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謎VチューバーがサイボーグVチューバーにAIで詞提供 グソクムシ系に実写系、バ美肉で賑わうVT市場

南龍太記者
(提供:イメージマート)

 初めてバーチャルユーチューバー(Virtual YouTuber)を名乗って「キズナアイ」が登場したのは6年前の2016年。以来、Vチューバーの市場は着実に拡大してきた。

 圧倒的な存在感を示していたパイオニアは今年活動休止に入ったが、Vチューバー全体の勢いはとどまるところを知らない。むしろメタバースの隆盛を背景に、その市場は一層活性化していきそうだ。

 今やキズナアイを凌ぐVチューバーも現れた。さまざまな新規参入が相次ぐ中、群雄割拠の様相を呈している。平板なVチューバーは埋没してしまう厳しい競争環境下、「AI(人工知能)で作詞」や「グソクムシ系」など、Vチューバーたちはユニークさを前面に出して生き残りをはかる。

Vチューバーとは何か

「VTuberって何するの?」

「VTuberって何がいいの?」

「Vチューバー」で検索した結果
「Vチューバー」で検索した結果

 「VTuber」というキーワードでグーグル検索をかけると、そうした関連質問が紐づいて引っ掛かってくる。Vチューバーの認知度は一般に高いとはまだ言えないようだ。

 ただ、高校の教師を務めたり、地域振興に一役買ったりするなど、VチューバーはYouTubeの枠を超え、着実に勢力圏を広げている。特に新型コロナウイルス感染拡大により人同士のオンラインコミュニケーションが増える中、Vチューバーの露出機会や活用可能性は一層広まっている。

 「Virtual YouTuber」を略したVチューバーは、CGなどで制作したキャラクターを、YouTuberのように利用して動画配信に当たる人を指す。

 始祖は、VチューバーとしてYouTubeの登録者数が「かつて」最多だった「キズナアイ」(Kizuna AI)だ。2016年11月に初投稿したYouTubeの動画で、

私実は二次元なんです! (中略)とりあえず、バーチャルってことでバーチャルYouTuber

と自己紹介。自立型AIで、人間と仲良くしたいと語ったキズナアイは、瞬く間に人気に火が付き、YouTubeの登録者数は現在300万人を超えている。

 だが、21年7月にがうる・ぐら(Gawr Gura)に首位の座を奪われた。がうる・ぐらの登録者数は現在400万人に迫る勢いだ。

 キズナアイは、2022年2月26日のオンラインライブを最後にスリープ状態に入った。「また目覚めるその日まで。See you!」としている。

Vチューバーの市場

 キズナアイがけん引してきたVチューバーの市場は、2016年以降着実に拡大してきた。数多くのVチューバーが生まれ、現在その数は1万6000を超える。女性のVチューバーが多いが、女性以外のVチューバーも徐々に増えてきている。音楽LIVEのほか、地域の防犯や観光を通じた地域振興など、Vチューバーは多方面で奮闘している。

 活躍の場が広まるにつれ、各Vチューバーは、芸能事務所ならぬ「VTuber事務所」に所属する慣行が広まってきた。大手は「ホロライブプロダクション」や、多数のバーチャルライバーを擁する「にじさんじ」。出演するためのオーディションなどもあり、まるで芸能プロダクションだ。

 ホロライブは「日本発で世界中のファンを熱狂させるVTuber事務所」と謳っている通り、英語での発信にも力を入れ、海外展開に積極的だ。ホロライブ・インドネシアの公式ツイッターのフォロワー数は17万人を超える。Vチューバーは日本にとどまらず、アジアや北米、南米、欧州など幅広くファンを獲得している。

 「ーチャル世界で少女の姿を受する=手に入れる」ことを指す「バ美肉」による変身願望を抱く男性陣の存在も相まって、Vチューバーやライバーは増えていくと見込まれる。2021年に6.5兆円ほどだった市場が、2030年には100兆円規模に迫ると予測されるメタバースも新たな舞台となり、Vチューバーはますます活況を呈しそうだ。

 拡大を続けるVチューバー関連の市場に、グリーが100億円規模を投じるなど企業は熱い視線を送る。

群雄割拠のVチューバー

 Vチューバーのランキングを手掛けるユーザーローカルの調査によると、2016年11月のキズナアイ登場後、Vチューバーの数は18年3月に1000人を突破、半年後の9月には5000人まで急増し、20年1月に1万人を超えた。

 現在1万6000に上るVチューバーは、「ゲームの実況をする」タイプや「特定の情報に極度に詳しい」タイプ、VR Chatタイプなど、さまざまなジャンルに棲み分けが進みつつある。

 「グソクムシ系VTuber」や「超ハイテンション系」など、個性的な面々もVチューバーの界隈をにぎやかしている。

 ただ、人気が出てもすぐに真似されて陳腐化したり、飽きられたりして、埋没してしまうことも少なくない。歌って踊れて癒せるだけでは、エッジにならないのが実情だ。

個性で生き残り

 キズナアイほどになると、日清食品のカップヌードルのCMに起用されるなど、芸能人顔負けの人気となっている。

 一方、埼玉県庁のバーチャル観光大使となった「春日部つくし」のように、地域に根差して地元を中心に愛されるVチューバーも各地にいる。

 岡山県庁は、県特産のモモや吉備団子にあやかったVチューバー「ももこ」と「キビト」を起用し、若い世代などに親しみやすさをアピールしている。ももこはマスキングテープ集め、キビトは一人カラオケが趣味など、凝ったキャラ設定が受け、YouTubeの動画の視聴回数は計数十万に上っている。

 コロナ禍で企業や官公庁がオンラインによる情報発信やコミュニケーションを増やす中、Vチューバーはますます活躍の場が広がりそうだ。

教育や芸術の場でも活躍

 教育の場でもVチューバーの活躍が光る。

 2019年10月には「全国初、大学講師のVチューバー」などとして、「朝霧けい」が大きく取り上げられた。また、高校生が自ら発案し、Vチューバーの教師に教えてもらうような試みもあった。

 Vチューバー同士の連携も進んでいる。AIを駆使するVチューバーが作詞した楽曲を、他のVチューバーに提供する取り組みも始まった。

 サイボーグVチューバーの「マシーナリーとも子」に、文章生成開発から作詞活動まで行うAIのスペシャリストという謎のVチューバー「fuwari」が詞を提供。3月30日に「君の朝の記憶feat.fuwari」をリリースした。

感性AI提供
感性AI提供

 fuwariは4月27日に作詞第2弾となる「夜舞う fuwari」を発表、ソロデビューを果たした。

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今後もさまざまな個性派が登場し、活動領域が広がっていくと期待されるVチューバーの市場。ますます注目は高まっていきそうだ。

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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