フィールド脇で、目を閉じて、耳を澄ます。視覚障がい者らで行うブラインドサッカー(ブラサカ)の世界選手権1次リーグの日本×フランス(19日・国立代々木競技場フットサルコート)。初冬の夜の冷気の中、選手の息遣い、「シャカシャカ」と鳴るボールの音、選手がサイドラインの壁にぶつかる激突音が聞こえてくる。

 よくもまあ、何も見えない状態で、サッカー選手顔負けの高速ドリブルができるものである。ドリブルが得意な日本代表の黒田智成にその疑問をストレートにぶつける。7歳で全盲になった36歳は言う。ブラサカ歴12年。

 「最初、ボールの蹴り方もよくわからないところからスタートしました。繰り返し、繰り返し、練習したら、少しずつできてきて、少しずつ楽しくなってきた。その繰り返しで、いまのドリブルができるようになりました。楽しいです」

 ブラサカとは、ボールの音とまわりの声で行う5人制サッカー。相手と接触して、転倒することもある。その迫力は、まるでラグビー、いやサイドライン際はアイスホッケーのフェンス激突に近い。なぜ、転んでも、ちゃんとゴールの方へ、向かって走れるのか。東京都立八王子盲学校教員の黒田が説明する。

 「いつもコーラー(ゴールの後ろにいるガイド役)の声と、キーパーの声と、仲間の声を聞きながら、ピッチの向きとか、ピッチの広さとかをイメージしながらやっているので、間違った方向に走ることはありません」

 つまりは、『信頼のスポーツ』である。試合中、魚住稿(こう)監督は「仲間を信じて!」と何度も口にした。東京都立桜町高校教員の38歳が説明する。

 「互いのコミュニケーションが深くないと、このサッカーはスポーツとして成り立ちません。やっぱり、いろんな面で選手の信頼感が高まることが大事です。高まれば、高まるほど、チーム力が高くなっていく相関関係があると思います」

 そのコトバ通り、日本はディフェンスを信頼で強め、攻撃力もアップさせてきた。この日、ロンドン・パラリンピック銀メダルのフランスと互角に戦い、1-1で引き分けた。1勝2分けの勝ち点5。1次リーグのA組2位で決勝トーナメント進出を決めた。

 夜9時。コート上に歓喜の輪ができた。ぶるぶると寒さに震えながらも、970人(大会本部発表)の観客が応援に駆け付けた。メディアは84人(中継スタッフを除く)。落合啓士主将が笑顔で感謝する。

 「平日の夜にもかかわらず、ほぼ満員の人がきてくれました。大きな声援のおかげで走れたなと思います。見えない分、“ニッポン・コール”だったり、選手の名前を呼ぶコールだったりが、ほんとうに心に響いて、ぼくらのチカラになったと思います」

 この突然のブラサカの人気はなぜなのだろう。日本ブラインドサッカー協会スタッフによると、「ひとつには、2020年東京五輪パラリンピックが決まったこと。さらには、テレビが話題で取り上げてくれてイッキに火がついたのでは」という。同協会の地道な努力も無縁ではなかろう。

 またアジアで初めての世界選手権開催ということも大きい。日本サッカー協会が理事会でサポートを決め、同選手権を後援している。日本協会の原博実専務理事も会場を訪れた。ブラサカ初観戦。「プレーの激しさに驚いた」と言いながら、全面支援を約束した。

 「サッカー協会も、できる限り、障がい者のスポーツを応援していこうという方針です。グラスルーツ(草の根)を含め、いろんな人がサッカーをやれる環境が大事です。サッカー協会がリードして、(2020年に向けて)障がい者スポーツをサポートしていければいいな、と思っております」

 さらにいえば、日本代表が強くなったことも人気アップの要因である。やはり勝たないと盛り上がらない。もちろん、ブラサカそのものの競技性のオモシロさもある。スピード、テクニック、迫力。「イイナ」と思うのは、プレーに喜びが満ちあふれていることである。これぞ、スポーツの本源。

 この日ゴールを決めた佐々木ロベルト泉は、ブラジル出身の36歳。18歳で日本に移り、28歳の時、交通事故で失明した。ブラサカを始めて5年。試合後、「準々決勝で勝つためには?」と聞かれたとき、こう即答した。

 「サッカーを楽しむことです」