Yahoo!ニュース

医療業界でデジタルツイン普及 歯科皮切りに施策続々 デンタル・プレディクション社長、宇野澤元春さん

南龍太記者

デジタルの力を使い、離れた人同士がまるで同じ場所にいるかのように指導や検診を受けられる――。「デジタルツイン」などの新技術を駆使した画期的な実証実験が歯科業界で進められ、成果を上げ始めている。

医療系ベンチャーのDental Prediction(デンタル・プレディクション)は、取り組みの第1弾として、通信キャリア大手などと組み、遠隔による歯科医の指導を実施。社長の宇野澤元春さんは「歯科には以前よりデジタルデンティストリーという言葉がありますが、このたびの取り組みで新たなフェーズに入りました。それがデンタル デジタルツイン(DDT)です」と意気込む。高速通信網、5Gの普及を追い風に、国境を越えた遠隔地での指導や診療の可能性を探る。

まずは歯科業界で取り組みの実績やデータを蓄積し、将来的には医療業界全体でデジタルツインやAIによる指導や検診を一般化させ、医療サービスの充実につなげたい考えだ。

画期的

デンタル・プレディクションは2021年7月、ソフトバンクとVR技術に強みを持つHoloeyes(ホロアイズ)と若手歯科医師の手術を遠隔で支援する実証実験を行った。東京と大阪の2地点を結び、VRのゴーグルを装着した大阪の若手医師が、東京からインプラント手術の指導を受けた。

VRゴーグルを通じ、3Dで再現された患者の骨を見ながら実物の顎の模型を手で触り、神経などを傷つけぬように患者に手術を施していく。遠隔地からの施術指導は無事完了した。

コロナ禍で対面による若手歯科医への指導機会が減る中、デンタル・プレディクションは遠隔による指導の試行を重ね、有効性を高めていきたい考えだ。

実証実験の様子(2021年7月)
実証実験の様子(2021年7月)

コアとなる技術「デジタルツイン」

こうした遠隔医療の指導ができるようになったのは、携帯電話大手主導の高速通信網5Gの整備が進んできたことが大きい。特に、5Gの特徴の一つ「超低遅延」によって「デジタルツイン」の技術が格段に向上した。

デジタルツインは、フィジカル、すなわち実世界でのデータをもとに、「デジタルの世界=サイバー空間」につくりだされる、実世界の完全コピーだ。瓜二つに複製されることからツイン(双子)と呼ばれる。5Gが可能にした超低遅延のデータ通信により、現実世界の状態を、ほぼリアルタイムでデジタルの世界に再現できるようになった。

実世界で収集されたデータが、デジタルの世界に送信されて蓄積し、分析され、再び現実世界に送られる。このサイクルはCPS(Cyber Physical System; サイバー・フィジカル・システム)と呼ばれ、デジタルツインもこの一環で生み出される。

拙著『AI・5G・IC業界大研究』より抜粋
拙著『AI・5G・IC業界大研究』より抜粋

デジタルツインという再現性の高いコンピューター技術の進歩により、現実世界に影響を及ぼさない形でシミュレーションしたり、製品の使用感を試したりできるようになった。製造業や建設業の現場で活用が広がっている。

5Gの普及は、さらにデジタルツインの活用の機会を増やし、幅を広げることに寄与した。今回のデンタル・プレディクションによる医療での活用もその好例と言える。

歯科業界から医療全体へ

デンタル・プレディクションはソフトバンク、ホロアイズとの実証実験を皮切りに、デジタルツインを通じた遠隔技術の応用を加速させていく考えだ。

宇野澤さんは「東京―大阪の実証実験で得られたノウハウを生かし、現在は総務省の案件としてアジアや中東の各国など海外での実証実験を準備・計画しています。デジタルツインで世界の医療格差の是正に貢献できるのではないかと期待しております」と話す。

~プロフィール~

宇野澤元春(うのざわ・もとはる)

2009年に日本大学松戸歯学部卒業、2014年千葉大学院医学研究科修了、2019年にニューヨーク大学歯学部(NYUCD)Advanced Program in Implant Dentistry 修了。2020年に株式会社Dental Predictionを設立し、代表取締役社長に就任。

Dental Prediction

※ 特に注記がない画像はデンタル・プレディクション提供

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

南龍太の最近の記事