Yahoo!ニュース

信頼の結実「歴史を変える」。古豪・日体大が13季ぶりの全国キップをつかんだ理由

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
大学選手権出場を決め、笑顔で引き揚げる日体大の選手たち(27日=撮影:筆者)

 やはり『信は力なり』である。関東大学・対抗戦ラグビーで、大学日本一2度の実績を誇る日体大が、筑波大を35-17で破り、13季ぶりの全国大学選手権出場を決めた。歓喜の爆発。92キロのフランカー髙橋泰地主将は仲間の手で胴上げされ、137キロの右プロップ、ミキロニ・リサラらトンガ人留学生も泣いていた。

 試合後のオンライン会見。胴上げシーンを聞かれると、髙橋主将は「びっくりしました」と顔をほころばせた。

 「本当にもう、言葉にならないくらい、うれしかったです。自分たちの前に出るディフェンスをやり切れたことが勝因だと思います」

 27日、晴天下の江戸川陸上競技場。観客が1355人。寒風が吹くなか、日体大のタックルがさく裂した。挑みかかる気概にあふれていた。確かに攻撃では3人の留学生を中心に前に出た。でも、ディフェンスでは髙橋主将、小泉敦矢の両フランカーが地味ながらも、鋭いタックルを繰り返した。15人が「ひたむき」だった。

 その集中力、挑戦の気概は最後まで切れなかった。プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたSH梶田壮馬は「イッサツ(一殺)」という物騒な言葉を使った。

 「イッサツというキーワードで、ひたむきにタックルしました。必ず、ひとりがひとりを仕留める。蹴って(エリアを稼ぎ)、とにかく、ひたむきにタックルするという結果が勝利につながったと思います」

 この試合、ただ勝つだけでは、全国キップは手にすることができなかった。試合前の時点では日体大は6位だった。逆転でキップをつかむためには、勝ち点4差だった5位筑波大との直接対決で、8点差以上のスコアで勝たなければいけなかった。

 だから、試合の戦略はまず敵陣勝負で、PGの3点でも得点チャンスがあれば、積極的に狙っていった。試合中、点差は意識していたのか。そう聞けば、髙橋主将は「もちろんです」と即答した。 

 「いろいろと条件がありましたけれど、そのコントロールは自分とリーダー陣がするので、まずは自分たちの形を貫こう、点差は気にせずに0-0の気持ちでやっていこうという声掛けはずっとしていました」

 日体大は前に出る圧力で筑波大を圧倒した。パワフル結束でスクラムを押した。リサラが、NO8のハラトア・ヴァイレアがガツンガツンと相手をはじき飛ばした。WTBクリスチャン・ラウイも迫力満点のランで2トライを挙げた。

 ラグビー部の一体感を示す象徴的なシーンが、後半34分、がんばり屋のWTB皆川祥汰が好フォローからチーム5本目のトライを挙げた時だった。インゴール側のスタンドの上段に陣取っていた日体大の控え部員たちから大声が上がった。

 「ありがと~」

 今季は勝負の年だった。トンガからの留学生3人が最上級生となった。学生ラグビーはやはり、4年生が大事である。その4年生が結束した。髙橋主将は昨季、慶大戦において前十字じん帯断裂の重傷を負い、今年の夏合宿でようやく、復帰した。主将の述懐。

 「自分はひざのケガでグラウンドに立てない状況が続いていたんですけれど、同期の4年生がチームをまとめてくれて、自分が戻った時の居場所もつくってくれていたんです。4年生がひとりひとりやり切る力というか、リーダーになって3年生以下を引っ張ってくれて…。いいチームになりつつあるんです」

 そういえば、練習をのぞけば、グラウンド半分の周回走でも、4年生が一番必死に走っていた。ズルして角の目印のコーンの内側を走る選手など、ひとりもいない。単調な走り込み、基本動作の反復といった泥臭い練習にも全員が打ち込んだ。

 成長に手応えをつかんでいたのだろう、湯浅直孝ヘッドコーチ(HC)はシーズン序盤から、「歴史を変える」を合言葉とした。HCの言葉に充実感がにじむ。

 「まずは大学選手権に出ることが、最低限の目標でした。それが夢ではない。つかむところまできていることを自分たちで理解して挑んできた結果だと思います」

 チームとは生き物である。留学生のうれし涙にチームの一体感がみてとれる。1年生の時は、イライラしたり、周りとぎくしゃくしたりしていた留学生が、学年を重ね、チームプレーヤーに成長した。湯浅HCが言葉を足した。

 「みんながひとつになって勝利にむかってきたことが、チームのまとまりにつながったんでしょう。外国人だからと特別扱いすることなく、同じように、しっかり  フィットネス練習などをやらせるということが重要だと思っています」

 米地徹部長はこうだ。

 「4年生がよくまとまっていたというか、練習を一生懸命やってくれました。大学ラグビーはやはり、4年生のがんばりがものをいいます」

 もっとも日体大はシーズン序盤、慶大(●5-43)、早大(●0-96)に大敗した。挑戦の気概はもう切れてしまうのか。と、思ったら、いや、切れなかった。3戦目の明大戦(●10-46)は、この日と同じグラウンドだった。「イッサツ・タックル」で抵抗した。光が見えた。自信が芽生えた。梶田が笑顔で振り返った。

 「その時、自分たちがやってきたことがひとつの形になったんです」

 続く帝京大(●18-91)にも大敗したが、くじけず、立教大(〇65-10)、青学大(〇32-17)と調子を上げてきた。これで対抗戦5位として、大学選手権に挑む。初戦の相手は関東リーグ戦2位の日大となった。

 日体大は過去、大学選手権の決勝に5度、コマを進めている。最後が1989年度。古豪復活の期待もかかるが、髙橋主将は言葉に力を込めた。

 「過去に日体大が大学日本一をとっているのは正直、OBの方々の活躍であって、自分たちは自分たちの立てた目標に挑戦していくだけです。大学選手権に出場できるというのは、新たなスタート地点に立てたということで、またこれからもしっかり成長していきたい」

 つまるところ、新しき日体大ラグビーのスタートなのである。

 最後に。

 オンライン会見が終わる。ラグビー協会の広報担当が洒落たことを言った。

 「記者のみなさん、全員マイクをオンにしていただいて、拍手を送りたいと思います。日体大さん、おめでとうございました」

 競技場の吹きさらしのコンクリートの記者席。夕闇が迫るなか、笑い声と拍手が寒風に乗ったのだった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

松瀬学の最近の記事