兵庫県の淡路島で保護馬たちとの交流牧場「シェアホースアイランド」を運営し、「くらしに馬を」取り戻そうと奮闘している山下勉代表(40)。新型コロナウイルス感染症の影響で牧場の経営が厳しくなる中、オンラインでの交流に活路を見出そうとしています。

「シェアホースアイランド」代表、山下勉さん
「シェアホースアイランド」代表、山下勉さん

 山下さんは大阪府箕面市出身。約10年前、乗馬体験をした際に馬と触れ合う心地よさを感じ、馬のとりこになりました。2013年に淡路島に移住し、兵庫県洲本市の地域おこし協力隊員を経て、2017年にシェアホースアイランドを設立。「くらしに馬を」をコンセプトに、乗馬や餌やり、ブラッシング、馬上ストレッチ、「馬合宿」、「馬場BBQ」、「馬場BAR」など、馬と触れ合い、過ごすことができるさまざまな体験を提供しています。また、自身では馬を使って田畑を耕す「馬耕」や山林から切り出した木を馬で運ぶ「馬搬(ばはん)」にも挑戦しています。

馬小屋「yosuga」の中にある「馬場BAR」のスペース
馬小屋「yosuga」の中にある「馬場BAR」のスペース

 山下さんやシェアホースアイランドの活動については2018年、「兵庫・淡路島で「馬との暮らしを復活させたい!」 38歳脱サラ男性の挑戦」でも紹介しています。

 山下さんは、2016年にふとしたきっかけで青森・下北半島生まれの寒立馬(かんだちめ)のメス「風月」を、18年には競走馬の登録を抹消されたサラブレッドのメス「アネロワ」を引き取り、念願の馬との暮らしを始めました。少しずつシェアホースアイランドの整備を進め、乗馬や競馬に限らず、馬と共生する社会の実現を目指していました。

寒立馬のメス「風月」と。バックには淡路島ののどかな風景が広がる
寒立馬のメス「風月」と。バックには淡路島ののどかな風景が広がる

新型コロナウイルスショックで売上が激減

 ところが2020年に入り、新型コロナウイルス感染症が拡大。都道府県をまたぐ移動が自粛され、淡路島を訪れる観光客も激減しました。京阪神を中心に、島外から多くの人が訪れていたシェアホースアイランドも4、5月は休業。6月から営業を再開し、7月末ごろから少しずつ訪れる人が増えてきましたが、長い梅雨や夏休み短縮などの影響もあり、売上は前年度の2、3割程度まで落ち込んでいます。

 しかし、新型コロナは新たな取り組みを始めるきっかけにもなりました。「ライブ配信」です。4月ごろからライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」を使い、風月やアネロワに餌をあげたり、体を洗ったり、一緒に出かけたりする様子を配信したところ、「かわいい」「癒やされる」といった反響が寄せられました。

「自粛で引きこもっている人が多かったからでしょうか。風月やアネロワの様子だけでなく、緑や鳥のさえずりといった淡路島の景色や雰囲気も喜ばれ、手ごたえを感じました。また、これまで牧場は来てなんぼ、体験してもらってなんぼだと思っていましたが、コロナによってみんなの価値観が変わってきているのではないかとも思いました」(山下さん)

 ライブ配信では、意外な収穫もありました。馬のことをよく知る人でないと扱うことが難しいため、なかなか活躍の機会がなかったアネロワの存在がクローズアップされたのです。牧場での乗馬体験だと、性格が穏やかな風月を連れていく機会が多かったのですが、ライブ配信では、風月とアネロワを平等に紹介することができました。立ち姿が美しいアネロワにファンも付き、山下さんは「活躍の場ができてうれしかった」と話します。

サラブレッドのメス「アネロワ」と。ライブ配信では、その立ち姿の美しさに引かれる人もいたという
サラブレッドのメス「アネロワ」と。ライブ配信では、その立ち姿の美しさに引かれる人もいたという

 オンラインを活用した「くらしに馬を」取り戻す活動を模索し始めた山下さん。5月半ばに知人で淡路島在住のファシリテーター、青木将幸さんに誘われて、さまざまな活動を行う「場」づくりをテーマにした「オンライン合宿」に参加します。そこで、青木さんとともに合宿を企画した兵庫県尼崎市を中心に「場」づくりを展開する藤本遼さんの話を聞き、自身の取り組みについて話したところ、意気投合しました。

 実は山下さんは以前から、シェアホースアイランドの活動に手ごたえを感じつつも、違和感を覚えていました。観光牧場として運営していたため、訪れる人たちに馬との触れ合いを楽しんでもらえても、リピートしてもらうなどして本来のコンセプトである「くらしに馬を」を浸透させるのは、なかなか難しかったのです。牧場は主に山下さん1人で運営しているため、「一緒に整備などをする仲間がほしい」という思いも強まっていました。

馬小屋「yosuga」の裏にある里山で整備中のプレーパーク
馬小屋「yosuga」の裏にある里山で整備中のプレーパーク

オンラインを活用した「馬と共生する秘密基地づくり」へ

 山下さんは、新型コロナの影響を受けて「根本的にやらなければいけないことは、(競走馬の登録抹消などで多くの馬が殺処分されているという)馬が置かれた状況を知ってもらい、より馬とのかかわりにコミットしてもらえるような流れをちゃんと作っていくことだ」と思うようになりました。そこで、藤本さんとともに、オンラインを取り入れた「馬と共生する秘密基地づくり」に取り組むことにしたのです。

 それと同時に会員制を導入し、馬とかかわる人たちとのつながりを深めていくことにしました。オンラインをベースに4種類の会員を設定し、すべての会員に日々の風月やアネロワの様子を配信していきます。SNS「フェイスブック」の非公開グループの利用を想定し、2020年10月ごろから、週8回(1回45分)程度の配信を行うことを企画しています。

 会員はそのほか、馬を眺めながら交流する「オンライン馬場BAR」や、馬との「場」づくりを企画、運営するためのオンラインミーティングに参加することもできます。オンライン会議や飲み会などに馬を登場させられる「出張オンライン牧場」の割引のほか、会員の種類に応じて牧場での体験サービスの割引などの特典を盛り込み、馬と過ごす時間を増やしてもらおうと考えています。

 山下さんはこれらの取り組みを進めるため、現在、ウェブ環境の構築や森の中につくったプレーパークなど牧場のインフラ整備を行うための費用をクラウドファンディングで募っています。8月末まで行う予定で、返礼品は、先に書いた会員権や特産のタマネギをはじめとした島の野菜セット、Tシャツなどのオリジナルグッズ、乗馬の体験チケットなどです。島内の子どもたちに馬との触れ合い体験をプレゼントし、「馬と過ごす未来」を考えるきっかけにしてもらう返礼品もあります。

「馬とのくらし」で日常をより豊かに

「スマートフォンで日々馬の様子を見るというのが、その人の暮らしに馬が入ってくるということになりますよね。リアルで来てもらえたらより体感はできますが、オンライン牧場を通して、馬がいることで日常をより豊かにしてもらえたらうれしいです」と山下さん。クラウドファンディングの企画として、藤本さんや神戸の牧場でカウボーイをしている男性、佐賀で流鏑馬の復活に取り組む男性、浄土真宗本願寺派僧侶の女性などバラエティー豊かな人々との対談をライブ配信し、「馬を軸にしたコミュニティ」づくりを進めています。

 山下さんは「機械が出てくる以前から、馬と人間との間には長い歴史があります。競馬か乗馬かという選択肢しかないのはもったいない。いろいろな切り口で馬の魅力を発信していきたい」と意気込みます。

 山下さんの話を聞くうちに、「くらしに馬を」というコンセプトと、オンラインとの相性は良いのではないかと思うようになりました。オンラインを通じた新しい馬とのかかわり方が世の中にどう受け止められ、広がっていくのか。今後に期待しています。

シェアホースアイランドのホームページ

撮影=筆者