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ゴールデンボーイの復活劇。和毅も手中に?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員

ラスベガスで12日行われたカネロ・アルバレス-エリスランディ・ララ戦のセミファイナル、元軽量級3階級制覇王者アブネル・マレスの再起戦。5ラウンドが終了すると会場のMGMグランド・ガーデン・アリーナに大きなどよめきが起こった。主催ゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)の広報担当に先導されて入場したのはサッカー、メキシコ代表のGKギジェルモ・オチョアだった。

ブラジルW杯の1次リーグ、相手のエース、ネイマールのヘディングシュートを右腕をいっぱいに伸ばしてセーブしたシーンを記憶している方も多いだろう。大歓声と“オチョア・コール”で迎えられたメキシコの守護神はプロモーター、オスカー・デラホーヤ氏と試合を観戦。サッカーとボクシングは異質なスポーツだが、メキシコ系のファンはこよなく2つの競技を好む傾向がある。W杯でファインセーブを連発して一躍、時の人となった男を招待した効果は抜群。イベントの盛り上がりを絶妙に“アシスト”した。

そういえばサンディエゴでキャンプを行っていたカネロ・アルバレスをメジャーリーグの始球式に登場させたのもデラホーヤ氏だった。カードは地元のパドレスとロサンゼルス・ドジャース。ドジャースの主砲アドリアン・ゴンサレスはメキシコ系。2人の対面が実現し、カネロ戦のプロモーションに一役買った。

ゴールデンボーイ、デラホーヤが再び表舞台に登場してきた。再び――というのはアルコールとドラッグ依存症に悩まされ、回復施設でリハビリに努めた時期があったからだ。華麗な現役時代を送り、引退後はGBPを興して順風満帆。しかし、あまりにも人生航路が順調だと人間、破綻を起こすものらしい。デラホーヤ社長の不在時にGBPを運営し、名声を獲得したのがリチャード・シェーファーCEOである。GBPの両輪だった2人だが、「庇を貸して母屋を取られた」のたとえ通り、シェーファー氏が権力を持ちすぎたことで復帰したデラホーヤ氏との間でトラブルが勃発。6月上旬、シェーファー氏が辞職し、独立する動きを見せている。

元銀行家シェーファー氏にはアル・ヘイモンという強力な仕掛け人が控えており、現役最強フロイド・メイウェザーとの関係も緊密。今後選手の引抜きなどGBPが困難な立場に立たされることも推測される。

そんな逆風が吹く中“シェーファー抜き”で初めて挙行されるビッグイベントが今回のカネロ-ララだった。だが終わってみれば、以前のGBPの興行と何ら変わらない印象。むしろデラホーヤ氏の名プロジューサーぶりが目立ち、改めてゴールデンボーイ・ブランドの底力を見せ付ける結果となった。あとはペイパービュー(PPV)でどれだけの数字が残せたかが焦点となる。

PPVといえば、カネロ戦も含めた4試合が今回、全米に放送された。その前に行われた亀田和毅-プンルアン・ソーシンユー(タイ)のWBO世界バンタム級戦は視聴者が別料金を払うPPVではなく、通常のショータイムが放映した。ここで亀田家三男が一世一代のパフォーマンスを披露。元王者にて現在もこの階級のトップクラスと位置づけられるタイ人を左レバー打ち一発でクリーンKOしたのだ。

惜しむなくは、もしPPVの第1試合にでも流れていれば、米国に与えるインパクトは相当違っていたはずだ。また試合中、日本人ファンの応援が目立ち、多数のファンが酔いしれたとは言いがたい。それでもこの日行われたカードの中ではもっともセンセーショナルでスペクタクルなファイトだったことは疑いの余地がない。

メキシコでデビューした和毅はトレードマークのルチャリブレのマスクを着用してリングイン。エル・メヒカニート(リトル・メキシカン)のニックネームを持つWBO王者はリングアナ、ジミー・レノンJrから「フロム・トーキョー・ジャパン」といっしょに「メキシコシティ・メヒコ!」とアナウンスされ、彼の国際色の豊かさとたどった道のりを感じさせた。

今後、和毅のようなボクサーが本場で活躍するようになれば、日本リングに向けられる目も変化するだろうし、何よりに選手の実力向上につながるに違いない。試合後、日本人記者たちの取材を受けた和毅は「いい勝ち方ができたから今後につながるかなと。もし不細工な試合やったら「お前もう帰れ!」と言われるだけや。弱かったら相手にされへん。こっちは、そういう世界やから」と言い放った。

今回、和毅がリングに立てたのはメキシコのカネロ・プロモーションと以前関係があったことも影響した。確か試合中、御大デラホーヤ氏はリングサイドに不在だったはずだが、GBPのロベルト・ディアス・マッチメーカーら首脳陣が観戦。最高のパフォーマンスを披露しただけにデラホーヤ氏のお目にかなって、今後ビッグイベントに起用される可能性を出てくる。またショータイム・スポーツ社長スティーブン・エスピノサ氏の存在も大。英国のボクシング・ニュース誌選定「ボクシング界に影響力がある50人」特集で今年3位(昨年は1位)のエスピノサ氏が試合を熟視しており、何かしらの感銘を与えたのは間違いない。

亀田家の最終兵器がいよいよ本領を発揮し始めた。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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