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大野均さん、中村亮土選手がラグビー小学生大会をアピール「出会いの場は宝物」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
ラグビーのヒーローズカップをPRする大野均さん(右)と中村亮土選手=筆者撮影

 高校球児だけではない。夏休み、照り付ける陽射しのもと、高校ラガーも汗だくで楕円球を追いかける。小学生だって同じだ。新型コロナウイルスの感染対策を施しながら、ラグビーの練習に熱中していることだろう。全国大会という大きなステージを目指して。

 「小学生の出会いの場だと思っています」。ラグビーの「ヒーローズカップ」の実行委員長を務める元日本代表の大野均さんは8月上旬の記者会見で言った。朴とつとした口調でつづける。

 「この大会(の価値)は、対戦相手のライバル選手との出会い、日ごろ切磋琢磨を重ねるチームメイトの新たな一面との出会い、そして負ける悔しさとの出会いだと思っています」

 小学生のラグビースクール全国大会「ヒーローズカップ」は本年度、15回の記念大会として、10月に北海道大会がスタートし、順次、地区大会を実施、これまで16チームで争っていた決勝大会(23年1月・横浜)には計24チームが出場することになった。地区大会には全国で約300チームの出場が見込まれるという。

 前回大会では、大野さんは負けたチームの子どもたちの泣き崩れるシーンに胸を打たれた。もらい泣きは?と記者から聞かれれば、「やばいです」と笑った。

 「こちらも泣きそうになりました。悔しいだろうに、小学生が泣きながら、相手チームにエールを送っているんです。得難い経験ができているんじゃないかと思います」

 大野さんは日本最多の98キャップ(日本代表戦出場数)を誇る伝説のロックだ。福島県出身の44歳。小・中学、高校と野球に没頭し、大学からラグビーを始めた。ラグビーに魅せられて四半世紀。昨年から大会の実行委員長として、小学生への競技普及のために尽力している。

 大野さんの述懐。

 「僕は中学、高校と野球ではレギュラーになることはできなかったんです。ベンチから試合を見ていることが多かった。一生懸命、練習していたんですけど、試合に出られない悔しさは今でも覚えています」

 だから、と言葉を足した。

 「ラグビーでも試合に出られない選手がいます。そういう選手が練習で自分を犠牲にして、対戦相手の役をやってくれたりする。彼らのために、チームを代表して試合に出る以上は、やっぱり恥ずかしくないプレーをしないといけないとずっと感じていました」

 会見には、新たにバイスコミッショナーに就任したCTB中村亮土選手(東京サントリーサンゴリアス)も出席した。2019年ラグビーワールドカップで日本代表として活躍した31歳。「仲間と苦難を乗り越えていくところをみたい」と漏らした。

 「負けた後とか、ミスした後とか、チームとしてもう一回立ち上がって、仲間と一緒にプレーする体験をしてほしいなと思います」

 鹿児島県出身の中村選手は、幼稚園から中学校までサッカーに取り組んでいた。高校からラグビー。「恥ずかしい話ですが」と切り出した。

 「サッカーの時にはチームメイトを責めたりとか、ちょっとした周りのミスにふてくされたりとか、すごく幼稚な部分がありました。それが、ラグビーを始めて、変わったんです。自分自身にフォーカスして、チームメイトをどう助けられるか、人間的に変わるきっかけになったんです。だから、ラグビーに成長させてもらって、今の自分があります」

 ラグビーという競技は、いろんな体形、異なる持ち味の選手からなる、いわば多様性のスポーツである。ポジションごとの適性はちがう。中村選手は「ラグビーは人間性が一番出るスポーツ。本気でやればやるほど、人間味が出てくるんです」と説明した。

 最後に聞いた。将来、ラグビー日本代表になるためには、小学生の頃、どうすればいいのか? 中村選手は即答した。

 「とにかく、その時、その時、一生懸命に取り組むことだと思います。自分自身に正直にやってほしいなと思います」

 加えて、15回目の記念事業として、「ヒーローズフレンドシップラグビーフェスティバル」(ラグフェス)も各地で3回、開催。9月23日から3日間は長野県上田市菅平高原で行われる。リアルな試合やイベントは子どもたちにとって宝物となるだろう。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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