窮地の石炭火力 省益不一致、問題は事業性?

G20大阪サミットで脱石炭を訴えるデモ(写真:ロイター/アフロ)

 日本は中国、インド、米国に次いで世界で4番目に多く石炭を使う国だ。国内の少子高齢化を背景に海外市場を目指す企業の動きが活発化する中、石炭産業は官民を挙げて取り組むインフラ輸出で「特に重要」と位置付けられている。ただ、推進役の経済産業省と掣肘(せいちゅう)する環境省とで足並みは揃わない。不調和を横目に、企業は「事業性の悪化」を理由に相次いで石炭火力建設を断念。日本の目指すべき理想の電源構成とは――。

 単位は百万トン(石油換算)。2018年BP統計をもとに筆者作成。
単位は百万トン(石油換算)。2018年BP統計をもとに筆者作成。

(参考ニューヨークで全米初の石炭火力全廃へ 他州に波及も期待

建設、原則認めない

 年度末の差し迫った2019年3月、環境省は「電力分野の低炭素化に向けて~新たな3つのアクション~」との提言を発表した。その柱の一つが「石炭火力発電からの確実な排出削減に向けて ~環境アセスメントの更なる厳格化~」で、二酸化炭素削減の見通しが示せない場合は新増設の計画を原則認めない方針を打ち出した。原田義昭環境相は発表の記者会見で「石炭火力は(二酸化炭素)排出量の大きな増加要因になっていますから、あらゆる面で抑制の方向で努力したいと思っております」とし、今後出てくる計画をより厳格に審査する構えだ。

 翌4月下旬には環境省管轄の国立研究開発法人「国立環境研究所」が「石炭火力から天然ガス火力発電への転換は、パリ協定目標の達成に寄与~石炭火力発電の段階的廃止の追い風に」と題し、脱石炭を促すレポートを発表した。

 こうした環境省の姿勢は、石炭産業の技術を、発電所建設とパッケージで海外に売り込みたい経産省のスタンスと相容れない。経産省は国際エネルギー機関(IEA)などの将来シナリオなどを引き合いに出し、「新興国では、石炭は他の化石燃料に比べて経済性、供給安定性に優れている」として需要が40年まで伸び続けると見ている。

計画断念相次ぐ

 「3社は、本検討において十分な事業性が見込めないとの判断に至ったことから、同地点での石炭火力発電所の共同開発について検討を断念することといたしました」

 省益をめぐり、噛み合わない両省の主張をよそに、日本国内では石炭火力の計画を撤回するケースが相次いでいる。先の3社とは東京ガス、九州電力、出光興産のことである。出力200万キロワットと国内最大規模の石炭火力新設を目指していたが、2019年1月に断念した。

 17年、18年も石炭火力の計画撤回が相次いだが、理由は一様に「事業性の悪化」。石炭火力に対する世界的な逆風が理由だとは、おくびにも出さない。

石炭火力の計画変更の動き。各社資料より筆者作成
石炭火力の計画変更の動き。各社資料より筆者作成

 火力の建設計画に反対する周辺住民が訴訟を起こすといった新たな動きも出始めている。住民側が勝訴すれば、事業者の意思とは別に、計画は頓挫を余儀なくされる。また、住民の反対を押し切って計画を進める姿勢が際立てば、企業のブランドイメージを傷つけかねない。

 逆風は石炭の事業主体のみならず、投融資する金融機関へも強まっている。「ダイベストメント」(投資撤退)という形で、石炭火力の開発を助長するような取引をやめるよう迫られ、実際に資金を引き揚げるケースも出始めた。再エネの普及などに取り組む「自然エネルギー財団」によると、18年5月の公表時点で「ダイベストメント実施組織は800を超え、その資産総額は6兆ドル規模に達した」という。

 こうした動きを背景に、三井住友信託銀行が原則として国内外の石炭火力へのプロジェクトファイナンスへ新たに融資しない方針を18年に明確化した。三菱UFJフィナンシャルグループも19年5月、「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」を改定し、「新設の石炭火力へのファイナンスは、原則として実行しない」との方針を打ち出した。慣行的に横並びの金融業界にあって、今後同様の取り組みが業界内に広がっていくと見込まれる。石炭火力を廃止へと誘(いざな)う包囲網は狭まりそうだ。

残る道は再エネ?

 再びニューヨーク州。2019年3月時点で、発電比率は天然ガスが35%と最も高く、次点は原発で29%だった。続いて28%が水力発電、水力を除く再生可能エネルギーが6%となっている。同州が進む方向は明確で、石炭火力に加えて原発も縮小、一方で再エネは拡大、である。

ニューヨーク州とエンタジー社が結んだ原発廃止の合意文書の写し
ニューヨーク州とエンタジー社が結んだ原発廃止の合意文書の写し

 テロの標的にもなりかねないとして廃止をめぐり長らく論争が交わされてきた、州内にあるインディアンポイント原発は、17年初めに段階的閉鎖が決まった。マンハッタンから50キロほどしか離れてなく、緊急時に数百万の人々を避難させることも難しく、極めて危険というのが理由だった。エンタジー社と廃止で合意したクオモニューヨーク州知事は「国内最大の人口と密度の都市に位置することを踏まえ、その安全が脅かされ続けていることを15年にわたり深く憂慮してきた」と述べた。2号機は20年4月、3号機は21年4月までに閉鎖される。

 その穴を埋めるのは天然ガス使用の増加ではなく、再エネだ。このたび、6月19日に「100%クリーンエネルギー」なる法案がニューヨーク州議会を通過した。30年までに州内の発電に占める再エネの比率を70%、40年までに100%にするという。国内に豊富に確認されているシェールガスでなく、まして石炭でも原発でもなく、再エネに収斂していく米国きっての州、その試みの成否に国内外の注目が集まる。

 実際、ニューヨーク市内では先進的な取り組みが進む。スタートアップが多い土地柄とあって、ブロックチェーンやAIを駆使した画期的な取り組みも相次ぐ。これには太陽光事業を手掛ける京セラが着目し、ニューヨーク市ブルックリンのITベンチャー「LO3 Energy」とVPP(バーチャル・パワー・プラント)の共同実証にも今年乗り出した。

ニューヨークのIT事情に精通した藤本さん
ニューヨークのIT事情に精通した藤本さん

 ブロックチェーンなどのIT事情に詳しいニューヨークのコンサルティング会社 「Bluevision Inc.」の藤本光CEOは「京セラに限らず、電力大手などの日本企業はニューヨークでの新たなエネルギー関連事業に注目しているようです。ニューヨークで行われるエネルギー関連のカンファレンスにも積極的に参加していますし、実態を知りたいとの問い合わせも増えています」と話す。再エネなど分散型電源を通じたマイクログリッドやVPPといった、日本に応用できそうな事例も目立つという。

 小難しい話は抜きにしても、ニューヨーク市の再エネの取り組みは目に見えて進展している。例えば、40年までに全て電気自動車に置き換える計画のニューヨークの市バス。ある6月の日曜、カフェの前のバス停を経由するバスを1時間ほど定点的に眺めていたところ、約半分は「clean energy bus」だった。調査する時間や地点によって違うだろうが、着実に「Cleaner, Greener」(よりクリーンに、より環境に優しく)が浸透しつつある印象だ。

ニューヨーク市内を走るクリーンエネルギーのバス
ニューヨーク市内を走るクリーンエネルギーのバス

 日本はどうか。18年に改定されたエネルギー基本計画、通称「エネ基」では、30年に目指すエネルギーミックスで、再生可能エネルギーの比率は22~24%とされている。再エネは低コスト化や供給の安定化といった課題はあるが、石炭や原発に向けられているような国内外からの批判は今のところほぼないと言っていい。

 エネ基の30年目標で、その再エネよりも高い26%に設定された石炭。エネ基は「少なくとも3年ごとに検討を加え、必要があれば変更し、閣議決定を求める」(資源エネルギー庁)ことになっている。この数値がどう変わるか、あるいは変わらないのか――。計画が再検討される2年後の21年を見据え、数値目標に影響を及ぼす情勢の変化が今後も続きそうだ。

2030年に国が目指す電源比率。経済産業省「エネルギー白書」の表に筆者加筆
2030年に国が目指す電源比率。経済産業省「エネルギー白書」の表に筆者加筆

(写真はタイトル画像を除き筆者撮影)