい。ファイトマネーは30万ドルだ。それ以下では絶対に応じられないと」

――強気ですね。

N「プラス、夜のツアー付きで。相撲も観戦したい」

 何という慢心。薬物問題なんてどこ吹く風。「日本には井上尚弥もいる」と突っ込むと「井上がバンタム級に上がるのは歓迎。彼もノックアウトする」と息巻いた。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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