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リオ五輪、なぜサクラセブンズは金メダルと言い続けたのか

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
戦い終えたサクラセブンズの中村知春主将

リオデジャネイロ五輪の7人制ラグビー(セブンズ)では、男女の日本代表が明暗を分けた。男子が快進撃で準決勝に進出する一方、「金メダル」と口にし続けてきた女子『サクラセブンズ』は10位に終わった。10日、男子の試合を応援にきたサクラセブンズの中村知春主将は「もう頭が真っ白になりました」と漏らした。

「ようやく”強がらなくていい”じゃないですけど、金メダル、金メダルと言い続けてきたからこそ、ここ(リオ五輪)にこられたと思います。すべてが力不足でした。なんていうんですかね、やってきたことを100パーセント出せなかったことを含めて、自分たちの実力を思い知らされました」

結果はともかく、中村主将らサクラセブンズの5年間の努力は称賛に値する。多くを犠牲にして、ラグビーに没頭してきた。28歳の主将は、この5年間を「夢を見ているようでした」と振り返った。

「最後は多少の悪夢でしたが、夢みたいな時間でした。今日からは目を覚まして、現実を見て、生きていこうと思います」

なぜ、金メダルと言い続けてきたのか。理想と現実のギャップを感じながらも、サクラセブンズは「金メダル」を目標に掲げ、公言してきた。失礼ながら、本気だったのか、動機づけだったのか、と聞けば、中村主将は少し笑い、「どっちもですね」と言った。

「(このチームが)始まったときから、わたしたちの目標は金メダルだったので。ほんと、それ以外は考えていなかったんです。若い子たちが(負けて)一番悔しがっている姿を見て、私たちは金メダルという目標に向いていたんだなと思いました」

金メダルではなく、現実的な目標を掲げるという手もあったのではないだろうか。

「そうですね。もっと無難な目標もあったでしょうし、たぶん、やるべきだったと思います。でもこのチームは、それ(金メダル)があったからこそ、這い上がってこれたんだなと思います」

現実として、リオ五輪の試合ではサクラセブンズはほとんど何もできなかった。なにがショックかといえば、「自分たちの時間が格上の相手には1秒もなかった」ことだった。一回でも、波をつかめれば、結果も違ったかもしれない。

「ここまで気持ちよくボコボコにやられたら・・・」

初めてのオリンピックは終わった。つらかったですか?と問えば、「ほんとうに楽しかったですよ。夢を見ているような感じでした」とまた笑った。どこか切ない。

「オリンピックという舞台を五感で感じることができました。やっぱり、見たものと、見てないものとの差は大きいと思います。世界とのステータスとの差を見て、日本の女子のステータスを上げることが、私たちの責任だなと痛感しました」

今後のことはまだ、決めていない。この5年間と同じような練習に再び臨むことは難しいだろう。サクラセブンズの熱量がちがう。

「同じことをやっても、同じ結果になると思います。(この5年間は)理屈じゃなかったです。これからは、現実を見て、必要なことをやっていきたい。本当に新しくスタートを切ろうと思います」

日本はリオ五輪の結果、世界の強豪が集まるワールドシリーズのコア(中核)チーム入りを逃した。日本の強化は難しい環境下に置かれることになる。

「フィジカルの面でも、スピードの面でも、常に世界のレベルに触れておかないと、この差は埋まっていかないと思います」

次は2020年東京五輪である。中村主将にとっての選択肢として、海外挑戦もあるかもしれない。今回のリオ五輪で「個人、個人が世界レベルじゃないと戦えない」ということは明確にわかった。

「でも2016年の今年が東京五輪でなくてよかったと思います。今はだれも世界レベルじゃなかった。(2020年には)サクラセブンズの個人、個人が世界レベルにならないといけません」

ブラジルへの出発直前、願掛けで金色に染めた髪は色が落ち始めている。手の指の爪に描いた五輪マークも消えかけていた。濃密な5年、苦難のリオ五輪が終わった。

最後に。

中村主将は競技が終わった日の夜、チームミーティングで泣きながら、こう仲間に訴えたそうだ。

「金メダルを目指してきたけど、ほんとうに、これ(10位)が私たちの強さだと思う。でも、金メダルという存在が、何回も私たちを救ってくれたから、周りから何を言われようとも、これからも金メダルを目標に頑張っていこう。これからもきっと、その目標が私たちを救ってくれる。また這い上がろう」

2020年東京五輪のサクラセブンズの目標もまた、きっと「金メダル」なのだろう。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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