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ディカプリオの培養肉ベンチャーへの投資報道に垣間見える日本人の環境意識を「ゼロミート」は変えるのか

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト
大塚食品の「ゼロミート」を使った「CITY SHOP」の新メニューI(筆者撮影)

カーボンニュートラル(脱炭素)を巡る動きが全世界的に急速に進行し、食品業界、とりわけ食肉業界にとって、無視できないものになってきている。

日本人にとって、この問題はまだどこか他人事だ。カーボンニュートラルやCO2削減目標も世界的な流れのなかでどこか押しつけられたもののように感じられる。だがニュースが新型コロナ禍に埋め尽くされ、情報の鎖国状態に陥ったこの1年半で海外のカーボンニュートラルに向けた動きはますます加速している。

先週、ハリウッド俳優であり、環境活動家であるレオナルド・ディカプリオが培養肉を手掛けるスタートアップ2社に出資するというニュースが報じられた。

三菱商事も出資する「培養肉」ベンチャー2社にレオナルド・ディカプリオが出資

https://www.businessinsider.jp/post-242877

この見出しが実に象徴的だった。日本人にとっては「三菱商事も出資する」というマクラがなければ、培養肉もレオナルド・ディカプリオの環境活動も縁遠い。そもそも「投資」が苦手な上に、培養肉スタートアップの背景にある脱炭素問題もよくわかっていない。ぶっちゃけて言えば、この問題については意識丸ごと世界から置いてきぼり状態と言っていい。

今回、ディカプリオが投資した2社のうち1社、モサ・ミート(Mosa Meat)はオランダに本社を置く、フードテックのスタートアップだ。2013年に世界初の培養牛肉のハンバーガーを発表し、今年2月にも約90億円の資金調達に成功して話題となった。

ではこのニュースを世界がどう報じたか。Googleで"Mosa"、"Meat"、"Cultivate"(培養)という3つの単語でニュース検索をしてみると、上位から順に以下のように表示された。

Leonardo DiCaprio invests in cultivated meat firms Mosa Meat and Aleph Farms(FOOD navigator.com/)

https://www.foodnavigator.com/Article/2021/09/24/Leonardo-DiCaprio-invests-in-cultivated-meat-firms-Mosa-Meat-and-Aleph-Farms

Mosa Meat and Aleph Farms Get Investment Help from Hollywood's Leonardo DiCaprio(Food Processing/)

https://www.foodprocessing.com/industrynews/2021/leonardo-dicaprio-invests-cultivated-meat/

DiCaprio invests in cultivated meat start-ups Mosa Meat, Aleph Farms(The Business Standard)

https://www.tbsnews.net/glitz/dicaprio-invests-cultivated-meat-start-ups-mosa-meat-aleph-farms-306010

いずれも見出しは実にストレート。「レオナルド・ディカプリオが、培養肉スタートアップのモサ・ミートとアレフ・ファームズに投資した」というものだ。Food Processingのみ"cultivated meat"(培養肉)というキーワードがなく、”from Hollywood’s”という枕をつけているが、これは目をひくキーワードとして盛り込みたかっただけだろう。

ちなみに4番目にはロイターの記事がヒットしたが、こちらの見出しも同様のテイスト。ちなみに記事のジャンルは「ファイナンス」である。

Finance

DiCaprio invests in cultivated meat start-ups Mosa Meat, Aleph Farms(REUTERS)

https://www.reuters.com/business/finance/dicaprio-invests-cultivated-meat-start-ups-mosa-meat-aleph-farms-2021-09-22/

つまりレオナルド・ディカプリオがハリウッドスターであるのを説明しないのと同様に、「培養肉」が「脱炭素」銘柄として投資対象なのは当たり前だという構造の見出しなのだ。

最近でこそ中堅・若手の社会人には「論理思考」「科学的思考」が重要視されるようになってきたが、この1年半のコロナ禍国の意思決定権を持つ政治家が論理に基づいた思考や行動ができないかが白日のもとにさらされてしまった。

成毛眞氏が著書「2040」のあとがきで「国をどうしようなんて考えるな、自分が生き残ることを考えよ」と書いたように大きな傘の下で守られる時代はとっくに終わっている。

この話を環境問題に置きかえると、一見「環境問題なんか考えるな」となりそうだが、そうではない。「温暖化が進む中で、自分が生き残る道を考えよ。それが結果として他者を救うことになればラッキーである」というような意味になるはずだ。

ちょっと古いが、WBC優勝チームでも王貞治監督とイチローが「まずは個」という意識を共有していたではないか。

どうすれば日本人は脱炭素への理解を深められるのか

では、そもそもカーボンニュートラルとは何か。遠い話ではなく、どうすれば自分ごと化できるのだろうか。和訳版の「脱炭素」というキーワードで、わかりやすく説明しているサイトがあった。

脱炭素のはじめかた、ざっくり早わかりガイド(SMFL)

https://dm.smfl.jp/datsutanso-guide

基本的に省エネルギー対策が書かれているが、例えば「再生可能エネルギー由来の電気を調達することで、対象設備のCO2排出を実質0にすることもできる」、「生成過程でCO2を吸収するバイオマス燃料は、燃料が燃焼することで排出されるCO2は実質に抑制される」などのTIPSにも触れられていて、「脱炭素による差別化で取引を優位にしたいのであれば」などの実用的なくすぐりも効いている。ビジネスパーソンなら、まずは脱炭素に取り組むための業務的な目的を定めるという切り口から、カーボンニュートラルという世界の潮流に乗る手もある。

食が好きな人なら、皿の上から理解を深める方法もある。

10月1日から青山のレストラン「The Burn」とデリカテッセン「CITY SHOP」では大塚食品の大豆ミートブランド「ゼロミート」を使った新メニューが展開される。

先日「CITY SHOP」の新メニュー「ゼロミートハンバーグのモロッコ風トマト煮込み"ケフタ"仕立て」を試食してきたが、「プラントベースミート、ここまで来たか」と思わせられる仕上がりだった。何かの肉に似ているかどうかではなく、大豆ミートにつきものの大豆臭が限りなく薄く、かつ食感と味わいが日本のハンバーグに近かった。普通に旨くて、正直ちょっと、いや、かなり驚いた。

ちょうど一年前の本稿でこんな記事を書いた。

アメリカの肉食の現状と加速する日本版フードテック。そして最新版Impossible肉インプレッション

https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuuratatsuya/20200930-00200895

このとき、プラントベースの"Impossible”を食べて想起したのは「不気味の谷」だった。

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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