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東海旋風に流れる故・原貢氏の教え

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

猛暑日の26日。夏の全国高校野球選手権の“戦国”千葉大会の決勝では、東海大望洋が猛打で専大松戸に圧勝し、初出場を決めた。東海大系列校としては、東海大四(南北海道)、東海大甲府(山梨)に次ぎ3校目。甲子園で「東海旋風」が吹き荒れそうだ。

薄いブルーに縦じまのユニホームの胸には「Tokai」の黒い文字。東海大望洋の相川敦志監督が部員たちの手で何度も宙を舞う。「ことしは東海大が大学日本一になったり、原貢さんがお亡くなりになられたり、いろんなことがありました。なにか特別なものがあるのかなという気もしますけど」としみじみと漏らした。

東海大系列校にとっては特別な夏かもしれない。東海大相模高、東海大監督を歴任した名将・原貢さんが5月に死去した。東海大浦安高―東海大卒業の相川監督は、故人から指導者としての教え、アドバイスを何度かもらった。「あの方は、豪快さの中に緻密さがあるという野球をされていました」という。

その教えを守り、53歳の相川監督も『打撃のチーム』をつくり上げた。準決勝の12得点に続き、決勝では12安打で13得点を奪った。特に2回には「本塁打あり、連打あり、スクイズあり」で大量6点を先取した。

「東海って“打て、打て”、“振れ、振れ”ですから。原さんも昔は“打て、打て”だった。でも10年ほど前から、点をとれる時はきっちりとっていけと。打つということを目標にしてきましたが、スクイズなど細かいプレーもやらせていただいた」

相川監督は打撃力をアップさせるために、からだ作り、栄養バランス、バットの振り込みを重視してきた。実は東海大望洋は野球部の寮がない。全員、自宅からの通いだ。そのため、平日の練習は午後4時~6時半と短く、体調管理も生徒自身に任せている。そこで、生徒や保護者向けに栄養学の講習会なども実施。「生徒たちの意識が高い。プロティンを自分で飲んだり、体重アップを図ったりしています」と説明する。

冬場の筋力トレーニング、走り込みも徹底している。「大事なのは食事面、からだ、トレーニングです。しっかりやれば、はやいボールが投げられるし、強い打球が打てるように変わっていくのです」。例えば、走り込みや筋力トレーニングの合間にロングティーを入れ、長さ約1メートルの竹バットでスイングを繰り返させてきた。

過去3度の千葉大会の決勝では零敗だったが、この日は大量得点。「きょうは過去の3試合分の点をとりましたね」と笑い、相川監督は「決勝で勝つには打たないといけないとずっと思ってきました。先輩たちの積み重ねがこういう結果になったのです」と続けた。

2010年の春のセンバツ大会では1回戦敗退。初の夏の甲子園での抱負を聞かれると、相川監督は「なんとか、まず1勝をあげたい」と言い切った。「甲子園で校歌を歌いたい。うちは豪快さもあるし、緻密さもあります。ピッチャーがしっかり投げて、野手が守って、打線がいつも通りに打っていけば…」。天国の原貢さんが見守る中、縦じまのユニホームが甲子園を沸かすことになるかもしれない。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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