提供精子・卵子による生殖医療 親子関係を明確化する法案提出を契機に望まれる本格的な議論

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配偶子(精子や卵子)の提供 自・公・国民などが法案提出

 自民,公明,国民民主などの各党は,夫婦以外の第三者から卵子や精子の提供を受け不妊治療を行い出産した場合に,生まれた子との法的な親子関係を定める民法特例法案を,26日からの臨時国会に提出する.

 法案では,第三者から卵子の提供を受けて出産した場合,「卵子を提供した女性(遺伝的母親)ではなく出産した女性が民法上の『母』」と規定する.また,夫が同意したうえで,妻が精子の提供を受けて子どもを出産した場合,「遺伝的にはつながりはないが,同意した夫は『父』であることを否認できない」とする.

法的に不安定な立場にある「精子や卵子の提供により生まれた子ども」

 日本において,無精子症の男性に対する不妊治療として「第三者から提供された精子による人工授精(AID,あるいはDI)」が始まったのは1948年であり,翌1949年に最初の女の子が誕生している.それから約70年が経過し,国内で提供精子による人工授精で生まれた子どもは1万人以上とされる.しかし,日本産科婦人科学会の認定施設以外でもAIDは行われている現実があり,提供精子により生まれた子どもは2万人とも3万人とも言われる.また,近年の晩婚化,晩産化に伴い,妊娠しにくい年齢になった女性が,卵子の提供を受けて子どもを産む例も確実に増加している.

 このように,精子や卵子の提供により生まれた子どもが増加する中.種々のトラブルも起きている.裁判例としては,夫の同意がないまま行われたAIDにより生まれた子に対して,夫の嫡出否認(子どもとの父子関係を否定)の訴えを認めた判決,夫の同意を得て行われたAIDにより生まれた子に対して,夫の嫡出否認の訴えを許さなかった判決などが有名である.このような裁判やトラブルを回避するためにも親子関係を規定する法整備の必要性が指摘されていた.

進むか?本格的な議論

 私達の実施した全国の一般市民への調査(2019年,図1)において,また,全国の体外授精などを含めた生殖医療を実施している医療施設の代表者への調査(2018年)において,いずれも約7割が,配偶子(精子や卵子)の提供や代理出産などの第三者が関与する生殖医療に関連する法律は「必要」と回答している.海外を見てもヨーロッパの多くの国では,すでに1980~1990年代にかけて生殖補助医療に関する法律を整備している.

 もちろん,日本で何も議論されていなかったわけではなく,2003年の厚労省の厚生科学審議会「生殖補助医療部会」の報告書では,「精子,卵子又は胚の提供による生殖補助医療を一定の条件の下で認める」とするとともに,それを実施するためには「生まれた子の親子関係に関する法整備が必要」と提言している.また,2016年には自民・公明両党のプロジェクトチームが法案としてまとめてもいる.しかし,党内での調整がうまくいかず国会提出には至らなかった.

図1.配偶子(精子や卵子)の提供,代理出産など「第三者の関与する生殖医療」に関連する法律は必要か   (当研究室で実施した全国の一般市民への調査(2019年)から)
図1.配偶子(精子や卵子)の提供,代理出産など「第三者の関与する生殖医療」に関連する法律は必要か   (当研究室で実施した全国の一般市民への調査(2019年)から)

議論すべきことは多い

 今回,法案が国会に提出されることにより,議論の歯車が動き出すことになるが,「配偶子(精子や卵子)の提供により生まれた子どもの親を規定する」のみの議論では終わらない.

 精子や卵子の提供を受ける対象は法的夫婦に限るのか,独身女性や同性パートナーシップを持つ性的マイノリティ当事者を含めるのか.また,精子や卵子の提供者が不足する中で,SNS上での個人的な精子の売買,世界最大の精子バンクであるクリオス・インターナショナル(デンマーク・オーフス)の日本上陸,卵子を求める女性の台湾への渡航などが社会的に注目されている.不足している提供者(ドナー)を海外に求めるのか国内に求めるのか,提供は有償とすべきか無償とすべきか,ということも論点となる.このように,法制化に伴って議論すべき課題は多い.

精子や卵子の提供により生まれた子どもの「出自を知る権利」

 法制化に伴って議論すべきことの中でも大きな課題の1つとして,精子や卵子の提供により生まれた子どもが提供者(遺伝上の親)の情報を知る権利,すなわち「出自を知る権利」を認めるかという点がある.かつて,「出自を知る権利」を認める方向での議論が始まったとたんに,精子ドナーが激減し,提供精子による人工授精の認定施設も減少してしまったという歴史がある.

 しかし,私達の全国の一般市民への調査(2019年)では,約27%が「出自を知る権利を認めるべきと思う」と回答しており,「どちらかと言えば思う」を加えると約65%と高率であった(図2).「出自を知る権利」をうやむやにしたままでは法制化は困難である.

 いよいよ始まる国会での議論の中で,さまざまな課題について「国民がどのように考えてきたのか,現在,どのように考えているのか」という視点は重要である.観念論にとどまらない現実的な議論が望まれる.

図2.「配偶子提供で生まれた子どもの『出自をする権利』を守るべきか」についての意識          (当研究室で実施した全国の一般市民への調査(2019年)から)
図2.「配偶子提供で生まれた子どもの『出自をする権利』を守るべきか」についての意識          (当研究室で実施した全国の一般市民への調査(2019年)から)

【参考】

(参考1) 人工授精と体外受精との違いなどを確認したい方は,社会に出る前に生殖医療の基礎知識を知っておくためのマンガ冊子「ライフプランを考えるあなたへ―まんがで読む―『未来への選択肢』基本編(2020年改訂版)」をご覧ください(岡山県と制作,無料ダウンロード可能).

http://www.okayama-u.ac.jp/user/mikiya/pamphlet.html

(参考2) 性同一性障害当事者が,提供精子による人工授精で父親になるための裁判について知りたい方は,保健指導リソースガイド「LGBTと自殺,社会的養護,家族形成:里子・里親,特別養子縁組」をご覧ください.

http://tokuteikenshin-hokensidou.jp/opinion/015/004/no2-4-lgbt.php