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これからの教育担当者に必要な5つの能力 連載(4)情報活用と異文化対応

三城雄児治療家 ビジネスブレークスルー大学准教授 JIN-G創業者

連載企画 これからの教育担当者に必要な5つの能力

(4)情報活用と異文化対応

前回までに記述した「プロジェクトマネジメント能力」と「問題解決能力」に加えて、人材開発部門に重要な能力として「情報活用能力」がある。ここでは、情報収集能力とは言っていないことに注目して欲しい。今は、さまざまな情報が飛び交っているため、情報を収集するのはたやすい。しかし、あまたある情報から、事業に活かせる重要な情報を見つけ出し、その情報をもとに新たな方針を打ち出して施策を実行する能力が求められている。重要な情報とは「変化」の情報である。この変化をいかに早く把握して対応してきたかが問われるのである。

皆さんの会社では、この5年間に人材開発に起こった変化に対して、どのような方針を打ち出し、施策を実行してきただろうか。ここで、実際に人材開発にこの5年間で起こった5つの変化を振り返りながら、今、人材開発部門が実行すべき方針と施策を洗い出してみよう(図表4)

(図表4)

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人材開発に起こった変化として、第1に、前述の調査結果からも伺えたが、知識技能修得型の従来型の研修よりも、成果創出型のプログラムが重視されるようになってきたことが挙げられる。第2は、階層別の一律型よりも選抜型のリーダー育成型が増えたこと。そして第3に、理念や価値観の浸透を目的とした教育プログラムが増え、IQだけでなくEQの強化にも力を入れ始めたこと。以上の3つの変化により、多くの企業において、一般的、汎用的な教育はeラーニング等の低コストコンテンツでまかなわれるようになり、企業独自の教育に予算が割かれるようになった。第4として、LMS(Learning Management System)や社内SNS等のコミュニケーションツールの導入など、学習環境をいかにつくるかに力を入れられ始めたのもこの5年間の動きである。そして最後に、タレントマネジメント(Talent Management)という概念が入ってきてから、1人ひとりの才能をいかに把握して活用するかというアプローチがとられるようになってきた。

こうした「変化」を振り返ってわかることは、人材開発部門に今、以下のようなチャレンジが課されていることである。

・自社独自のコンテンツの開発機能を持つこと

・経営理念やビジョンの浸透機能を持つこと

・従業員全員の知識、技能、経験を把握し、次世代リーダーを発掘・育成すること

・自律的に学習を促す環境づくり(学習環境デザイン)を進めること

・社内のインフォーマルなコミュニケーションの量を増やすこと

情報活用能力を活かして、上記のような課題を発見し、施策を実行している人材開発部門の会社と、毎年同じような汎用的教育研修プログラムを提供して、出席者管理を専らの仕事としているような人材開発部門の会社では、組織に備わっている人材開発力がまったく異なってきていると感じる。

人材開発部門の情報活用能力を測るためには、図表5のチェックリストを使ってみて欲しい。もし、チェックが少ないようならば、もう少し情報収集と活用の機会を貴社に増やしても良いだろう。

企業独自の教育プログラムが増え、海外を含めたグループ企業全体にそれらを浸透させようという動きも始まっている。昨今は、コア人材への外国人登用も増え、新卒採用における日本人比率も徐々に下がってきている。

(図表5)

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また、LMS等のシステムが入ることで、企業の人材開発をグローバルに展開できる能力が飛躍的に高まっている。世界中の人材に共通の価値基準を浸透させ、優秀な人材を世界中から発掘し、必要な地域に配属するといった人材マネジメントが可能になってきた。これにより、企業の人材開発担当者は、これまでのように「日本人・男性・正社員」を想定して設計した一律の教育プログラムで満足するのではなく、国境、人種、言語、世代ギャップ、伝統の壁を乗り越えて、教育を設計する必要性に迫られている。ここで必要になるのが「異文化・ダイバーシティ対応能力」である。

ここまで述べてきた4つの能力に加え新たな施策を現場社員に浸透させ、現場の意識を変革していく「チェンジマネジメント能力」を足した5つの能力を開発することが、今、人材開発部門には求められている。5つの能力をそれぞれ1つずつ身につけていくのも有効だが、これらの要素をすべて盛り込んだ研修プログラムを用意して、自部門に実施することを検討してはどうだろうか。そのためには、過去のやり方から発想するのではなく、ありたい姿を議論することが重要である。非日常空間を作り出すために合宿形式で、人材開発力=企業価値を高めるために自部門ができることを徹底的に考え抜く研修を自ら企画・実行されてはどうだろうか。

治療家 ビジネスブレークスルー大学准教授 JIN-G創業者

早稲田大学政治経済学部卒業。銀行員、ベンチャー企業、コンサルファームを経て、JIN-G Groupを創業。グループ3社の経営をしながら、ビジネス・ブレークスルー大学准教授、タイ古式ヨガマッサージセラピストの活動に取組む。また、会社員としてコンサルファームのディレクターとしても活動し、新しい時代の働き方を自ら実践し、お客さまや学生に向け、組織変容や自己変容の支援をしている。組織/個人に対して、治療家として、東洋伝統医療の技能を活用。著書に「21世紀を勝ち抜く決め手 グローバル人材マネジメント」(日経BP社)「リーダーに強さはいらないーフォロワーを育て最高のチームをつくる」(あさ出版)がある。

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