「ジョブ型」は日本に定着するか? 連載(2)

「ジョブ型雇用」欧米の職務主義と日本の職能主義の違いから考察する必要があります。(写真:アフロ)

「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の違いとは何か?

前回の第1回に続き、第2回では、欧米型の職務主義(「ジョブ型」?)と日本型の職能主義(「メンバーシップ型」?)の違いについて、考察していきたいと思います。

連載第1回の記事はこちら:「ジョブ型」はなぜ日本に定着しなかったか 「ジョブ型」が必要とされている!?って本当?

「論理」の職務主義、「共感」の職能主義

私は、グローバル組織人事戦略のコンサルタントとして、19年間活動をしていますが、よくこのようなことをお話しします。

「論理」の職務主義と「共感」の職能主義、どちらもメリット・デメリットがありますねと。

さて、このことを理解するために、連載第2回では、職務主義と職能主義の違いについて、解説をしていきたいと思います。

職務主義と職能主義の違いを理解することが、「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の議論を理解するのに必要です。そして、「ジョブ型」でも「メンバーシップ型」でもない、第3の道はないのかを考える際にも、大変重要になってきます。

最近の新聞記事や、巷のコンサルタントが解説する「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への移行という話ですが、この記事を読んでもらってから、改めて考えていただきたいなと思って執筆します。

職務主義とは何か?

はじめに、日本以外の海外では一般的な「職務主義」とは、どのように考えられているかを解説していきます。

職務主義とは、まずは職務(Job)を定義して、定義された職務に対して、人を配属させる、報酬水準を決めるという考え方です。

誤解を恐れずに言えば、「人」よりも「職務」を先に検討するという考え方です。

職務主義のもとで人事制度を考える場合、まずは自社内にどのような職務があるのかを洗い出します。

そして、一定の基準に基づいて分類し、いくつかの職務に分解します。

例えば、製造本部長の職務、製造部長の職務、製造課長の職務、営業部長の職務、営業課長の職務、営業スタッフの職務・・・といった具合です。

そして、定義した各職務に関して、職務定義書(=英語圏では、Job Description)を作成します。

職務定義書では、求められる成果、責任、能力、守るべき事項などが詳細に記述されます。

職務定義書が定義されたら、その職務の労働市場価値(=Labor Market Value)がどのぐらいあるのかを査定します。これは、外部労働市場の調査などに基づいて設定されるのが一般的です。報酬額については、この調査に基づいて、採用競争力を持たせるために外部労働市場よりも高めに設置したり、コスト競争力を高めるために外部労働市場よりも低めに設定したりといった形で、経営判断により決定されます。

職務定義書と報酬水準が決まったら、そこに合う人材を探しにいき、配置(=assignment)します。

配置された人材は、職務定義書に基づいて目標設定をして、業務に取り組みます。

職務定義書よりも高い実績をあげれば評価され報酬も昇給しますが、職務定義書よりも低い成果で終わった場合には、報酬が上がらず、下がるまたは、解雇の対象になっていくという仕組みをとります。

これが職務主義の考え方です。

とても論理的だし、合理的な考え方だというのがわかると思います。

職能主義とは何か?

次に、日本で一般的だった「職能主義」とは何かを解説していきます。

職能主義は、誤解を恐れずに言えば、「職務」よりも「人」を先に検討するという考え方です。

職能とは、その人が仕事をする上で保有し発揮している「能力」のことです。

職能主義では、人物の評価を先にする訳です。

この人はどのようなことを実行できる人だろうかということが、評価の中心になります。

年功序列的で、社内で人を育てていく日本企業では、この職能主義がうまく機能しやすいというのがわかると思います。

職能主義のもとで人事制度を考える場合、まずは自社内でどのような成長の段階があるのかを検討します。

新入社員から一人前になって、その後に管理職になって、最後は幹部社員として活躍していく、といった個々人の成長モデルを考えて人事制度を検討します。

例えば、私がかつて所属していた都市銀行であれば、まずは、支店に配属されてOJTで支店業務全般を学んで、その後、融資の仕事を担当し、そこから各人の適性に応じて専門領域をつくっていき、役職者になって、幹部になって・・・、というように、成長段階を検討した上で、それを人事制度の考え方に落とし込みます。

職務主義との違いがわかりますでしょうか?

この違いは、報酬水準の決定や、評価制度のあり方にも影響を与えます。

報酬水準は、同一会社内での内部比較(同期間でどれだけ差をつけても許されるか)や、生涯賃金モデル(会社の中でどのように昇給しどのようなワークライフを過ごせるか)なども検討しながら、決定していきます。

評価制度は、同一会社内で頑張った人と頑張っていない人の違いはどういうところにあるのか、実績で比較するのか、能力で比較するのか、その他の貢献も考慮するのかなどといった具合に、検討されていきます。

一見すると「職務主義」も「職能主義」も微妙な違いなのですが、「職務」を先に考えるか、「人」を先に考えるかで、根本的な思想が異なっているのがわかりますでしょうか?

職務主義では、外部労働市場を強く意識しながら、自社の職務のあり方を検討します。

職能主義では、内部労働市場を強く意識しながら、自社の人材のあり方を検討します。

前者では、外部公平性(=社外に対して自社はどうなっているか)を大事にするのに対し、後者は、内部公平性(=社内において公正なものになっているか)を大事にします。

論理的な納得感か、共感的な納得感か、ここに本質的な違いがあります。

「職務主義」が常に他社と人材獲得競争を繰り返すのに対し、「職能主義」は自社内での内部競争による成長を期待します。

内部競争ですから、同期の中で誰が最初に課長になったか、といったことが、会社からの一人ひとりへの評価の差であったりします。

社内でうまく人と人を競争させながらも、全員で幸せになろうと協力関係を築いていく。

一つの「職務」につくことにこだわらずに、様々な「職務」を経験させながら、会社全体のことを考えて動いていく、そのような人材を内部でじっくり育てていくという考え方が根本にはあります。

「職務主義」が論理的で合理的なのに対して、「職能主義」はいささか人間的で協調的な感じがしませんか。

これが冒頭にお話しした「論理の職務主義、共感の職能主義」と言われる所以です。

そして、最近、「ジョブ型」と呼ばれているのは「職務主義」のこと。「メンバーシップ型」と呼ばれているのは「職能主義」のこと。このことが、少し深く理解できたのではないでしょうか。

さて、このあたり、話し始めると延々と語ってしまうことになるので、職務主義と職能主義の違いの説明はこの程度にとどめて、今回の本題である「ジョブ型雇用は日本に定着するのか?」という本題に戻していきたいと思います。

なぜ欧米企業は「職務主義」になり、日本企業だけが「職能主義」になったのか?

ここで考えたいのが、なぜ欧米企業が「職務主義」なのに対して、日本企業だけが「職能主義」だったのかという点です。高度成長期に日本企業が「職能主義」のもとで、なぜ急成長したのかということも考察が必要です。

「ジョブ型」と「メンバーシップ型」を議論する前に、もっと背景的な理解、本質的な理解が必要です。

このことは第3回で解説をして参りたいと思います。

そして、この連載の中で、「ジョブ型」でも「メンバーシップ型」でもない第3の道についても提言していきたいと考えています。

(つづく)