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信頼回復への第一歩、ダークネスを乗り越える~新リーグ開幕、東葛も「感謝」の全力プレー

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
リーグワンの初戦後の会見での東葛の瀧澤直主将(8日・柏の葉)=筆者撮影

 ラグビーの新リーグ、リーグワンが8日、幕を開けた。開幕前に外国人選手(契約解除)が違法薬物所持で逮捕されたNECグリーンロケッツ東葛も、ひたむきに走りぶつかった。信頼回復への第一歩。開幕戦を白星で飾ることはできなったが、地元ファンの心はつかんだだろう。

 「すべての方に感謝したいなと思っています」。東葛のプロップ瀧澤直(すなお)主将は試合後の記者会見でそう、言った。名前の如く、いつも誠実、実直。

 「この試合は、ほんとうに、だれにお礼を言えばいいかわからないくらい、多くの方々の協力と努力で成り立った試合だと思います。(薬物事件は)僕たちの責任で、僕たちが背負っていかないといけないものなので、そこに関しては重く受け止めています。ただ、僕らはラグビーで、グラウンドで見せることしかできません。僕たちはいろいろなものを背負ってしっかり戦えたと、チームのリーダーとしては自信を持って言えます」

 リーグは変わった。チームは戦力を強化し、35歳の瀧澤は主将に戻った。プロ選手にもなった。この5カ月間、この日のために努力してきたといっても過言ではない。無実の選手たちにはなんの罪もなかろう。試合ができるありがたさ、その感謝の気持ちをひとつひとつのプレーに込めた。

 グラウンド周りに雪が残る柏の葉公園陸上競技場。観客が3651人。凍てつく寒さの中、東葛の選手は、横浜キヤノンイーグルスに挑みかかった。移籍加入の元日本代表のSH田中史朗ら、だれもがからだを張った。試合終了直前、新加入のFBトム・マーシャルのパントキャッチから好機をつかみ、最後は移籍してきた日本代表のSOレメキ・ロマノ・ラヴァが中央に走り込んだ。12-33で試合終了。

 昨季のトップリーグの熊谷ラグビー場では、24-71で大敗していた相手だ。スコア的には力量差は縮まったとみてもいい。試合後、グラウンドで東葛の緑のジャージの円陣がつくられた。

 3分程は続いた。長い。どんな話を? と聞けば、瀧澤主将はこう、述懐した。

 「リーグワンは甘くはない。勝つことはやっぱり、簡単じゃない。でも、いい部分もいっぱいあった。負けは負けですけど、次にこの負けが必要な負けだったと思えるよう、さらなる努力をして、次に向かおうという話をしました」

 テレビ局の記者が質問で、「昨季とはまったく違うチームのように感じました。何が違ったのか」と感想を口にした。

 “タッキー”こと瀧澤主将の黒マスク下の顔がほころんだ。「そう感じていただいたことをうれしく思います」と言った。

 「負けたのに、うれしく思うのは変な話ですけど、違いを見せられたというのはうれしく思います。何が違うのかひとことでは言えませんけど、ことしのキーワードのエフォート、努力の積み重ねだと思います。グラウンドだけでなく、スタッフの努力であったり、チームのマネジメント、会社の努力であったり、いろんな人の努力が、昨年の熊谷とこの試合の違いを生んだんだと思います」

 東葛のエンブレムはロケット、そしてシーズンを宇宙に例える。シーズンスローガンが『REACHING FOR THE STARS』。夢や星にたどりつくためには、ハードワークや努力が必要だ。時には艱難(かんなん)辛苦も待ち構える。それを、チーム内では「ダークネス(暗闇)」と呼ぶ。

 開幕直前の一連の騒動も、いわば厳しい辛苦だろう。瀧澤主将は言葉を足した。

 「(星に到達するためには)ダークネスがある。いろんな悪いこと、つらいこと、いっぱいあるんです。そういうことを乗り越えていかないと、チームは団結できない。ネガティブではなく、ポジティブに、まだまだ努力してやろうと思っています」

 東葛にとってのSTARSは、リーグワンの勝利であり、信頼回復であり、地域のファンに愛されることだろう。暗闇があるからこそ、星々はさらに光り輝くことになる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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