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なぜスクラムは崩れるのかー激闘の明大対早大、ラグビーの不思議を考える

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
ラグビー明大対早大ではスクラムが再三、崩れた(26日・秩父宮)=撮影・齋藤龍太郎

 ラグビーのスクラムは難しい。ファンが優劣を理解するのはもちろん、選手が組むのも、レフェリーが判断するのも。先の大学選手権準々決勝の明大対早大ではスクラムに費やす時間が相対的に長く、スクラムの攻防がゲームの流れに影響を及ぼした。年の瀬、そこで考える。スクラムでなぜ、反則が起こるのか。

 寒波襲来、26日の秩父宮ラグビー場。明大が20-15で早大に逆転勝ちした。スクラムでは総じて明大が相手に圧力をかけ、とくに明大ボールのスクラムでは12本中7本でアーリーエンゲージ(レフェリーの掛け声よりも早く組む行為)やコラプシング(スクラムを故意に崩す行為)などの相手反則を奪いとった。

 前半だけではない。後半30分過ぎまで、スクラムの組み直しや反則がこれほど続くとは。試合後の拙稿で「レフェリーのスクラム・コントロールはどうだったのだろう」と書いたら、あるラグビーファンから「神聖なレフェリー批判はけしからん」と怒られた。

 もちろん、レフェリーは過酷なポジションである。心からリスペクトしている。でも、試合を円滑に進めるため、レフェリーとてマネジメント能力を高めていく必要があろう。選手やファンのフラストレーションを少なくするため。

 明大も早大も「自分たちのスクラム」にこだわった。明大の右プロップの大賀宗志は試合後の会見でこう、説明した。

 「自分たちのスクラムというのは、しっかり(相手と)スペースをとって、自分たちからあたりにいくこと。(フロントロー)前3人同士でやりあいがあって、なかなか、その、ちゃんとしたスクラムが組めずに時間が経っていって…。ただ、自分たちとしては、時間を使っても押し切れる自信はありました」

 対する早大の右プロップの小林賢太はこうだ。

 「ワセダもメイジも、フロントローの自分たちの組みたいスペースの取り合いになってしまって、うまくマッチしなくて。結果的に何本も組み直しがあって、そこで時間を使い過ぎてしまいました。どこがどうだったのかはいくらでも挙げることはできますけど、フロントローのお互いの兼ね合いが…。メイジは離れて組みたい、こちらはヘッドオンした状態から組みたい。そこの兼ね合いがうまくいかなかったと思います」

 試合から3日経った29日、旧知のレフェリー関係者に感想を聞いたら、「(スクラムに)時間がかかり過ぎていましたよね。もっとスクラムを含めたマネジメントができたんじゃないか、いや、しなければいけなかったと思うんです」と言った。

 「ワセダがダメだというのであれば、(反則を)繰り返しているのだから、(イエロー)カードを適用するとか、早めに何らかの策を講じるべきだったんです」

 そもそもスクラムの目的は、軽度の反則あるいは競技の停止があった後、早く、安全に、かつ公平に試合を再開することである。スクラムとは、通常、各チーム8人のプレーヤーがフォーメーションを組んで互いにバインドし、姿勢を低くして押し合うものだ。

 その際、レフェリーは「クラウチ(腰を落とせ)」「バインド(相手をつかめ)」「セット(組み合え)」と3段階の声をかける。ワールドラグビーの競技規則には、<プレーヤーは、まっすぐ、かつ、地面と平行になら、押してよい>と記されている。互いのチームがまっすぐ組み込んで止まろうと意識すれば、スクラムはそう崩れることはない。

 でも、ここで駆け引きが発生する。自分たちの有利な姿勢で相手に圧力をかけ、少しでも優位にゲームを再開させようとするのである。だから、崩れる。時には反則が起こることになる。

 先の明大対早大では組む前のセットアップ(構え)の際、離れて相手にヒットしたい明大と、相手と接近して組みたい早大との間合いの取り合いが行われていた。国内の試合では、海外のそれに比べ、バインドとセットのコール間隔が短いため、相対的に、組み込んだ後のスクラムの安定性を欠く傾向にある。

 また、傍目には明大フロントローが早大を押し上げていたように映ったが、レフェリーは早大がスクラムから頭を抜いてしまう反則をとっていた。簡単にいえば、崩す方の責任か、崩された方の責任か。

 レフェリーはスクラムのメカニズムがどうのこうではなく、ここはルールにのっとり、プレーヤーが上や下ではなく、まっすぐ、地面と平行に押そうとしているかどうかを基準に判断するしかなかろう。下に落ちる行為は比較的、分かりやすい。では、首を突き上げ、上半身を持ち上げているかどうか。

 人間だもの、笛が、どうしても押し勝っているチームに優位になるのはしかたない。しかも、スクラムでいえば、レフェリーはひとりで、8人8人の組み方や上体、バインド、足の位置など全部を見なければいけない。

 だから、レフェリー関係者は「何が起こっているのかを早くフォーカスすることが大事になります」と言った。「(一般論として)意図的に相手を突き上げるのは結果的にスクラムを崩す行為になるので反則です」

 大学選手権のベスト4にはFW、とくにスクラムに自信を持つチームばかりが残った。スクラムの攻防やいかに。観客がラグビーを楽しめるかどうかは、レフェリーのスクラム・マネジメントにもかかっている。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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