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男子セブンズ、鍛練の夏

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

鍛練の夏である。炎天下、7人制ラグビー(セブンズ)の「男子シニアアカデミー」が開かれ、日本代表候補選手のほかユースレベルの育成選手らも参加した。のぞいてみると、練習の密度はけっこう濃い。瀬川智広ヘッドコーチ(HC)も汗だくで、「選手たちが意識高くやってくれている。セブンズの理解力も上がっています」と手ごたえを感じていた。

2日の府中・東芝グラウンド。約1時間の練習でも、ゲーム形式のアタック・ディフェンスからブレイクダウン、ディフェンスのシステムチェック…とメニューがつづく。「アツいので、だらだらやってもしょうがない。セブンズは一気に爆発できるかどうかなので、やるときはスピードあげてプレーする。100%でプレーすることが大事です」と同HCは説明する。

セブンズ日本代表常連の坂井克行(豊田自動織機)や桑水流裕策(コカ・コーラウエスト)らのコアメンバーのほか、代表復帰に意欲をみせる36歳の三木亮平の元気な姿もあった。かつてより少しは選手層が厚くなったとはいえ、アジア・シリーズやアジア大会、ワールドシリーズを見据えた場合、所属チームの事情もあり、やはり「綱渡りのチーム」(瀬川HC)編成となることは否めない。

しかも、実質、セブンズ専門の選手はひとりもいない。だれもが、15人制ラグビーとの両立を図っている。28歳の桑水流とて、前日、15人制の所属チームの北海道・網走合宿からアカデミーに途中合流、この日から練習に参加した。セブンズと15人制は似て非なるもの。瀬川HCは選手のコンディションに気を配り、「両方やっていると、けがのリスクが高いので」とからだのケアも大切にしている。

その桑水流は「疲れていますね」と苦笑する。「(7人制と15人制)どっちにも対応できるようになりたい」と言いながら、メインはセブンズに傾いている。福岡大2年の時にセブンズ日本代表に抜てきされてから丸10年。「夢はリオデジャネイロ五輪出場」と漏らし、「そのため、この夏、苦しんでいるんです」と明るく言い放った。

「きついことをしたら、楽しいことじゃないけど、自分にとっていいことが返ってくる。オリンピックまで、あと2年。自分はボールを持って仕掛けるプレーがあまり得意じゃないので、1つでも仕掛けのプレーができるようになればいいなと思います」

上昇気流にのるセブンズの男子日本代表。新戦力も出てきたようで、瀬川HCは、超高校級と話題の桑山聖生(鹿児島実業高3年)にアジア・シリーズ参戦の打診をしているようだ。全国高校大会(花園)予選との兼ね合いで実現は難しそうだが、セブンズの五輪実施が若手の意欲を刺激している。

リオ五輪のアジア予選は来年に開催される。その前哨戦となる9月のアジア大会では優勝が必須か。瀬川HCは「ディフェンスさえしっかり守れれば、攻撃ではアジアの中ではトップレベルだと思う。しっかり守ってチャンスをものにしたい」という。とくにタックラーの精度と、その両サイドを守っている選手の共通認識が大事となる。

この夏のテーマは?と問えば、瀬川HCはこう続けた。「これまでやってきたことの精度を上げていくしかないと思う。セブンズの要素を足していっているので、あとはそれを繰り返していくだけです」

勝ち負けはともかく、ことしの目標は個々の戦術理解と代表チームの底上げだろう。けがやコンディション作りにケアしながら、夏は、そのための土台作りである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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