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サクラセブンズ冨田、高まる金メダルの渇望

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
女子モーグルの里谷多英さんから金メダルを見せてもらう冨田真紀子

リオデジャネイロ五輪が近づいてきた。勝利への深い欲求、金メダルへの執着がいよいよ強くなってきた。21日に開かれたラグビー7人制日本代表『サクラセブンズ』の冨田真紀子が所属するフジテレビの壮行会。同局の女性アナウンサーから「オリンピックの目標は?」と聞かれると、冨田はこう、短く言い切った。

「もちろん、金メダルです」

同局には1998年長野五輪のフリースタイルスキー・モーグル女子優勝の里谷多英さんが勤めている。壮行会には里谷さん(事業局)も激励に訪れ、「だいぶ昔のものになってしまうんですけど」と照れながら、自身の金メダルを披露した。

赤いジャケット、白いスラックスの日本選手団の公式ウエア姿で現れた冨田は金メダルをじっとみて、「さわってもいいですか」とはにかんだ。

「重い。すごく重い」

冨田にとって、五輪金メダルをさわるのは生まれて初めてのことだった。壮行会の終了後、改めて金メダルの印象を聞けば、「すっごく重かったです」と声を弾ませた。

「オリンピック予選(2015年11月)でもらった時の金メダルより、全然重くて…。やっぱり“オリンピックって違うんだな”って思いました。オリンピック何回とか書いてあるのが、Xとか文字がついて(長野冬季五輪は第18回冬季大会)あって、ああオリンピックなんだなって」

金メダルをほしくなりましたか?と聞けば、冨田は笑いながら、言った。

「この重いのを、かじりたいなあと思いました」

冨田らサクラセブンズが「金メダル」と言い出したのは、もう5年ほど前になる。

「4年前とか、5年前とかに、金メダルが目標と言っても、相当アホなんじゃないかと周りから思われていましたし、自分でも言っていて、“大丈夫か、自分”って思っていました。でも、そんな中、コーチから“2016年のリオで金メダルを獲れないやつは帰れ!”と言われた時に、本当に(金メダルを)目指さなきゃいけないんだなと覚悟を決めたことを、きょう改めて、思い出しました」

その目標はずっとぶれなかった。7人制ラグビーの五輪採用が決定した年の翌年の2010年、日本は広州アジア大会では5位に沈んだ。失意の中で、チームメイトと、シンガー・ソングライター清水翔太の名曲『Journey(ジャーニー)』を聞いていた。その後もずっとこの曲を聞いて、がんばってきた。

冨田は言う。

「結果を残せなくても、これをみんなで聞いて、前を向いてきました。そういうのも旅なんだなあって。いろんなことがあるけど、チャレンジさせてもらえる環境にいるんだなと感謝して、ジャーニーの歌を聴いて、またオリンピックを目指そうと思ったんです」

冨田は、女子日本代表の「世界一のハードワーク」といわれる猛練習の合間、時にはフジテレビ社内の“大階段”の猛ダッシュにも取り組んできた。2階から7階くらいまでの一気に登れる階段を警備員の視線を感じながら走っていたそうだ。

「最初、ここで走っても大丈夫かなと思って、でもすごくちょうどいい階段だし、フジテレビだし、“いいか”って思って、最初はひとりでやっていたんですけど、さすがにひとりだと怪しまれるかなと思って、チームメイトを誘って、3人ぐらいでやったりもしました。フジテレビにはほんとお世話になっているので、フジテレビで鍛えた足腰を含めて、リオで見せたいな、と思います」

こんな苦労話を聞いて、里谷さんは「なんかレスラーみたいな練習をやってきたんですね」と感心したのだった。

「そういった努力は、世界の大舞台に立った時に一番自信になるものです。冨田さんは、冷静さも兼ね備えているので、絶対、大丈夫だと思います」

日本代表は目下、世界ランキングは11位、12位あたりである。「でも」と里谷さんはエールを送った。

「ワタシも金メダルを獲ったときは、世界的にそんなに上のほうじゃなくて、金メダルをとると自分でも思ってないし、周りも思ってなかったんです。やっぱり、大舞台で緊張せず、まあ、緊張しないのは難しいですけど、自分の力を出し切ることが一番だと思います。いまのまま、冷静さを保ちながら、がんばってほしいと思います。応援しています」

これには冨田もいたく感激し、「世間の下馬評をひっくり返せるような結果をリオで見せたいなと思います」と力強く言い切った。

『Journey(ジャーニー)』を聞きながら、サクラセブンズはリオ五輪で金メダル獲りに臨む。記者から金メダルのご褒美を聞かれると、冨田は清水の同曲の生歌を熱望したのだった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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