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ラグビー人生の新たな旅、始まるーNTTコム・レイドロー

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
正確なパスを投げるSHグレイグ・レイドロー選手(NTTコミュニケーションズ)(写真:松尾/アフロスポーツ)

 待ちに待ったラグビーのトップリーグが20日、開幕した。見どころは多々あれど、海外から加入したビッグネームのプレーもその一つだろう。例えば、ラグビーワールドカップ(W杯)で日本代表を苦しめてきたスコットランド代表のSHグレイグ・レイドロー(NTTコミュニケーションズ)である。

 晴天下の江東区夢の島競技場。JR京葉線の電車の走行音が聞こえ、遠くには高層ビル群が見える。強風が吹き荒れたけれど、レイドローの正確無比なキックとパスワークはチームを勢いづけた。接点で優位に立ったFWをうまくコントロールし、35歳はテンポのいいパスさばきを見せた。プライドだろう、何といっても、からだを張った。

 前半36分、敵陣ゴール前の相手ラインアウトが乱れた際、レイドローはチャージで好プレーシャーをかけた。直後のマイボールスクラム。まずは左に回し、ラックから右へ。もういっちょラック。順目の右にパスすると見せてディフェンスを外に動かし、自分でタテにもぐり込んで右手一本でゴールラインぎりぎりに押さえた。

 逆転トライだった。結局、NTTコムはホンダに41-13と圧勝した。昨季までのチームと比べると、一つひとつのプレーに厳しさと結束が増し、安定感が加わった。レイドローの加入と無関係ではあるまい。

 「だれもが認めるワールドクラスの選手ですから」。試合後のオンライン会見。レイドロー効果を聞かれると、NTTコムのエドワードヘッドコーチは満足そうに口を開いた。

 「豊富な知識と素晴らしい人間性。チームにいい影響を与えています。とくに前半はいいパスをチームに供給していました。シンビンの時、グレイグ(レイドロー)は10番のポジションに入って、ちゃんとこなしました。その対応力、それが彼の実力です」

 レイドローは後半30分過ぎに交代した。ラインから出ると、チームスタッフと“グータッチ”。試合後は白マスクをつけて、チームメイトと勝利を喜び合った。

 ただ、オンライン会見には参加しなかった。そんな、殺生な。NTTコムのチーム広報にお願いすると、長いコメントを出してくれた。うれしいじゃないですか。

―これまでラグビーW杯の敵として戦った日本の地での初めてのリーグ、初めてのチーム、初めての公式戦です。感想は?

 「このチームでプレーできることを光栄に思います。チームと契約してから公式戦でプレーするまで時間が長く、この日を心待ちにしていました。プレーできたことを光栄に思います」

―キックオフ直前、どんなことを考えていましたか。

 「どの試合でも同じです。しっかりと準備ができていて、エナジーを発揮し、プレーすることを考えていました」

―コロナ禍による延期については。

 「このような厳しい状況に置かれているのはどのチームでも同じだと思います。そういった状況下でどれだけ適応できるかが大切だと思います。勝利に値するパフォーマンスをしっかり出せたと思います」

―開幕戦を白星で飾ったことは。

 「とてもハードだったと思います。特にイエローカードが出された10分間は厳しい状況でしたが、みんなで耐え続け、勝利することができました。いいスタートが切れました」

―自身12得点(1T、1PG、2G)について。

 「いいプレーができたと思いますし、ゲームの展開にも対応できたと思います。勝利に貢献できたことをうれしく思います」

―試合で満足した点と課題は。

 「いい点はたくさんあります。特にディフェンスで相手を13点に抑えることができたのは良い結果だと思います。アタックでもディフェンスでも、もっといいパフォーマンスを出して、次につなげたいと思います。規律もしっかり守っていきたい」

―チームの雰囲気は。

 「雰囲気はとてもよく、楽しんでいます。自分の経験を若手選手へ共有し、ゲームをコントロールするリーダーとしてもチームをサポートしていこうと思います」

 そういえば、レイドローは昨年、自分のインスタグラムに少人数のチームメイトと一緒に焼き肉を食べにいった写真をアップしたことがある。焼き肉が気に入ったようで、「日本の生活は最高過ぎる!」とつづっている。もっとも気さくな性格ながら、勝負にかけるスコットランド魂は本物だ。これがNTTコムのチーム文化を変えることになるだろう。

 176センチ、80キロ。レイドローはスコットランド代表76キャップのうち、39試合で主将を務めてきた。2015年W杯の日本代表戦でのハイパントは憎らしいほど絶妙だった。2019年W杯の最終戦、日本代表との敗戦後の涙には心を揺さぶられた。

 そんな印象深いスター選手が日本を新天地に選んでくれた。契約は2年。この地で現役を終える可能性は高い。以前、レイドローはラグビー人生を「旅」と形容したことがある。さあ新たな旅が始まった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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