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ファンとキンちゃんの願い「次こそ祝盃を」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
レベルズ戦にフル出場したサンウルブズの大野均(撮影:齋藤龍太郎)

いい男だなあ、キンちゃんは。試合後、選手がメディアと交わるミックスゾーン。ラグビーのサンウルブズの精神的支柱、37歳のロック大野均(東芝)が朴訥とした言葉で質問に答える。足元にはファンから贈られた紙袋が2つ。何かと思ってのぞいたら、なんと屋久島産の本格芋焼酎『愛子』の四合瓶だった。

ひょっとして元気の源はお酒?と聞けば、「ハハハ」と笑った。

「お酒は関係ないですよ、お酒は。リラックスできる程度に、飲める時は飲みますけど」

では、モチベーションは。

「なんですかね。やっぱり、(スーパーラグビーは)昔からの憧れの舞台だったんです。そこで自分が戦っているという高揚感ですかね。そしてスタジアムに来ていただいた満員のお客さんです。そういうお客さんと一緒にスーパーラグビーを楽しめているという喜びだと思います」

19日。世界最高峰リーグ「スーパーラグビー」に日本から初参戦したサンウルブズは東京・秩父宮ラグビー場でレベルズ(豪州)と戦い、9-35で完敗した。観客数が1万6千444人(公式記録)。ノートライで、開幕3連敗となった。

テストマッチ並みの、タフなフィジカルゲームがつづく。アタックのリズムも連携も悪くはなかった。ゴール前に攻め込んでも、トライを奪えそうで奪えなかった。あと50センチ、あと1メートル…。なぜ、なのか。大野は「何ですかね」と漏らした。

「ほんとゴール前まではいくんですけど、最後の最後…。向こうがジャッカルしてきたり、こちらの反則だったりで、ボールを(相手に)渡してしまった。我慢ですかね」

確かに、個々のスキル不足はある。激しいプレッシャーにパス、キャッチの精度はぶれた。だが、チームとしての連携も乱れるときがある。準備不足か。サポートプレーが半呼吸遅れる。

例えば、後半中盤、連続攻撃からCTB立川理道(クボタ)が鋭いランで切れ込んでゴール寸前に迫った。でもだれも、ラインの外に顔を出さない。サポートプレーも遅れた。相手につぶされ、こちらの反則となった。

我慢、つまりは集中力の継続とハードワークである。大野はこう、言葉を足した。

「向こうが一瞬のスキを見つけるのがうまかったですね。自分も、今日、(ラインの)大外に人が余っていると思って、裏にかえろうと思ったら内を突かれて抜かれました。最後のトライも、スクラムを組んで勝ったと思ったら、ボールがぽろっと出てしまって…」

レベルズのバックローはジャッカルがうまかった。おそらく、サンウルブズのブレイクダウンのふたり目のサポートの遅さを狙っていたのだろう。そこを突かれて、時にリズムを遅らされ、時にボールを奪回された。

それにしても、3連敗、とくにホームでのノートライ負けは痛い。「トライを獲りにくる“嗅覚”というのが向こうはあるのかなと思いますね」と大野は言った。

「こっちも山田(章仁=パナソニック)だったり、翔太(堀江=パナソニック)だったり、何人かはトライを獲る嗅覚を持った選手がいるので、そういった選手にもっといいカタチでボールを渡せるよう、(連係を)詰めていかないといけないと思います」

勝利はないけれど、よく戦っている印象である。とくにFWはコンタクトエリアでからだを張り、低く、激しく、互角の勝負を展開している。もうひと仕事である。最後のサポート、最後の足のひとかきである。

3連戦で疲れの蓄積はあろうが、大野は「今まで感じたことはない疲れではありませんから」とさらりとかわした。ただシンガポール、南アフリカに移動しての、ハードスケジュールでの試合がつづく。スーパーラグビーを戦い抜くためには、心身ともタフにならなければならない。

勝利への渇望がつのる。キンちゃんはぼそっと漏らした。

「勝って、みんなで祝盃をあげたいですね」

チームメイトとスタッフと。あるいはファンと。その時は、芋焼酎ではなく、きっと麦酒(ビール)で乾杯となるのだろう。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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