仕組みや状況・対策は …… 新型コロナの変異ウイルスとは?いま分かっていること(2021年5月2日)

画像制作:Yahoo! JAPAN
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 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異ウイルスが非常に話題になっています。

 様々な情報が飛び交っており、その中では専門用語やそれらしきもの、様々な概念も出てきています。あまりに多くの言葉や情報があり、実際に起こっていることや懸念されることはどこなのか、正確に把握しにくい状況も続いています。ここでは変異ウイルスについて基本的なことをまとめたいと思います。

 この記事の結論を先に書いておきます。

 変異ウイルスについて正しく知ること、騒ぎすぎないこと、予防策はこれまでどおりのことをしっかりと行っていくこと、この3つが大事であるということです。

 それでは順番にみていきましょう。

新型コロナウイルスの構造と変異の仕組み

 新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) は、エンベロープという脂質(アブラの成分)でつくられた膜のなかに、自らの設計図(ゲノム情報といいます)を書き込んだ一本鎖のRNA(リボ核酸)などを容れた構造をしています。そしてエンベロープ上にはスパイクタンパク質という突起のような構造をしたタンパク質が多数突き出しています。

新型コロナウイルス SARS-CoV-2 の構造
新型コロナウイルス SARS-CoV-2 の構造

 新型コロナウイルスはヒトの細胞を乗っ取り、その機能を利用して自分を増やしていきます。その流れは次のようなものです。まず、ヒトの細胞表面にあるタンパク質(ACE2という分子)に、ウイルス表面のスパイクタンパク質を利用して取り付きます。その後、細胞内に入り、自分の設計図を書き込んだ RNAを放出します。そして、そのRNA自体をコピーしつつ、そのRNAから様々な自分の成分となるタンパク質をつくらせます。そして、新たなウイルスを組み立てて細胞から出ていきます。この繰り返しによって体の中で急速にウイルスの数が増えていくことになります。

新型コロナウイルス SARS-CoV-2 が細胞を乗っ取り増える仕組み(ライフサイクル)
新型コロナウイルス SARS-CoV-2 が細胞を乗っ取り増える仕組み(ライフサイクル)

 この過程のなかで、新型コロナウイルスが自分の設計図(RNA)を複製する際に、書き写しのエラーが起こることがあります。文字を書き写し間違えると、設計図が変わることになります。その書き間違いこそが、変異なのです。

新型コロナウイルスの変異とは何か

 変異についてもう少し詳しく説明します。

 RNAに書き込まれている新型コロナウイルスの設計図は、 およそ 30,000 塩基の連なりからなっています。塩基とは、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、ウラシル(U) の4種類です 。4「文字」からなる設計図には3万「文字」ほどが並んでいるということです。

 この設計図は暗号のようになっており、「RNAの塩基3文字が1セット」となって、アミノ酸というものの並びを決めています(コドン)。アミノ酸が鎖(チェーン)のようにつながったものがタンパク質なのです。つまり、RNA の並び順に従って、アミノ酸をつなげてタンパク質ができることになります。

RNAの情報をもとにタンパク質がつくられる
RNAの情報をもとにタンパク質がつくられる

 この RNA に書き込まれた設計図は、ウイルスが増殖する際に自らをコピーするために新たなRNA に複写(コピー)します。一文字ずつ塩基を書き写していく作業が行われるわけです。しかし、この書き写しの際に、エラーが起きて塩基(文字と同じですね)が書き換わることがあります。これが変異です。RNA の文字が書き換わるとそこで指定されているアミノ酸基が変わることがあります。そうなると、タンパク質の形が変わることがあるわけです。タンパク質の形が変わるとその性質が変わることがあり、そうするとウイルスの性質が変わることもあるわけです。これが変異の問題になってきます。

 まとめると、ウイルスの設計図である RNA の「文字」が書き換わることが変異であり、変異によって、タンパク質の変化が起こり、ウイルスの性質自体も変わり得る、ということです。

変異の状況と変異の速度

 世界中で検出されている様々な変異ウイルスについてのゲノム情報(設計図の情報)はGISAID というサイトなどに登録されています。

 登録されているデータをもとに、系統樹といって家系図のようにまとめたものがあります(下図、nextstrain より)。このグラフでは、点一つ一つが変異ウイルスを指しており、これだけたくさんの変異ウイルスが確認されていることになります。これらの変異ウイルスはあくまでも検討されたものだけが登録されていますので実際にはもっと多くの変異ウイルスが存在していることになります。変異が起こるたびに枝分かれして描かれていますが、別れた先の塊は同じ変異を持つことになってきます。

変異の状態をプロットしていった図を系統樹という
変異の状態をプロットしていった図を系統樹という

 また、このサイトなどに掲載されている情報を元に、変異の速度をみることができます。変異の速度というのは、一年間流行した場合にどの程度の数の変異がウイルスに起こるかということです。新型コロナウイルスの場合には、おおよそ23カ所の変異が年間に起こっていることが分かります。この変位速度はインフルエンザウイルスよりはゆっくりとしたものです。

変異は蓄積していく。グラフの傾きが変異の速度になる
変異は蓄積していく。グラフの傾きが変異の速度になる

新型コロナウイルスが変異すると何が問題なのか

 新型コロナウイルスの変異によってウイルスの性質が変わることがあるわけですが、では何が問題になり得るのでしょうか。変わり得る性質はいくつもありますが、特に問題となるのは以下の3つです。① 伝播性の上昇、② 病毒性の上昇、③ 免疫逃避 です。

 この3つを中心に変異によるウイルスの性質変化についてみていきます。

変異ウイルスで問題となりうる3つの性質の変化
変異ウイルスで問題となりうる3つの性質の変化

・伝播性(transmissibility)の変化

 伝播性とは人から人への感染のひろがりやすさのことです。これが上昇することによって、より流行が強く起こる可能性が考えられます。これが低下すれば、流行しにくくなることになります。この程度は再生産数 R(実際には基本再生産数R0)の変化として現れることになりますが、これを厳密に評価することは実際には困難な場合が多く、モデルなどをもちいて推測されます。

 なお「感染力」と言う言葉は別の意味をもちますので不適切です。

・病毒性(virulence)の変化

 病毒性とは感染した際にどのぐらい重い病気を引き起こすかということです。病毒性が上昇すると、重症化率や致死率の上昇などが考えられる他、治療期間が長くなるなどの影響も出てくる可能性があります。メカニズム的にはウイルスが増えやすくなることや、免疫が効きにくくなったり免疫が効き過ぎたりすることなどが考えられます。

・免疫逃避(ワクチン効果の低下、変異ウイルスによる再感染の可能性)

 免疫の機能から逃れることを指します。これがあると、再感染といって二回感染することが起こったり、ワクチンの効果が低下したりする可能性があります。免疫から逃避することができるようになると、免疫システムから逃れたウイルスだけが「選択されて」増えてくることになります。

抗体が付着できなくなる変異があると、そのウイルスだけが生き残ることになり得る
抗体が付着できなくなる変異があると、そのウイルスだけが生き残ることになり得る

・その他

 この他にも、ウイルスの増えやすさや細胞への親和性(fitness)の上昇などいろいろな性質の変化があり得ます。しかし最も問題になるのは前者3つの変化ということがいえます。

話題となっている新型コロナウイルスの変異(変異体と変異箇所)

 今様々な変異ウイルスが話題になっています。

 ここからは、① いくつかの具体的な変異ウイルスと、② いくつかの変異の箇所(ウイルスのどこがどう変異したか)についての2つの切り口でみていきたいと思います。

変異ウイルスというウイルスそのものと、変異の部位や内容はベツモノである
変異ウイルスというウイルスそのものと、変異の部位や内容はベツモノである

 まず変異ウイルスの種類からみていきます。報道などで取り上げられているのは、イギリス、南アフリカ、ブラジル、カリフォルニア、インド、フィリピンなどで注目されたもの、また日本の中では大阪、関東や東北でひろがっているものなどです。これらには正式な名称(系統名)がついており、それぞれの特徴が明らかになりつつあります。一つずつみていきます(WHO シチュエーションレポート にも概要があります)。

世界で特に注目されている3つの変異ウイルスのまとめ
世界で特に注目されている3つの変異ウイルスのまとめ

B.1.1.7 …イギリス中心にひろがったもの

 N501Y という変異を含む 23 個以上の変異を持っている変異ウイルスで、イギリスやイスラエルでは流行の主流となりました。この変異ウイルスでは感染のひろがりやすさ(伝播性)の上昇があることが確実視されています。しかしその程度は不明であり、その変化の原因となる変異(責任変異) が N501Y であるかどうかは不明です。病毒性(どのぐらい重い病気を引き起こすか)については上昇を示す報告と、上昇は明らかではないという報告がありますが、あったとしても 30% 程度までの上昇が示唆されているもので、著しく大きいものではないと評価できます。免疫逃避 (ワクチンへの影響)についてはその影響はほぼないと考えられており、実際、ファイザー社の mRNAワクチンはイギリスにおいてもイスラエルにおいても非常に高い効果を示していることが明らかになっています。

B.1.1.7
B.1.1.7

B.1.351… 南アフリカ中心にひろがったもの

 N501Y に加え、E484K という変異を含む複数の変異のある変異ウイルスです。南アフリカでの流行の中心となっています。伝播性の上昇を示唆する報告や提起はありますが、正確なところは明らかではありません。病毒性の変化も不明です。 一方、免疫逃避(ワクチンへの影響)についてはその影響があることが明らかです。従来のウイルスに一度感染したことや、ワクチンによって得られる「中和抗体」という感染を防ぐ抗体が、うまく作用しなくなることが分かっています。ただし、完全に作用しなくなるのではなく、その効果が低下するというものです。ファイザー社の mRNAワクチンでは効果は下がるものの、無くなるわけではないことが実地の試験としても示唆されています。

B.1.351
B.1.351

P.1 … ブラジルを中心にひろがったもの

 この変異ウイルスも、B.1.351 同様に N501Y や E484K を含む複数の変異を有する変異ウイルスです。伝播性および病毒性の変化はまだ検証がなされているところです。免疫逃避については B.1.351 同様の懸念があります。

P.1
P.1

P.3 … フィリピンから日本に入ってきたもの

 N501Y と E484K の変異を含んでいる変異ウイルスであり、特に E484K による免疫逃避が懸念されていますが、詳細な性状は不明です。

B.1.617… インドを中心にひろがったもの

 インドを中心にひろがったもので、E484Q、L452R という二つの変異を含んでいる系統です(この他にも P681R など複数の変異が含まれます)。伝播性の増加、病毒性の増加は不明です。E484Q が E484K と同じ部位であることからワクチンの効果に影響がある可能性が推測されています。L452R についてもワクチンの効果への影響が生じる可能性が推測されています。しかし詳細な性状は現状未解明です。

 一部報道などで「二重変異」(double mutation)などと言われていますが、これは避けた方が良い表現であり、使うべきではないでしょう(後述)。

WHO シチュエーションレポートに現状のまとめがあります。

R.1 … 起源不明で、関東中心にひろがりがみられているもの

 E484K 変異のある変異ウイルスであり、免疫逃避が懸念されています。詳細な性状は不明です。

B.1.427、B.1.429…カリフォルニアを中心にひろがったもの

 L452R という変異がある変異ウイルスで、抗体療法の効果が低下することが判明しており、ワクチンの効果が下がる懸念があります。その他の性状は現在検討されている段階です。

 その他 B.1.525 や B.1.526(ニューヨークでひろがっている)では E484K を含む複数の変異があり、免疫逃避が懸念されています。

 今後も様々な変異ウイルスが発生してきて、注目される可能性があります。

 ここまでみてきたのは「変異ウイルス」そのものやその子孫を含んだグループとしてのまとまりでした。これらの変異ウイルスはいずれもいくつもの変異を含んでいます。含まれている変異の位置と内容についても様々なものが知られていますので、順番にみていきたいと思います。

スパイクタンパク質の変異部位とその内容

 変異ウイルスにおいてはその表面に突き出しているスパイクタンパク質にある変異が特に注目されています。

スパイクタンパク質という表面にある突起に変異がはいると性質がかわりやすいと考えられる
スパイクタンパク質という表面にある突起に変異がはいると性質がかわりやすいと考えられる

 スパイクタンパク質は 1,273個のアミノ酸がつながったものですが、このうち 438-506 番目程度の部分が、ACE2 というヒトの細胞表面にあるタンパク質と結合する重要な部位(receptor binding domain、RBDという)になっています。この部分は、ワクチンによってできる中和抗体が結合する部分としても重要です。よって、この RBD という場所に変異があると、ワクチンが効きにくくなるなど、ウイルスの性状が大きく変わることがあり得ます。

 特に、ワクチンの効き方が悪くなることがあり得ます。これは、ワクチンによってつくられる中和抗体という抗体(下図)がスパイクタンパク質に結合しにくくなることによります。

ワクチンの効果は中和抗体によって発揮される。この中和抗体がつきにくくなる変異があると、ワクチンが効きにくくということが起こり得る
ワクチンの効果は中和抗体によって発揮される。この中和抗体がつきにくくなる変異があると、ワクチンが効きにくくということが起こり得る

変異の種類の書き表し方

 変異については、変異の内容と場所が分かる簡単な記号で書き表されます。タンパク質の変化として、501番目の N が Y に変わると N501Y、484番目の E が K に変わると E484K と書くことになっています。このように、変異の場所と変異の内容が分かるように表されています。

注目される変異とその特徴

画像制作:Yahoo! JAPAN
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N501Y … B.1.1.7、B.1.351、P.1 などにみられる変異

 この変異があるとスパイクタンパク質と ACE2分子がよりくっつきやすくなることが分かっており、ウイルスの細胞への親和性(fitness)の上昇に関わっている可能性があります。ウイルスのヒトからヒトへのひろがりやすさ(伝播性)の上昇に関わっている可能性も考えられます。免疫逃避(ワクチンの効果などへの影響)についてはあまり懸念されていることはありません。

E484K … B.1.351、P.1 などにみられる変異

 海外は EeK という名称も用いられています。

 この変異があると、ワクチンの効果が低下することが分かっています。これはワクチンによってつくられた中和抗体とスパイクタンパク質の親和性が低下することによると判明しています。

 E484Q についてはこれとおなじ部位についておこる変異ですが、その特徴はまだ明確には分かっていません。

L452R

 この変異についても、ワクチンの効果への影響や抗体療法への影響が考えられており、現在検討が進められています。また、白血球の持つ分子の特定の型によっては、この変異のあるウイルスに反応しにくくなることが示されています。

K417

 この変異についても、ワクチンの効果への影響が考えられており、 現在検討が進められています。この K417 という表現は K417T、K417N などを合わせたものです。

D614G

 この変異は中国で最初にみつかった変異で、伝播性上昇に関わっていることが動物実験を含む実証的研究で判明していますが、ヒト集団における伝播性上昇への寄与の程度は不明な部分が残ります。免疫逃避・ワクチンへの影響はありません。

 その他、Q677、P681H 等いくつかの変異も注目されていますが、いずれも伝播性・病毒性の変化や免疫逃避などについて、その影響の度合いはまだ不明です。

変異ウイルスとワクチン

 変異ウイルスにおいてワクチンの効果が低下することは大きな懸念になりえますが、結論から言えば、現状みつかっている変異ウイルスについてワクチンが無効になるような大きな変化はみられていません。

ワクチンの効果は低下するものがみられる
ワクチンの効果は低下するものがみられる

 ただし、完全に効果がなくなることはないものの、効果が低下するものもあるということは判明しているため、mRNAワクチンなどはすでに変異に対応した改良版のものが臨床試験に入っている状況です。今後臨床試験を経て、必要に応じて実用化されるものと思われます。また今後、ワクチンのより効きにくい変異が発生する可能性もあるため、監視と検討を続けることは重要です。

変異ウイルスに対する日本の対策

 日本では国としては、①水際措置、②サーベイランス体制、③感染拡大防止策、④普及啓発、⑤研究開発 の5つの観点から対策を行っています。

 いずれも重要ですが、個々人にとって最も重要なのは③と④になります。特に③は次の項目で述べるように最も重要なポイントになってきます。

 ① については対策が緩い可能性が高いといえます。外国で発生した変異ウイルスが国の市中で発見されるということは、水際対策が機能していないということです。14日間の隔離などの徹底が望まれるところで、入国者に対する措置が甘い可能性が高いでしょう。② については拡充が図られていますが、意義との兼ね合いで、コストパフォーマンスの良い範囲内で実効的に意味のあるサーベイランスを行うことが重要です。ただ解析や監視をしていればよいというものではありません。目的を持った必要十分な監視を行うことが重要です。

 ⑤については他国において変異ウイルスの性状調査や変異対応ワクチン開発等が進んでいますが、本邦においても進めることは重要でしょう。

変異ウイルスにどう対峙していけばよいのか

 私たちは変異ウイルスにどのように向き合っていけばよいのでしょうか。

 上記のようにウイルスの性質がある程度変わることはあると考えておくことが必要です。しかし重要なことは、基本的な予防策が通用しなくなるような大きな変化は起こっていないということです。3密を避ける、距離をとる、マスクをする、手洗いを徹底する、などを基本として、人の接触を抑制していくことで感染ルートを断って流行を抑えることができるのです。

 国や地域のレベルでは、変異ウイルスが増えることで、資源の逼迫や重症者が長く病棟にいることなどでマネージメントが大変になり得ます。しかしこれも流行が抑制されれば患者数は減りますので解決されるわけです。

 重要なことは、変異ウイルスであるか否かにかかわらず、基本的な予防策の徹底で流行を抑えることと、ワクチンを順次接種していくことになります。いくら監視や研究だけをしていても意味はなく、対策も治療法も変わらず、結果も変わりません。一方、予防を徹底すれば、イギリスやイスラエルの例で明らかなように、変異ウイルスであっても流行は大きく抑えることができるのです。

 情報を得ることは重要ですが、対処法や結果が変わらないことに対して騒ぎすぎる必要はなにもありません。粛々と今まで通り、場合によっては今までより少し注意をしっかりとしての予防をしていくことが重要です。

まとめ

 変異ウイルスは常に生じていますが、その中で性質が変わったと考えられるものは特に注目されて研究や監視がなされています。様々な変異ウイルスの中には、ワクチンの効果が低下するものもみられています。しかしすべてのワクチンが無効になるような変異はみつかっていません。

 変異を研究し監視することは重要ですが、ウイルスの変異によって感染形態が大きく変わるなど極端な変異は生じていないことも分かってきています。

 変異ウイルスに対する予防法などは個人レベルにおいて従来のウイルスと大きく変わることはなく、基本的な予防策が重要です。

~ 附記 ~

誰が系統名をつけているのか

 系統の名前は複雑な記号でつけられていてわかりにくいですね。これはいくつかのグループの科学者がさまざまな提案を受けて検討してつけています。WHO などが系統名をつけているわけではなく、科学者の話し合いによって決まった、事実上の(デファクトの)スタンダードとなって使われているものです。

VOC や VOI、Variant of high consequence (VHC) とは

  その脅威の度合いなどから、WHOや国ではいくつかのグループにわけて変異ウイルスをまとめて認識しています。WHOの暫定定義の考え方 では、懸念される変異ウイルス(Variants of Concern; VOC)注目すべき変異ウイルス (Variants of Interest; VOI)に分類されています。さらにアメリカではより影響の大きい変異ウイルスについてVHC (Variant of High Consequence) というカテゴリーを定めています

 これらの分類は、各国内での検出状況を加味するもので、国によって異なるもので、WHO やアメリカ CDC、イギリス保健省、日本の国立感染症研究所などが採用しています。

言葉の問題。変異種は間違い、変異株は微妙、変異体または系統群なら正しい

 「変異種」という呼称が一時期非常によく聞かれましたが、これは間違いであり、今回の変異ウイルスについては、学術用語としては変異体(variant)または系統群(clade、lineage)を使うべきであると考えられます。

 簡単に説明すると、変異(mutation)を有するウイルスのことを変異体(variant)と言い、ある変異体と同じ変異を有する一群の子孫ともいえる変異体の集まりを系統群(clade、lineage)とまとめて呼称します。一方、ウイルスの変異が多くなりウイルス学的に大きく機能が変わると、その系統群は、株(strain)として認識されることになります。今回の記事で触れている B.1.1.7 などでは多少性質は変わっているものの、まだ従来のものと同じような性質を有しており、変異株(mutated strain)と呼べるほどの変化はないでしょう。そう考えると、変異株も微妙な表現です。変異体、系統群と呼称するのが良いのです。

用語についてのまとめ
用語についてのまとめ

 しかしこれらの言葉は聞きなれないこともあり、学術用語を正しく使うという観点とあわせて、変異ウイルスと呼称しておくことが妥協点であろうと考え、本稿も変異ウイルスを主に使用しています。

ニューヨークタイムズ(NYT) はその記事の中で、非常にクリアに説明しています「A group of coronaviruses that share the same inherited set of distinctive mutations is called a variant. If enough mutations accumulate in a lineage, the viruses may evolve clear-cut differences in how they function. These lineages come to be known as strains. Covid-19 is caused by a coronavirus strain known as SARS-CoV-2」

 意訳すると「特定の変異を含むものが変異体(variant)。系統(lineage)に十分な変異(mutation)が蓄積されてクリアカットにその機能が変わった場合には、それはストレイン(株, strain)として知られることになる。COVID-19は SARS-CoV-2 という株(strain)によって起こる」。

 このように、呼称は概念と結びついていますので、ただしく言葉を使うことが重要です。変異ウイルスという呼称は学術用語ではありませんが、状態を伝えるには便利な言葉であり、本稿でも採用しています(「変異種」という言葉が多く使われたときに著者よりいくつかのメディアに提案をした呼称になります)。

「二重変異」

 スパイクタンパク質の中でも特に重要な部分である RBD(receptor binding domain:受容体結合部位)という部位に変異が入っていると、細胞との結合性やワクチンの効果が大きく変わる可能性が高くなります。そのような RBD に2つの注目される変異が入っているという意味で、インド中心にひろがった B.1.617 について「二重変異(double mutation)」と海外の関係者が発言し報道も続きました。しかし、これは妥当な名称ではありません。例えば B.1.1.7 においても N501Y と P681H など複数の変異が RBD にありますし、B.1.351 では K417T、E484K、N501Y と3つが RBD にあります。これらを二重変異や三重変異とは呼んでいません。適切な呼称ではなく、避けるべきでしょう。

「地域+型」は差別につながる?

 ウイルスの名称には地域名や人名は入れないというルールが近年確立してきています。これは、病名などにも言えることなのですが、差別や蔑視につながるといった理由や、ナチスドイツの科学者を讃えているとの指摘などがあったことなどにもよります(ただし正統な名誉あるものは残されているものもあり、高安動脈炎、川崎病などは世界的にも使用されています)。

 そのようなことから、今回の新型コロナウイルス SARS-CoV-2 についても早期に公的な団体から正式名称がつけられ、病名も COVID-19 となっています。

 現在変異ウイルスは最初に検出されたり主流になったりした場所から「地域名+型」のように報道されていますが、これはあまり望ましいことではないと思われます。よって、できるだけ系統名で呼称することが望ましいのですが、伝わりやすさを犠牲にする部分があるのも事実です(これらについては STATニュースのこの記事が詳しい)。本稿では、広がった場所としてそれぞれの国名を付記した表現としています。

「N501Y株」などは明確な間違いです

 これまで説明してきたように、変異ウイルスの系統名(「株」と誤記されていることが多い)については、B.1.1.7 や P.1 などが用いられています。そして、それらの系統の変異ウイルスが、N501Y や E484K などと呼ばれる変異をふくむ変異を複数、持っているわけです。ですから、「N501Y 株」などという表現は間違っています。

 日本においては、N501Y という変異があるかないかという簡易検査を実施していることが多く、「N501Y という変異のある変異ウイルス」が検出されることで統計などがとられています。よって、N501Y をもつ変異ウイルスのひろがり、ということを伝えたいということで「N501Y 株」などという誤用が発生しているものと思われます。

 正確には、「N501Y 変異のある変異ウイルス」が検出されており、その変異ウイルスは「B.1.1.7、B.1.351、P.1、R.2 などである可能性がある」と言うべきですね。

ワクチンの「有効性」「効果」とは

 ワクチンの「有効性」や「効果」というときには、 何を指しているかが重要です。

ワクチンの有効性、おもな三つの効果
ワクチンの有効性、おもな三つの効果

 ワクチンの有効性の評価方法として、 ワクチンによってできた抗体の量や性状を確認する免疫原性という評価がよく用いられますが、これは実験室での検討によるもので、実際にヒトへの感染を防ぐかどうかを直接みているものではありません。

 一方、ヒトを対象とした臨床試験を行って見えてくる効果のことは efficacy と言いますが、これはヒトへの感染や発症の予防効果を実際にみています

 さらに、実社会においてどの程度効果がでているかを見る場合の効果を effectiveness と言っています。イスラエルでの調査結果などはこれにあたります。

 ワクチンの効果、変異ウイルスに対する効果、などというときにはこのように 、どの有効性について述べているのか区別する必要があります。

 先に述べたように E484K 等の変異は、ワクチンによってつくられた中和抗体が作用しにくくなり、ワクチンの効果が下がることがあります。しかしながら、中和能試験という試験管内での実験においても、実際のヒトでの検討である臨床試験においても、ワクチンの効果は大きく下がらない範囲で保たれていることが分かっています(免疫原性という効果です) 。

ファイザー社ワクチンの試験管内での免疫原性としての変異ウイルスに対する効果
ファイザー社ワクチンの試験管内での免疫原性としての変異ウイルスに対する効果

 一方、efficacy や effectiveness の評価についてはまだ情報は限定的な状況です。ただし、B.1.1.7 については、比較した試験と実社会において mRNAワクチンの効果が保たれていることが分かっています(efficacy と effectiveness) 。しかし、他の変異ウイルスについては明確な結論を述べられるデータはまだ集まっていません。

参考になる情報源

 参考になる情報源をいくつかあげておきます。原著論文(一次資料)などもこれらの情報源に多くあげられています。

WHO SARS-CoV-2 Variants

CDC SARS-CoV-2 Variant Classifications and Definitions

国立感染症研究所報告 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について (第8報)

GISAID

nextstrain

PANGO lineage

その他メディア記事や解説など

NYT Coronavirus Variants and Mutations

英国で検出された新型コロナの変異ウイルス 日本への影響は?どの程度恐れるべき?

インド由来の変異株について分かっていることは?二重変異ってどういう意味?

※ 本文中のクレジットのない図版は著者が作製したものです。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】