新型コロナ感染症の拡大で注目される血栓症 実は,外出の自粛でエコノミークラス症候群に気をつけたい人々

 5月18日に発行された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(第2版)には,COVID-19の症状として「血管障害」が加わった.米国マウントサイナイ医科大学病院のチームが「若い脳梗塞患者の搬送が約2週間で5名(通常の7倍)と相次ぎ,COVID-19陽性であった」と発表したのも記憶に新しい.オランダでは,コロナ肺炎のためにICU(集中治療室)に入院中の患者184名のうち約31%に血栓が見られたとの報告もある(文献1).

COVID-19といろいろな血管障害

 今回の「COVID-19診療の手引き」には「若年患者であっても脳梗塞を起こした事例が報告されており,血栓症を合併する可能性が指摘されている.また,軽症患者として経過観察中に突然死を起こすことがあり,これも血栓症との関連が示唆される.小児では,川崎病様の症状を呈する事例もあることが欧米から報告されている」と記載された.川崎病とは全身の血管に炎症が起きる小児の病気である.COVID-19では,足がしもやけのようになるCOVID toes(コロナのつま先)になる例が知られており,これも皮膚の小血管の障害が原因とされる.

新型コロナウイルスが血管内皮に接着

 新型コロナウイルスはアンギオテンシン転換酵素2(ACE2)というタンパク質を受容体として利用して細胞に接着する.このACE2は血管の内皮細胞の表面上にも存在しており,ウイルスの接着が契機となり血管炎が発生するとされる(文献2).血管は肺を含めて全身の種々の臓器に広がっており,どの臓器がターゲットになってもおかしくない.また,一般的に血管障害を持ちやすいことが知られている男性,喫煙者は要注意であるし,もともと血管にダメージのある高血圧,糖尿病,肥満などの人々が重症化しやすい一因にもなっているかもしれない.

テレワーク・リモートワークで座り続ける生活

 岡山大学でも,しばらくオンライン授業が続いている.学生のキャンパス内への入構再開をどのように進めるかなど,COVID-19に関する会議,会議の連続で,気づいたら4~5時間もコンピューターの画面に向かって座りっぱなしということもある.

 外出の自粛で,在宅勤務が続き,コンピューターの前で座りっぱなし,あるいは,ゲームに夢中になり座りっぱなしという人も多いのではないだろうか.座った姿勢で下肢の血管が屈曲した状態が続くと,血流が滞(とどこお)り血栓ができやすい.そして,立ち上がった後に血栓がはがれて流れ出し,肺の血管に詰まると肺塞栓症で呼吸ができなくなる.いわゆるエコノミークラス症候群(ロングフライト血栓症)と呼ばれ,場合によっては死に至る.

意外と多い!エコノミークラス症候群になりやすい人々

 50歳以上の人,喫煙歴,肥満,糖尿病などがある人は,すでに血管障害が発生していることが多く,エコノミークラス症候群に注意が必要である.職業としては,座りっぱなしの長距離の運転手,暑い環境でも飲水できない仕事をしている人,また,格闘技やマラソンの選手のように,繰り返し下肢の血管にダメージを受けている人などはハイリスクである.

 災害時の避難所生活,車中泊など,足を屈曲して寝る場合には注意が必要である.手術中や手術後は足を動かせず,血栓症が発生しやすいため,弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法(ポンプで血流を補助する)などが用いられる.さらに手術後の3か月間は血栓に要注意とされる.

流産や死産を繰り返す不育症女性

 妊婦や産後の母親に,血栓ができやすいことはよく知られている.一生のうちに流産を経験する女性は約4割ともされ,2回以上の流産を経験する女性は4.2%(約24人に1人)と多い.このように流産や死産を2回以上繰り返す「不育症」の女性の中には,抗リン脂質抗体症候群(血管内皮を攻撃する自己抗体を持つ)やプロテインS低下症(血液を固まりにくくする物質が少ない)など,血栓を起こしやすいことで流産や死産になっている例が多く見られる.20代や30代で受診してきた時には,すでに動脈硬化が進んでいたり,中には,深部静脈血栓症(DVT)を経験していたりする不育症女性も見られる(文献3).

 このような女性には,妊娠したら低用量アスピリン(バファリン81やバイアスピリンなどの内服薬)やヘパリン(通常は皮下に自己注射をしてもらう)などにより血液がサラサラ流れるようにする抗凝固療法を行い流産や死産を予防し,その効果は高い.しかし,子どもを持ち不育症の治療が終わっても,血栓ができやすいことは変わらない.その後の人生の早い時期に脳梗塞や心筋梗塞を起こすこともある.

ホルモン剤と血栓症

 子宮内膜症や月経困難症の治療のために,保険適用で処方できる低用量ピル(2種類の女性ホルモンが含まれるLEP製剤)を内服している女性は増えている.この低用量ピルは,月経痛に悩む女性のQOL(生活の質)を上昇させるのに大きな役割を果たしている.しかし,頻度は高くないものの血栓のリスクがあるため注意が必要である.

 岡山大学ジェンダークリニックを受診する性同一性障害当事者(トランス女性:心は女性,生まれた時の戸籍は男性)のホルモン療法では,さらに多くの量の女性ホルモンが使用される.このため,血栓症のリスクはさらに高くなる.外来でも,エコノミークラス症候群への注意喚起はもちろんのこと,肥満や喫煙のある人には生活指導を行っている.

 現在の日本では,性同一性障害の手術療法は保険適用となったもののホルモン療法は自費のままである.また,自身の性別違和感を誰にも言い出せない当事者も多い.このため,個人輸入をした安価な女性ホルモン製剤を内服している人もいる.しかし,このように医療的な管理下ではないホルモン療法は危険であり警鐘を鳴らしたい.

エコノミークラス症候群の予防法は?

 まず,自分がリスクを持っていないかをチェックすることから始まる.もともと血栓症のリスクの少ない人に対しても推奨されることとしては,長時間の座位や暑い環境などを避けること,また,少なくとも2~3時間おきには,立って動くことである.座ったままでも,かかとやつま先を上下に動かしたり,腹式の大きな深呼吸をしたりすることが,エコノミークラス症候群の予防に有効である.

 脱水は禁物である.適度な水分補給をすること(1日1リットル以上,熱中症でなければ,スポーツドリンクではなく,ミネラルウォーターや薄めのお茶などで水分補給)が必要である.また,利尿作用があるコーヒーやアルコールの摂り過ぎを控える.リモートでの飲み会も増えている.人とつながることでメンタルケアには大いに役立つが,アルコールの摂り過ぎとともに,座ったままの姿勢で眠ってしまうことがないよう,血栓の発生にも注意をしたい.

 さらに,血栓症の既往歴のある方,血管障害や凝固の異常がある方,多くのリスク因子を持つ方の場合,長距離フライトや車での長距離移動など,エコノミークラス症候群の発生しやすい状況になることが予測される時には,低用量アスピリンなどの予防的な内服も考慮すべきである.

文献1.Klok FA,他:Incidence of thrombotic complications in critically ill ICU patients with COVID-19. Thromb Res. 2020 Apr 10:S0049-3848(20)30120-1. doi: 10.1016/j.thromres.2020.04.013. Online ahead of print.

文献2.Varga Z,他:Endothelial cell infection and endotheliitis in COVID-19. Lancet. 2020 May 2;395(10234):1417-1418. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30937-5. Epub 2020 Apr 21.

文献3.中塚幹也:不育症と血管障害.Reprod Immunol Biol. 2016:31:1-8, doi: https://doi.org/10.3192/jsirib.31.1

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