混乱が続いた熱海国際映画祭…現場で見えたものとは

熱海国際映画祭で最優秀監督賞と最優秀俳優賞を獲得した『ひとくず』(配給提供)

 6月28日から熱海市内で開催されていた「第2回 熱海国際映画祭」が7月1日に閉幕した。だが残念なことに、「熱海国際映画祭」の名前は違った形で有名になってしまった。一体、熱海で何が起こったのか。実際にこの目で確かめることにした。(文中・一部敬称略)

■熱海国際映画祭、いったい何が起こったのか?

 そもそも今回の騒動というのは、昨年6月に行われた第1回映画祭の赤字分の費用負担について「熱海市」と「映画祭実行委員会」が対立。熱海市が映画祭の運営から撤退したことで、民間で運営するという事態となった――というのがことの経緯だ。

 そもそも熱海国際映画祭とは、どのような映画祭なのだろうか。公式HPによると、同映画祭のミッションは「才能を埋もれさせない!」。今となってはどこまで出来るのかは不透明ではあるが、若いクリエーターを支援するため、以下のイベントを行うと宣言している。

・「映画の創り方」セミナーを日本全国で実施し才能を育てます。

・日本における劇場公開、DVD発売、テレビ放送、インターネット配信、の仕組みをコネの無い内外の映画製作者達に提供します。

・本映画祭での受賞作は日本での劇場公開、大手エアライン機内での上映、テレビの映画チャンネルで放送、海外映画祭での上映のチャンスが与えられます。

 その他、「作品上映後の監督との質疑応答」「開催期間中に行われる映画監督による映画術セミナー」なども用意され、さらに映画制作者と映画ファンの交流の場として、「カクテルパーティ」「熱海市内の指定居酒屋での語らいの場」なども企画されていたようだ。言うまでもなく、映画祭の役割というものは映画文化を通じて人々の交流を図ること、そして映画の多様性を認め、広く紹介する、ということにある。そういう意味においては、同映画祭の基本的なスタートラインに関しては共感できる部分もある。

■それでも映画祭の幕はあがる

第一会場のホテルサンミ倶楽部(筆者撮影)
第一会場のホテルサンミ倶楽部(筆者撮影)

 紆余曲折あった同映画祭だが、今年は長編作品を中心に上映する「ホテルサンミ倶楽部」を第1会場に、短編作品を上映する「Cafe Bar ennova」を第2会場として実施されることとなった。鑑賞料金は第1会場が1本あたり800円。長編映画が1日3本観られる「1日全作品鑑賞券」が1500円。そして10本近いショートムービーを鑑賞できる第2会場の「1日全作品鑑賞券」が1000円。自腹で参加しているため、もう少し支払わなきゃいけないかなと思っていたが、思ったよりも安いなという印象だ。これで採算がとれるのか、それについて髪林代表に直撃すると「基本的には赤字ですよね。でも規模が縮小しているんで、去年ほど大変ではありません」と語ってみせる。

 審査員は、詩人で映画評論家の園田恵子氏、映画プロデューサーのアダム・トレル、女優・映画監督の桃井かおりらが担当。今年は1300本近い作品の応募があり、その中から選出された長編8本、短編24本がコンペティション部門で上映された。

 6月28日、オープニングセレモニーが行われたのは「起雲閣」。かつて志賀直哉、谷崎潤一郎、太宰治といった文豪に愛された旅館で、現在は熱海市の文化財として一般公開されている。残念ながら筆者は、別件の取材のために初日に立ち会うことができなかったが、その時の様子は以下の記事に詳しい。

カンヌのようになれたはずが…第2回熱海国際が“もったいない映画祭”となったワケ

 準備不足が災いしたのだろう。期間中、機材トラブルが起こったり、一部の外国語作品は字幕無しで上映され、急きょ入場料も500円に値下げされるひと幕もあるなど、ドタバタもいろいろとあったが、それでも自分が見たところに関しては、全体的には想像よりも粛々と上映が進められたようにも見えた。髪林代表にそのあたりを尋ねてみると、「規模が縮小された分、きちんとコントロールができているんですよ」と返答。スタッフは実行委員、ボランティアを合わせても5~6人といったところ。昨年はボランティアスタッフの面で熱海市の協力があったというが、今年は熱海市が撤退したことにより、最少人数での運営を余儀なくされたという。

ennovaで行われた「インディ映画がカンヌで上映されるまで」の模様(筆者撮影)
ennovaで行われた「インディ映画がカンヌで上映されるまで」の模様(筆者撮影)

 市内のカフェバー「ennova」が会場の無償提供を申し出たことは大きかったように思う。同所の小口オーナーは「若いクリエーターの方たちが上映の場を奪われて、悲しい思いをしてほしくなかった」とその理由を説明する。宿泊施設も併設されているため、筆者も宿泊してみたが、非常に居心地がよく。バーでは、地元の方たちといろいろな映画の話をすることもできて、楽しいひとときを過ごすことができた。また、30日には「インディ映画がカンヌで上映されるまで」と題したセミナーを実施。カンヌ国際映画祭に出品経験のある八十川勝監督、竹本よしの監督らが実践的な話を披露。興味深いトークショーとなった。

■いったいこのゴタゴタの原因とは?

 6月30日には、起雲閣でクロージングセレモニーが行われ、審査員の桃井かおりらが出席し、各賞を発表した。そしてセレモニー終了後、髪林代表は「映画祭がなくなるとか、映画祭が二つになるとかいう話がいろいろとありましたが、最終的には一個だけの映画祭ができて良かったと思います。規模は小さくなりましたが、ノミネート作品を上映できて。授賞式もできたので、良かった」と安堵の表情を見せた。

審査員の桃井かおり(筆者撮影)
審査員の桃井かおり(筆者撮影)

 コンペティション部門の審査員に、女優の桃井かおりが参加したことは大きな話題となった。「騒動のことは、オープニングのちょっと前くらいに聞いて。Googleで調べて、そうなのかぁと思ったんですよ」と切りだした桃井は、「あたし、国際映画祭で審査員を14箇所くらいやっているけど、どの映画祭もゴタゴタはあるわけ。カンヌでもベルリンでもそうだから」と笑ってみせつつも、「やっぱりフィルムを預けたクリエーターたちがいるから。彼らにとってはここがチャンスを掴むきっかけではあるわけだから。あたしの立場としては、彼らにチャンスをあげたいということですよね」とキッパリ。メディアに向けてそうしたコメントをしっかりと発信できるところに、彼女の優しさを感じた。

 いったいこのゴタゴタの原因はどこにあったのか。髪林代表を直撃したところ、その理由として「映画祭実行委員会に入っていただいた関係各所のガバナンスがうまくできなかった。皆さんが良かれと思っていろいろやったことを、中央でコントロールできなかったということが反省点」といったコメントが返ってきた。さらに「責任と権限は表裏一体じゃないということがやってみて分かったこと。今後必要なことがあるとすれば、責任を持てない方には権限は持たせてはいけないということ。去年に関しては、熱海市から、いろいろな会社に実行委員会に入って欲しいという意向があったので、その通りにしましたし、第2回についてもそうしました。でも今回は、結果として撤退された会社があったということで、規模は縮小されました。しかしこれくらいの規模の方がコントロールはできている。去年は、何かあっても報告されることがなかったので、予算も管理できなかったんです。でも今年は何かあれば報告がある。最初から市のお金をあてにせずに、これくらいの規模でやっていれば良かったなと思います」と反省点を述べると共に、「去年お手伝いをしていただいたのに、支払いができていなかった方には申し訳ないなと思っています。財政に限界があるので、時間がかかりますが、今後も未払いの分はしっかりとお支払いをしていきたいと思っております」と語った。髪林氏側の対応などは決して褒められるものではなく、彼に不信感を抱いている人も多いということは承知しているが、彼の言い分も聞いておきたいと思い、ここに記す次第だ。

■それでも映画祭は楽しい

 映画祭とは「出会いの場」であるべきだと思う。そういう意味で、今回の映画祭の個人的な収穫は、最優秀監督賞と最優秀俳優賞を獲得した映画『ひとくず』だ。

 日本で深刻な問題になっている児童虐待にスポットを当てて、現代の歪みの中に生きる人々を鮮烈に、圧倒的に描き出した本作。5月に行われたフランスのニース国際映画祭では上西雄大が外国語長編映画部門主演男優賞を、古川藍が助演女優賞をそれぞれ獲得したという。監督・主演を務める上西雄大の存在感は、まるで『竜二』の金子正次のようであり、『息もできない』のヤン・イクチュンのようであり。つまりはそういう映画だ。

 グランプリを獲得したのはウクライナの『ハルツカ・クセーニャ』。審査員の園田恵子氏も「音楽も色も美しくて。芸術性の高さから、全員一致でグランプリに決定した」と称賛する。本作のメガホンをとったアリョナ・デミアネンコ監督は「熱海国際映画祭は大切な映画祭。感謝したい。長い時間をかけて日本に来られるなんて信じられない。本当にうれしいです」と喜びのコメントを寄せた。

熱海の花火(筆者撮影)
熱海の花火(筆者撮影)

 

 映画祭とは楽しいものである。熱海は魚介類が豊富なので、食事が美味しい。温泉街なので、気軽に温泉に入ることができる。そしてこの時期は花火が打ち上げられる。当初の構想では、花火大会と連携した企画もあったという。映画を観た後は、外に花火が打ち上げられ。そしてうまいメシと酒、そして温泉でのんびり――なんて想像をしてみる。きっと楽しい映画祭になっただろう。どこでボタンを掛け違えたのか…。

 もう一度書く。映画祭は楽しいものである。ゴタゴタはもうたくさんだ。