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ダイゴ、ラグビー人生に悔いなし

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
日野自動車×東京ガス。ハーフタイムの山下大悟

やわらかい冬の西日を受け、ラグビーの「ダイゴ」が宙を舞った。惜別の胴上げ。「正式発表まではコメントできません」と明言は避けたが、トップイーストの日野自動車CTB、35歳の山下大悟が現役を引退することになりそうだ。

スタンドの日野自動車の応援団に両手を振るダイゴの表情はこの日の青空のように、清々しいものだった。「終わったなあ、という感じです。悔いはない。我がラグビー人生、悔いはまったく、ありません」。試合後の言葉は実感だろう。

5日、東京都大田区の東京ガス大森グラウンド。リーグ最終戦、日野は東京ガスに26-47で敗れたが、ダイゴはフル出場し、相変わらずの切れ味鋭いラン、猛タックルを見せた。とても35歳とは思えないハツラツプレー。とくにパスプレーやランニングコース、ディフェンスなど基本技の確かさが光った。

「どうですか?」と、ダイゴは小さく笑って聞いてきた。「そんなに(プレーが)衰えているようには見えないでしょ。自分の中では何ら、変わっていないんです」

ダイゴは早大主将の2002年度、大学日本一に輝き、07年度にはサントリー主将としてチームをトップリーグ制覇に導いた。統率力には定評があるところで、サントリーからNTTコミュニケーションズに移籍し、一昨年、日野自動車に移ってきた。

絶好調だったサントリーの3年目に右足の大けがを負い、2年間ほど、プレーできなかったこともある。不屈の精神でカムバックし、ずっとからだを張ってきた。

「それ(けが)も自分のラグビー人生。年齢を考えると、毎年、毎年、いつ辞めてもいいという感じで全力プレーを心掛けてきました。1日、1日、自分と向き合って、一生懸命やってきました。この2年間は、(チームの中で)新しい役割をもらい、いろんな準備もできました」

ことしは早大大学院のスポーツ科学研究科の修士課程でスポーツビジネスなどを学び、指導者としての能力も養ってきた。人を大事にし、ラグビーをリスペクトし、己を磨き続けてきたのである。なんと濃密で、過酷で、そして恵まれたラグビー人生だったことか。

この試合には家族や数十人のダイゴファン、大学日本一を果たした早大ラグビー部の同期も4人、応援に駆け付けた。四半世紀にわたったラグビー仲間とのチャレンジ。ファンから7つの花束をもらったダイゴが、しみじみと漏らした。

「何も1人でできませんでした。妻に感謝、家族に感謝。自分を支えてくれた、いろんな人たちに感謝です」

ダイゴはやっぱり、ダイゴである。たとえ、ラグビージャージを脱いだとしても、仲間と共に全力で疾走するのであろう。感謝を胸に。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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