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5Gでコロナウイルス感染拡大?→WHOが否定 英国、陰謀論で放火など30件「正気の沙汰じゃない」

南龍太記者
5Gに反対する言葉が書かれた壁、英国(写真:ロイター/アフロ)

 コロナウイルスの流行が止まらず感染者が世界で200万人に迫る中、世界保健機関(WHO)はこのほど「5Gは新型コロナウイルスを広めません」と注意を促す文書をウェブサイトに掲げた。

 次世代通信「5G」がコロナウイルスの感染を加速させているとのデマの情報が出回り、4月に入って英国で5G関連設備への放火などが多発したことを受けての措置だ。一方、オランダでも同様の放火事件が発生したが、5Gの電波による健康被害に対する懸念が動機とみられ、コロナウイルスとの関係は不明。

 日本で同様の事件が起きるとは想定しづらいが、感染拡大の混乱に乗じたさまざまな不正、犯罪が起きやすい悪条件が重なっている。英蘭の事件を少し振り返る。

WHOのウェブサイトより
WHOのウェブサイトより
5Gのサービスを伝えるデジタルサイネージ。ニューヨーク、2019年
5Gのサービスを伝えるデジタルサイネージ。ニューヨーク、2019年

5Gで免疫低下のデマ

 BBCなど各種報道によると、4月に入ってから、英国のバーミンガムやリバプールといった都市で、電波塔に対する放火や破壊行為が立て続けに30件以上あった。ケーブル敷設を担う作業員に対する妨害や嫌がらせも80件ほどあったという。

 多発した犯罪行為の共通点は、次世代通信規格の5Gに関連していたことだ。「5Gの電波により、人の免疫力が低下してウイルスに感染しやすくなる」といったうわさが出回っていたことが背景にある。

(電波塔が燃える様子)

SNSでデマ拡散

 根拠のないうわさの流布に悪用されたのは、ユーチューブやフェイスブックといったSNSだった。

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、5Gとコロナウイルス感染拡大を関連付ける陰謀論のようなユーチューブの動画が、3月にアップされた10本だけで再生回数580万回を超えた。

 デマが繰り返し伝えられることで、冷静さを失い、事件に加担する人が出てきてもおかしくはなかったかもしれない。詳しい事件の動機や犯人像は未詳だ。

 苦悩する通信事業者4社は共同声明を出し、5Gの電波塔への放火をやめるよう訴えた。

英通信事業者の共同声明、ウェブサイトより
英通信事業者の共同声明、ウェブサイトより

 英政府も会見で、5Gとコロナを結び付けるのは危険で無意味な陰謀論だと一蹴した。

(Government condemns'dangerous nonsense' coronavirus 5G conspiracy theory)

 通信事業を所管するデジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)は5日、「ネットで出回っている陰謀説に感化された、携帯アンテナへの破壊行為や通信技術者への嫌がらせの報告を受けている。犯罪に加担した人は法律で罰せられる」とツイッターで投稿した。同時に、こうした行為を煽るような無意味な情報の拡散を食い止めるよう、ソーシャルメディア各社が責任をもって迅速に対応するよう求めた。

 これまでにユーチューブは動画を削除するなどの策を講じている。

 加えて、WHOが出した声明では

コロナウイルスは、

  • 電波やモバイルネットワーク上を移動できない
  • 多くの5Gネットワークがない国でも感染が広がっている

とし、5Gとウイルスの因果関係を示す根拠はないと説明した。WHOが駄目を押したことで、事態は沈静化していくと期待される。

 ただ、声明に対してツイッターでは、

WHOがこんなことを言わなきゃならないなんて正気の沙汰じゃない

(The fact that the WHO has to actually say and release this to reassure ppl is insane.)

など、コロナウイルスでおかしくなった世界を憂う声が聞かれた。

オランダで反5G団体が放火

 一方で別の火種もくすぶる。WHOが注意喚起してから数日たった11日、オランダ紙「テレグラフ」は、5Gの反対派が同国の5G電波塔に放火したり、設備を破壊したりしたと報じた。過去1週間に少なくとも4件の被害があったという。

 それらの事件ではコロナウイルスうんぬんより、5Gへの反対運動を続けてきた団体が従来掲げている「電波が健康に害を及ぼす懸念」が犯行の動機とされていた。報道を見る限り、コロナウイルスへの言及はなかった。

 今後、5G関連設備を対象とした同様の犯罪行為を防げるか注目される。

* * * * *

 5GのサービスはAI(人工知能)やビッグデータ、IoT(モノのインターネット)といった次世代ITの普及を加速するのに欠かせないインフラとして、日本でも2020年から本格的に始動した。オンラインによる診療や授業、業務などを一段とやりやすくするためにも、幅広い産業で5Gへの期待が高まっている。

「平成29年 総務省情報通信審議会新世代モバイル通信システム委員会報告」より
「平成29年 総務省情報通信審議会新世代モバイル通信システム委員会報告」より

 この記事は、英蘭と同じような5G関連設備への放火に対して注意を促すのが目的ではない。未知の部分が多いコロナウイルス感染拡大に伴い誤情報が氾濫する世の中にあって、不正や陰謀論がまかり通りやすくなっていることに警鐘を鳴らすものだ。

 平時にはあり得ないようなデマも、混乱に乗じて繰り返しSNSなどで流れてくれば、何が真実かフェイクかを見極める障害になるだろう。疑心暗鬼の雰囲気が漂っている現状ではなおさらだ。

 プラットフォームを担うIT各社は悪質な情報の流入防止・管理を、そして国際機関や各国政府は不確かな情報に対する真否のジャッジを、着実に積極的に行うことが一層求められている。

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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