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王者早大、精度&連係不足で苦戦スタートー異例の大学ラグビー開幕

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
ダブルタックルで前進を阻まれる早大・丸尾主将(4日・秩父宮、撮影:齋藤龍太郎)

 異例のシーズンである。チャレンジである。4日、新型コロナ禍の中、例年より約1カ月遅れで、関東大学対抗戦、リーグ戦が幕を開けた。ラグビー再開に感謝しながらも、活動自粛期間があったからだろう、どのチームもゲーム勘不足、泥臭い基本プレー、組織的攻防という点では物足りなかった。

 とくに昨季の大学王者の早大である。感染予防が徹底されての秩父宮ラグビー場。過去2シーズン(2018年・123-0、19年・92-0)零封してきた青学大に苦しんだ。終わってみればプロップ小林賢太らが7トライを奪って47-21と突き放したものの、後半20分ごろまでは5点差で食い下がられていた。

 「観客のいる秩父宮で開幕を迎えられたことをうれしく思います」。オンラインによる記者会見。早大の相良南海夫監督はそう、乾き切った口を開いた。

 「コロナ禍の中、おそらく選手も期するところが大きすぎて、終始、(動きが)硬くなっていました。ミスも多くて、なかなか流れをつかめない試合でした」

 早大は昨季の優勝メンバーから、スクラムハーフ(SH)齋藤直人(現サントリー)、スタンドオフ(SO)岸岡智樹(現クボタ)のハーフ団らバックスの主力が卒業した。加えてコロナの影響で、春のチーム活動自粛、恒例の長野・菅平高原での夏合宿を中止に追い込まれた。対外試合、実戦形式の練習が激減したのだから、どうしてもチーム作りは遅れることになる。

 しかも、この試合、ゲームのリズムをつくるロックの下川甲嗣やフランカーの相良昌彦、センター長田智希、フルバック河瀬諒介がけがなどで欠場した。初の公式戦出場選手も多く、つまらないミス、ペナルティー(相手と同じ13個)を続発し、チグハグな試合運びになった。とくにブレイクダウン周りでの反則が多く、これはレフリーの笛に対応できなかったこともあるが、二人目の寄りで青学大に後手を踏んでいたからだろう。

 相良監督が「規律の部分は修正していきたい」と振り返れば、ナンバー8の丸尾崇真主将は「実戦形式の練習が少ない中で開幕を迎えたので難しい面があった」と漏らした。

 「青学大の方が早くブレイクダウンにプレッシャーをかけていたので、2人目を早くしようとは(試合中)言っていたのですが、そこを完璧に修正できませんでした。これから、1戦1戦、試合の中で成長していけばいいなと思います」

 スタンドに駆け付けたマスク姿の観客4260人が沸いたのは前半の35分だった。早大が敵陣に攻め込んで連続攻撃を仕掛ける。ブレイクダウンからSH小西泰聖が左に回そうとしたパスを、青学大のウイング衣笠竜世にインターセプトされ、一気に70メートルほど走り切られてしまった。

 早大は全員が前のめりになっていたこともあるが、一瞬、バッキングアップへの切り替えが遅れた。SO吉村紘、FB南徹哉らが懸命に戻ったが、相手に追いつくことはできなかった。後半にもハンドリングミスを突かれてトライを献上した。早大がベースに置いてきた「ディフェンス」に不安を残した。ただ、相良監督はさほど心配はしていない。

 「(相手トライは)ディフェンス組織が崩されてのものじゃなかったので、そこに関してはまあ、そんなに問題視してはいません」

 気にするとしたらむしろ、昨季までの強さの基盤の「勝ちポジ」の意識の緩みか。これはプレーのキーワードで、「勝てるポジション」の短縮形。臨戦態勢だ。次のプレーに移るとき、体を前傾させて、目線を上げることを指す。倒れたらすぐに立つ。挑みかかる気概、前に出る準備を意識させる言葉なのだ。

 そういえば、今シーズンのチームスローガンは、「BATTLE」である。闘争。王者はどうしても守りに回りがちだが、攻める姿勢、ひたむきさを失うと成長が鈍化する。まずは日々、自分自身との戦いを重ねなければいけない、そんな部員たちの覚悟だろう。

 今年度の関東大学対抗戦はまず、中6日で3試合続き、10週間で7試合をこなす過密日程となっている。その後、大学選手権とつづく。もちろんコンディショニングが大事になるが、相良監督はこう、言い切った。

 「過密日程の中で、(学生の)メンタルもフィジカルも鍛えていきたい」

 ライバル校をみると、夏合宿を工夫して実施した明大、帝京大は快勝スタートを切った。大学2連覇に向け、王者早大がどう、チーム作りのスピードを上げていくのか。結束を強め、連係プレーの精度を高めていくのか。いわば「時間」との勝負である。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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