日本の採用市場に革命を起こす「タレントプール」という新たな採用カルチャー

これからの日本の採用はどうなるの?(写真:アフロ)

日本的雇用慣行の中核は新卒一括採用と終身雇用

 世界の人材マネジメントを俯瞰してみた時に、日本の雇用慣行で最も特徴的なのは、新卒一括採用と終身雇用です。学校を卒業する前に一斉に就職活動が開始され、卒業後の4月1日に、ほとんどの学卒者が、一生涯を勤めるつもりで入社式に臨みます。このことを、海外の人事プロフェッショナルに説明すると、一様にして驚かれます。海外では新卒一斉採用という文化はほとんどないからです。しかし、日本の大企業では、新卒一括採用によって獲得した人材を、OJTで大切に育てながら、内部競争(例:同期の間で誰が一番に課長になれるか・・・等)をさせつつ、階層別研修などで会社や職務に対する忠誠心を高めていくというマネジメントを、高度成長を背景に継続してきました。どのような「仕事」を任せるかよりも、どのような「人」を取るかを採用基準にしているのが、日本の雇用慣行の特徴です。

欧米の人材マネジメントは職務主義が基本

 一方で、欧米を中心とするアングロサクソンの人材マネジメントは、職務主義が基本であり、ポジション毎の職務定義(ジョブディスクリプション)に基づいて人材を採用・配置・育成・処遇していく仕組みが一般的です。「人」を基準に処遇する日本的な職能資格制度とは異なり、職務主義のもとでは「仕事」を基準に処遇します。そのため、人を採用する前に、先に仕事を定義します。そして、定義された仕事ができるかどうかが面接で問われます。採用されてからも、職務定義で記述された内容が実行されているかどうかが常に問われ、実行できていなければ解雇するというのは一般的です。つまり、「人」基準ではなく、「仕事」基準で人材採用や処遇を決めているのです。

職務主義のもとではタレント獲得競争が激化

 職務主義の人材マネジメントでは、労働市場が職務別に存在します。例えば、「流通業でのマーケティングマネージャーの職務」「広告業における経理事務の職務」といった具合に、職務内容に応じた労働市場が形成され、需要と供給の関係で、需要が少なく供給が多い職務においては、人材不足の影響で給与水準も高まるといったことが起こります。その結果、特定の分野での人材獲得競争が激化していきました。人材獲得競争が激しく、この競争に勝った企業がビジネスにおいても勝利するという時代が続きました。経営コンサルティング会社マッキンゼーがこの状況を「War for Talent(人材獲得競争)」と表現してから、Talent Management(人材管理)の重要性が、意識され始めました。私の知人の英国人は、人事の役割はTalent Pool Development(人材プールの開発)であると定義していると話をしてくれたこともあります。人事部門は、人材獲得競争で勝ち続けるために、募集したい職種をすぐに採用するためのプールづくりにまで役割を広げていったのです。そして、一度面接を受けにきたけれども、タイミングが合わず採用できなかった優秀な元応募者や、過去にその会社に勤めていたけれども諸事情により退職してしまった優秀な元社員を、コミュニティとして保持することで、将来の募集に備えるといった活動を開始しました。またいつかタイミングが来るという考え方で、人材のデータベースを保持して、時々連絡をしたり、イベントに招待したりすることで、優秀人材との関係性を維持していこうとしたのです。これが、タレントプールの始まりです。

タイミングの不一致が課題

 一方で、求職者側に目をやると、いざ転職活動を開始しても意中の会社で人材が充足している場合には、募集を停止されています。そして、その会社が再び募集を開始するのは、当該ポジションの人材がいなくなった時というのが普通であり、それがいつになるのかはわからないため、そのタイミングで募集をしている企業の中から就職先を選びます。そのため、求職者側からするとタイミングが合うかどうかというのも、採用意思決定の重要な要件でした。

タレントプールという概念の誕生

 タイミングが悪かった人もコミュニティとして関係を維持しておきたいという求人側のニーズと、転職したいと思ったタイミングではなくてもお気に入りの企業からのオファーがあったら検討したいという求職者側のニーズの両方を満たす必要があったのです。そこで、求人側が採用したいタイミングと、求職者側が就職したいタイミングが合わないという大きな課題を解決するために、「タレントプール」と呼ばれる概念ができあがりました。これは、求人側と求職者側との間で起こる「タイミングの不一致」をなくすために、求人側も求職者側も、その企業やその人材について関心がお互いにあれば、お互いのつながりを保っておき、良いタイミングが来たら一緒に働きましょうという考え方を持ったコミュニティを作るというものです。

採用にマーケティングの要素を取り入れる

 タレントプールを導入するということは、採用にマーケティングの考え方を取り入れるということです。つまり、自社のことを好きだと思ってくれるような、転職潜在層を引きつけ魅了し続けることが必要になるからです。タレントプールにできるだけ多くの人たちが登録してくれることが重要です。そこで、転職潜在層も含めて多くの人材に、自社のことを知ってもらい「いつかは入社したい」と思ってもらうことが必要です。これは、一般的な商品やサービスのマーケティングにおいて、潜在的な購買層に対して、自社商品や自社サービスの優位性を理解してもらい、購買はしないまでもファンになってもらっておくために無料会員になってもらうというような手法と同じです。転職潜在層にアプローチするのが、タレントプールでは重要なのです。

では、タレントプールとは一体どういうものか?

 タレントプールは、自社への転職潜在層のデータベースだと言っても良いでしょう。通常、採用活動は広く採用広告を活用するか、専門会社が持っているデータベースにアクセスして出会いの機会を求めます。しかし、タレントプールという考え方を取り入れた会社は、自社でこのデータベースを持つことになります。つまり、自社で専門会社が持っているようなデータベースを構築していくというのがタレントプールで実施することです。このデータベースには、登録者との過去のやりとりの履歴や、登録者の経歴やスキルに関する情報、過去に面談したことがあればその時の面接者の評価など、全ての情報が蓄積されます。そして、一人ひとりにランク付けや分類のフラグをつけて、例えば、「すぐ採用したい」というフラグをつけた人には積極的にメールを一斉配信するなどといったことをしていきます。自社のファンとして登録してくれた人を、さらに強いファンとなってもらうために、データベースに対して様々な施策を行なっていきます。

タレントプール構築による効果

 企業が自社のタレントプールを構築することによる効果は3つです。まず第1に優秀な人材の安定確保、次に採用活動の短期化、最後に採用コストの削減です。優秀な人材の定義は企業によって様々ですが、自社の経営理念や経営方針を理解しており、自社の求めるスキルやマインドセットを持っている人材を確保したいというのであれば、タレントプールによる採用は有効に機能します。タレントプールに登録している人材に対して、経営理念を説明する機会を設けたり、中期計画が発表されたら株主に説明するようにタレントプール登録者にも説明したりといったことを実施することで、自社のことを理解している採用候補者を増やしていくことができます。次に、採用活動の短期化もタレントプール導入の目的の一つです。一般的な採用活動では、現場からの募集要件の収集、募集要項の作成、広告記事のデザイン、その後、各種媒体への掲載依頼をして募集開始と、募集までの期間だけでも数週間を費やしてしまいます。そして、そこから応募書類のスクリーニング、採用面接の連絡、面接、合否判定と、さらに数週間を費やしてしまいます。ところが、タレントプールを採用していれば、このプロセスは短縮化できます。タレントプールを保持している企業では、現場が人材を必要とした時に、直接、タレントプールのデータベースを検索したり、直接メッセージを送信したりすることで、すぐに意中の人材を見つけすぐに内定、仕事開始と進めることができます。さらに、人材紹介会社を多用している企業であれば、タレントプールを構築しておくことで、人材紹介会社に紹介される前に人材と接点を持つことができ、人材紹介会社を使わずして採用ができるという利点があります。

採用ブランディングと積極的なコミュニティ活動の実施が肝

 タレントプールをつくっても、そこに人が集まってくれなければ、何も機能しません。そのため、タレントプールという考え方をいれるのであれば、採用ブランディングによるタレント登録者の増加と、登録してくれたタレントに対する積極的なコミュニティ活動が必要になってきます。

採用ブランディングで優秀なタレント登録者を増加

 タレント登録者が増加すればするほど、採用活動に良い影響を与えますが、採用活動の質を高めるためには、その企業が本当に必要とする優秀な人材にタレント登録をしてもらう必要があります。そこで重要になってくるのが、採用ブランディングです。採用ブランディングとは、その会社の採用活動におけるブランド価値を高める活動です。有名企業でない限り、採用ブランディングがしっかりとなされていないと、タレント登録者は増えません。

 採用ブランディングで最初に実施することは、採用候補者のターゲット設定です。どのような候補者がタレント登録してもらえたら良いのか、ターゲットを明確に定義します。例えば、「権限移譲を好み社長との距離が近い会社に入りたい人材」といったように具体的に定義すると効果的です。特に、知名度が低い企業や中堅中小企業においては、有名企業や大企業と同じようなターゲットを設定していては優秀な人材を確保できません。自社ならではの特徴を持ったターゲット設定をすることが有効です。

 ターゲットが決まったら、ターゲットに訴求するコンセプトを決定します。コンセプトは、その会社独自の尖ったものを設定します。例えば、先ほどの「権限移譲を好み社長との距離が近い会社に入りたい人材」をターゲットにするのであれば、そのような人材がファンになるようなコンセプトとして「任せる」といったコンセプトキーワードを決定します。コンセプトはできるだけ短い言葉で定義することが有効です。

 コンセプトを決めたら、次にタレントプール登録候補者に訴求するためのプロセスを設計します。タレント登録から採用決定、内定、入社に至るまでのプロセスをコンセプトに従って決めていきます。例えば、先ほどのケースで言えば

「任せる」採用フローとして、タレント登録と同時に仕事の一部を任せてもらい体験できるというようなプロセスを設計します。従来の採用プロセスにこだわらずに、自社同時のファンづくりのためのプロセスを設計しましょう。このように、タレントプールを構築する際には、採用ブランディングの活動が必要になってくるのです。

タレントプールのコミュニティを活性化させる

 タレントプールはつくるだけでは、人材データベースが徐々に陳腐化してしまいます。タレント登録者が登録したことすら忘れてしまうこともあるでしょう。そこで、大学の同窓会のように、定期的にコミュニティ活動をすることで人材データベースの品質は維持・向上していく必要があります。例えば、業界の勉強会をしたり、社員との交流会などを実施すると良いでしょう。勉強会や交流会に参加するための要件としてタレント登録することを条件としておけば、勉強会や交流会を通じて、タレントプールのデータベースは拡充していきます。また、社員との交流機会をつくることで、必要な人材候補を選別しておくこともできます。採用担当者の役割として、新たにタレントコミュニティの活性化という責任が追加されるのです。

私の周囲には、日本にタレントプールの考え方を浸透させるべく、行動している人事プロフェッショナルが複数います。

今後、日本にこのような動きが加速することを期待しています。

以上