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「スクラム出ずる国」W杯4強に真っ向勝負

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
アルゼンチン戦の見どころとなるスクラム戦(写真は6月の日本×スコットランド戦)(写真:アフロスポーツ)

ラグビー日本代表(世界ランキング12位)は5日、昨年のワールドカップ(W杯)ベスト4のアルゼンチン代表(世界9位)にいどむ。ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)の初陣となる。最大の見どころはズバリ、ラグビーの肝のスクラムである。

3日。日本の共同主将のフッカー堀江翔太(パナソニック)は「スクラムを安定させたい」と言った。

「スクラムがキーとなるのかな。向こうはスクラムに自信を持っているので、ぼくがどれだけリードして、安定させることができるかがキーになると思います」

昨年のW杯での日本躍進の理由のひとつが強いスクラムだった。マルク・ダルマゾコーチの指導のもと、8人のまとまったスクラムがつくられた。過日、ワールド・ラグビーの会長として初来日したビル・ボーモント新会長はスポーツ・文化・ワールドフォーラム(東京)のラグビーセッションの基調講演で、「Land of the Rising Sun(日出ずる国)」をもじって、最近の日本ラグビーをこう称した。

「Land of the Rising Scrum(スクラム出ずる国)」。座布団10枚! うまいジョークだった。

その日本の持ち味をさらに強化するため、ヤマハ発動機のスクラムを日本一にした長谷川慎さんが臨時コーチとして日本代表のスタッフに入った。“ミスタースクラム”の指導は緻密、かつ明快である。「8人の塊(かたまり)」は変わらない。

スクラムについて変化を聞かれると、堀江は「スコットランド戦(ことし6月)とは全然違いますね」と答えた。

「あのときは選手中心で、こんかいは(長谷川)慎さんのシステム、考え方が入っています。8人で組むということを目的として、しっかりと細かい部分を出して具体化して、各ポジションの役割があるのです。細部がわーとたくさんあるので、わかりやすいですし、だれがミスしたのかというものもわかりやすい。それが完璧にできれば、いいスクラムが組めると思います」

アルゼンチン戦は左プロップに35歳の苦労人、初キャップの仲谷聖史(ヤマハ、170センチ、105キロ)が入る。W杯メンバーの三上正貴(東芝)のけがもあるが、慎さんのスクラムは熟知している。フッカーは堀江(180センチ、104キロ)、右プロップがおなじみの畠山健介(サントリー、178センチ、113キロ)である。キャップ数は0、44、75となる。

対するアルゼンチンのフロントローをみると、左プロップがルーカス・ノゲラ(179センチ、108キロ)、フッカーが主将のアグスティン・クリーヴィ(181センチ、110キロ)、右プロップはラミロ・エレナ(194センチ、123キロ)と並ぶ。キャップ数は28、55、28である。

日本はサンウルブズとして4月、アルゼンチンのジャガーズと対戦している。スーパーラグビーで唯一勝利を挙げた試合だが、スクラムは互角だった。その試合に出場したのはフロントローではいずれもフッカーだけである。マッチアップのサイズをみると、1番の仲谷と相手3番のエレナとの身長差、体重差がおおきい。

エレナは23歳ながら、もう28キャップを獲得している。スクラムもつよい。この日本の1番側の攻防がスクラムの安定のカギをにぎりそうだ。先発メンバー8人の平均をみると、日本は184センチ、109キロ、相手が189センチ、109キロである。

慎さんのスクラムの特徴は、足の位置やひざの角度、バインドの手の位置など、細部に厳しいことと、8人がひとつの方向に押す意識の徹底、フロントローの姿勢の安定、うしろ5人(ロックとフランカー、ナンバー8)の押しの徹底である。要は8人がロジカルにがちっとひとつに固まるのである。

初キャップとなるロック、梶川喬介(東芝、188センチ、105キロ)はスクラムの意識も高い。「しっかり8人それぞれの役割があります。その役割を100%やり切ることにフォーカスしています」と漏らした。

フランカーの三村勇飛丸(ヤマハ、178センチ、96キロ)はスクラムに関し、こう言った。こちらも慎さんの考えを熟知している。

「スクラムをどうやっていくかというのはヤマハとそんなに変わりません。そういう意味では、(ヤマハの)僕らがコミットして、全体に伝えて、チームとして(スクラムが)よりよくなっていくのではないかと」

アルゼンチンもまた、スクラムに絶対の自信を持っている。警戒するところは。

「アルゼンチンはでかくて、おそらく上から落としてくるようなスクラムを組んでくるので、それに合わせてこちらがあまり低く組むとコラプシングのペナルティーをとられる危険性があります。まとまらないで足をばたばたさせるとこちらがばらけてしまうので、まずはフッカーのところに(押す方向を)全員集めて、ひとかたまりとなって押して、相手をばらけさすようなイメージですね」

言うは易し、行うは難し、か。つまりは、8人で組む意識と「我慢」である。勝利の前提は、「スクラム出ずる国」がスクラムで優位にたつことだろう。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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