「ジョブ型」は日本に定着するか? 連載(1)

「ジョブ型」で上司と部下の関係も変わる?(写真:アフロ)

「ジョブ型」はなぜ日本に定着しなかったのか

「ジョブ型」が必要とされている?!って本当?

人事のテーマには流行があります。そして、流行というものは、その殆どが1年ぐらいで無くなっていきます。私の19年間の組織人事戦略コンサルティング人生を振り返り感じることは、「意図的に作られた流行はすぐに廃れていく、しかし、本当に必要になったときに、かつての流行は復活し、本来の意味と本質的な価値を持って、再び動き始める」ということです。「ジョブ型」はまさに、かつての一時的な流行が、今になって復活した取り組みと言えるでしょう。

復活した理由は一つ。

COVID-19の影響による働き方の変革、具体的には在宅勤務(テレワーク)の増加です。

・テレワークは本当に「ジョブ型」でないといけないのか?

・「ジョブ型」を導入することを検討する前にもっと大切なことを忘れていないか?

・「ジョブ型」でも「メンバーシップ型」でもない新しい働き方はあるのか?

そこまで、この連載では考えていきたいと思います。

「ジョブ型」とは職能主義から職務主義への転換

「ジョブ型」というのは、人事の教科書的にいうと、日本的「職能主義」から欧米的「職務主義」への転換です。職務主義というのは、職務(Job)を基軸にして、等級制度・評価制度・報酬制度といった人事制度を整備する考え方です。

例外はありますが、日本以外の国々では、職務主義が一般的です。

一方で、日本では高度成長期に「職能資格制度」と言われる職能主義の人事制度が導入されてきました。職能主義というのは、人間のもつ能力を基軸にして、等級制度・評価制度・報酬制度を設計します。

職務主義がどのような職務についているのかで処遇が決まるのに対し、職能主義はどのような人物なのかで処遇が決まります。

「仕事基準の職務主義」「人物基準の職能主義」といってもいいでしょう。

この職務主義=「ジョブ型」は、浅い理解のもとで導入をしても、うまくいかないものです。

人事は過去から、職務主義の導入を検討しては失敗してきました。

そこで、まずは、過去のジョブ型の流行を振り返ってみましょう。

「ジョブ型」が流行った時期は2度あります。

1回目の流行は成果主義の人事制度導入時

流行の1回目は、私がコンサルタントになったばかりの2000年頃です。この当時を覚えている方は懐かしい議論となるでしょうが、人事評価制度の分野では、日本に成果主義に基づく「目標管理制度」が導入され始めた時期です。また、キャリアデザインの分野では「自己申告制度」「社内公募制度」というものが導入され始めた時期です。

当時は、バブル崩壊の不景気を経験したあと、外資系企業による日本進出が拡大し、競争が激化していました。国際競争力を維持するために、日本企業の労働分配率の高さ、具体的には団塊世代の高すぎる報酬水準が経営問題になっていました。

そこで、従来の年功型の人事制度が見直され、成果主義の評価や報酬の仕組みが導入されていきました。具体的には「目標管理」が各社に導入されました。これがなかなかうまく機能していないのは皆さんがご存知の通りです。そして、同時に、自分のキャリアを自分で選択できる権利を与えるべきだという議論もこの頃ではじめました。一般職の総合職への職種転換や、総合職の地域総合職化など、各企業で様々な施策が導入されました。

この頃、まさに「ジョブ型」に転換を図る企業が現れていました。目標管理を導入し成果主義の人事評価をするには、そもそもの期待成果を明らかにしなければならない。そのためには職能主義では不十分で、職務主義に転換しなければならないということで、「ジョブ型」に転換しようという動きがみられました。

しかし、どうでしょう。その後、本質的な意味で本当の職務主義に転換できた会社は、日本では少ないと思いませんか?

「ジョブ型」をいれた後に戻した会社もあります。

なぜこうなるのか、ここを深く考えることが、いま「ジョブ型」を導入しようか検討している企業には考えてほしいポイントです。

この理由は第2回以降で詳しく述べていきたいと思います。

2回目の流行は人事分野へのICT活用時

2度目の流行は、じわじわと始まりました。人事分野へのICTの活用です。当初はLMS(Learning Management System)に端を発し、その後、TM(Talent Management)に進化。さらに最近ではHR TECHの文脈で語られるPA(People Analytics)に至る流れです。

人事分野のICTは欧米が先行していると一般的には言われています。これについては、欧米企業と日本企業の両方と直接話をしていると賛否両論があり、私は必ずしも欧米が先行とは思っていません。このことも連載の中で書いていきますが、本質的に違いがあるといった方が良いと考えます。

ICTによる流行を理解する際に大切なのは、これらICT活用には明確な「人材の定義」が必要ということです。職能主義と職務主義でここに違いがでます。

職能主義の人事制度は、人材の定義が曖昧になりがちです。人間の能力というのは、職種によっても違うし、上司や同僚の質によっても求められるものは変わってきます。つまり、定義が難しいのです。人間は100名いれば100通りの能力発揮の仕方があります。一律の定義に馴染まないのです。結果的に、職能主義の基準は曖昧な定義となります(次回連載以降で書きますが、「曖昧は悪い、明確が良い」ということにしがちですが、本当にそうでしょうか?)。

一方で、職務主義は仕事内容に関する定義なので、比較的に明快に定義できます。このポジションに求められる成果は何で、求められる経験は何で、部下の人数はどれぐらいで、守らなければならないルールはどうで・・・と、Job毎に定義していけば良いのです。

これが、ICTの活用には有益です。

ICTの目的の一つであり、重要なゴールが「見える化」です。

明快な定義をもつ職務主義の方が、ICTの有用性が生きるのです。

そこで、ICTベンダーが主導して、欧米型の職務主義への転換を求める声、提案が増えてきています。

これが2回目の流行で、現在進行中で、今も議論されています。

さて、2回目の流行はうまくいっているのでしょうか?

今のところ、この流れに乗ってうまくいったという例が、日本企業に多いとは言えません。

1回目の流行も2回目の流行にも欠けている視点があります。

それが、「ジョブ型」を考える際に非常に重要な視点だと考えています。

連載の中で答えを導き出していきたいと思います。

COVID-19によるテレワークの浸透は「ジョブ型」の本格導入に繋がるか?

そして、今回。

COVID-19による「ジョブ型」の導入検討が始まりました。

3度目の流行で終わるのか、本質的な改革となるのか、

私の意見としては、

「等級・評価・報酬など人事制度の導入だけではうまくいかず、単なる流行に終わる」

ということです。

経営のあり方と組織文化のあり方、つまり、もう少し視座をあげたところから観察することが必要です。

もしかしたら、今回は本質的な改革となり、日本企業が主導して世界に伝えていける、新しい人類の働き方を提示できるかもしれません。

このことを考えるために、日本型雇用と欧米型雇用の違いを、体系的に理解することも重要です。

そこで、第2回では、この違いを俯瞰的に理解しながら、果たして「ジョブ型」が本当に日本企業に導入できるのか、新しい人類の働き方を提示できるのか、私の考え方を示していきたいと思っています(つづく)。