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ラグビー新リーグ、BL東京「楕円でつながる未来へ」トライ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
ラグビー体験コーナーでGKに挑戦する子ども(1日・アミノバイタル)=撮影・筆者

 ラグビーの新リーグ、リーグワンの“府中ダービー”が東京・味の素スタジアムで1日行われ、地元ファンの後押しを受けた東芝ブレイブルーパス東京(BL東京=旧東芝)が、首位の東京サンゴリアス(東京SG=旧サントリー)に27-3で完勝し、4強が進むプレーオフへ大きく前進した。

 まさにチームもファンも地域も一体となった「ワンチーム」の勝利だった。この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ(最優秀選手)に選ばれたBL東京のリーチ・マイケルは「ファンにすごく感謝しています」と言った。

 「雨が降っている中、こんなにたくさん(観客数1万169人)来てくれた。(新リーグになって)試合会場の雰囲気も変わって、リーグが面白くなってきた。間違いなく、ファンの応援がブレイブルーパスの力になっている」

 リーグが新しくなって、試合の興行権はホストチームに移った。BL東京にとって、ホスト最終戦。1月22日の味スタのホストゲームが相手チームによるコロナ感染で中止になったこともあって、この日にかけるBL東京の熱意、準備力は大きかった。

 「楕円でつながる未来へ」をスローガンとし、試合前イベントが大々的に実施された。スーツ姿のチームアンバサダーの元日本代表、“均ちゃん”こと大野均さんも忙しそうに動き回っていた。「チームとしての試合への取り組みが全然、変わりました」と説明する。

 「運営側も、ブレイブルーパスの存在意義だったり、価値だったりをしっかりアピールしようとしています。最後のホストゲームということで、シーズンの集大成として、お客さんに一日楽しんで家に帰ってもらえるよう、エンタメスペースを充実させています。(新リーグでは)ラグビー以外でも楽しめるのが大きいのかなと思います」

 BL東京は、新リーグ参戦に際し、チーム名を変更するとともに、「東芝ブレイブルーパス東京株式会社」を設立した。ホストタウンの府中市、調布市、三鷹市も観光PRブースを出店し、正午過ぎ(試合は午後5時KO)、味の素スタジアム横のアミノバイタルフィールドでは特別イベントが始まった。お祭りのごとき賑わいがあった。

 ラグビー体験コーナーには、どしゃ降りの雨にも、親子でざっと300人ほどが集まった。小学校低学年の子どもたちがマスク姿で楕円のボールに触れ、パスし、キックやタックルにトライする。笑顔で無邪気に駆け回る。すってんころりん…と転ぶ母親の姿も。

 運営サポートとして、東芝ラグビー部OBのほか、女子ラグビーやジュニアラグビーの“ブレイブルーパスファミリー”も参加した。車いすラグビー体験コーナーもあり、元ウィルチェアー(車いす)ラグビー日本代表の三坂洋行さんも応援に駆け付けた。加えて、日本体育大学などの学生ボランティア10数人も手伝った。みんなで運営、みんなで楽しむ、まさに「ワンチーム」の具現化だった。

 イベント運営を担当する東芝ブレイブルーパス東京株式会社・事業プロモーション部の伊藤真さんは雨に濡れながら、「雨でもこんなにたくさんの子どもたちが来てくれて…。もう感動です」と言葉に実感をこめた。

 「“楕円でつながる未来へ”のスローガン通り、多くの人がつながり、ラグビーを広げていこうとイベントを企画しました。まずは楕円球に触れてもらって、ラグビーを知ってもらう。試合を見てもらって、ラグビーってオモシロいなと感じてもらう。テーマが“ハブ・ファン(HAVE FUN)、シェア・ファン(SHARE FUN)”。みんなで楽しんでもらって、一緒に盛り上がっていこうということです」

 イベントはまた、ダイバーシティ(多様性)に満ちていた。ラグビーという競技性と一緒だ。車いすラグビー体験コーナーでは、子どもたちが恐る恐る車いすに乗って、三坂さんのやさしいタックルを受ける。ガッシャ~ン。「うわぁー」「すご~い」。指導役の三坂さんは「ラグビーの多様性を体験してもらえるのはうれしいですね」と笑った。

 「まだパラスポーツの発信力は弱いところがあるんです。でも、こうやって車いすのラグビーがあると知ってもらえるのは大きい。からだが不自由でもスポーツを楽しむことができる。プレーヤーもやる意義が生まれ、応援してくれる人が増える、こんな機会ってありがたいなと思います」

 実は、三坂さんに声をかけたのは、元日本代表主将で東芝OBの廣瀬俊朗さんだった。廣瀬さんも車いすコーナーを楽しそうに見つめていた。「子どもに限らず、大人まで、いろんな楽しみに触れてくれるのはすごくいいことだと思います」と言った。

 「ラグビーの試合はオモシロいですけど、それ以外のところでは、これまで、まだまだ、充実していませんでした。でも、(新リーグになって)いろんな仕掛けをして、試合以外の楽しみをつくるのはいいことだと思う。いろんなラグビーがある、価値がある、それを知ってもらう機会になるんじゃないでしょうか」

 何はともあれ、新リーグ1年目、新たな価値創出・拡大を目指したリーグ運営は始まったばかりである。ホスト&ビジター制はうまく機能していくのか。チーム側の投資対効果、費用対効果は。はたまたリーグの収支は。

 新リーグの未来を聞けば、大野さんは少し考え、柔和な表情でこう、言った。

 「まだ、どのチームも手探りだと思うんですけど、今回出た課題を解決していけばいいんじゃないでしょうか。プロ野球やJリーグ、Bリーグのいいところをそのまま取り入れるんじゃなくて、ラグビー風にアレンジしていく。そうやって、これから、2年目、3年目とちょっとずつ成長していけばいいのかなと思います」

 新型コロナ下で試合の集客面は苦戦している新リーグ。でも、地域密着、ラグビー普及、人気拡大、市場拡大を図り、そしてリーグの価値創出・拡大を目指していく。人と人、人と地域、人と未来。そう、「楕円でつながる未来へ」なのだった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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