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迷いがみえた連敗発進のサクラセブンズ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
リオ五輪1次リーグの日本×英国(8月6日)(写真:ロイター/アフロ)

ああ落胆である。強い日差しのリオデジャネイロのデオドロ競技場。今大会から実施競技となった7人制ラグビー(セブンズ)の女子日本代表『サクラセブンズ』はよもやの連敗スタートとなった。しかも、どちらも惨敗。日本協会の本城和彦・セブンズディレクターは「迷いが見えた」と残念そうだった。 

午後零時半キックオフの初戦のカナダに0-45、午後5時開始の英国には0-40で敗れた。選手には大舞台ゆえの緊張もあったのだろうが、本城ディレクターは「自分たちがどうやって勝つのかということを見失っている気がする」と漏らした。

両試合とも、立ち上がりがひどった。カナダ戦は、日本が自分たちのキックオフで反則を犯し、PKから相手の速攻を食らい、ディフェンスラインの後方にロングキックを蹴られた。大黒田裕芽の反応が遅れ、相手に拾われて左中間に駆けこまれた。その後もディフェンスが乱れ、でかくて強いカナダ選手に縦横に走られ、計7トライを献上した。

カナダは、昨季のワールドシリーズ総合3位の優勝候補である。スピード、パワーが違うのは分かっていた。こういった格上のチームとやるときのポイントはとくに立ち上がりとなる。そこで、逆にやられ、カナダを勢いづかせたのだった。

「勝つためには、最初にとられたトライが致命的だった」と本城ディレクターは悔やむ。

「まずはディフェンスで粘って、粘って、攻撃のチャンスをものにしないといけないのに、この(カナダ戦の)入り方は最悪の流れとなってしまった」

サクラセブンズの戦い方とは、運動量で相手を凌駕することである。みんなで走り勝つことである。「世界一のハードワーク」で鍛えたフィットネス(体力)を生かし、素早い出足のディフェンスで相手をしぶとく止め、攻撃では10回でも20回でもフェーズ(局面)を重ねてトライを取り切ることである。でも、この日はディフェンスの出足もなければ、フェーズを重ねるにふさわしいプレーの精度、戦術の徹底、意思統一も希薄だった。

カナダ戦から約4時間後の英国戦、最初のキックオフから、タックルミスが相次ぎ、いきなりノーホイッスルトライを許した。その後もディフェンスが乱れた。たとえ相手を必死で倒しても、ボールをつながれてしまい、こちらは計6トライを与えてしまった。攻めてはまたも屈辱のノートライ。

もちろん、サクラセブンズの選手たちはがんばっている。冨田真紀子、横尾千里らの猛タックル、谷口令子、小出深冬の鋭いラン、主将の中村知春らも密集でからだを張った。でも、昨年11月のリオ五輪アジア予選でいったんピークとし、その後、さらなるチーム力アップには苦しんだ。

リオ五輪の他チームはほとんどがきっちり仕上げてきた。たしかに日本チームには主力の相次ぐけがもあった。戦術の若干の修正もあったのだが…。

もっとも、まだ五輪は終わっていない。7日(日本時間8日)に1次リーグ最終戦を開催国・ブラジルと戦い、勝てば準々決勝進出の可能性を残す。セブンズは、流れが突如、変わることもある。 

本城ディレクターは「自分たちのアイデンティティ、オリジン(原点)に戻ってほしい」と期待した。

「もう一度、素早い出足で前に出る、タックルする。反応をはやくし、つないで、つないでトライに結び付ける。運動量で勝負する。これしかない」

同感である。サクラセブンズらしいラグビーを五輪の舞台でみたい。あきらめない。これも、チームの強みなのだ。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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