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ジャパン五郎丸が歩み続ける理由

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

韓国・仁川の青空の下、ラグビーの日本代表FBの五郎丸歩(ヤマハ発動機)が次々とゴールを蹴り込む。28歳は7ゴール1PGの17点をあげ、テストマッチ通算得点を426点とし、SO広瀬佳司(現トヨタ自動車監督)の持つ従来の記録を4点更新して日本代表歴代1位となった。

17日のアジア五カ国対抗の日本×韓国である。日本は62-5で勝った。これで3戦全勝とし、8大会連続のワールドカップ(W杯)出場にあと1勝とした。

「達成感は全くないです」と、五郎丸はいつも通りの淡々とした口調で言う。唯一のトライ献上につながったタックルミスがあったからか、「個人的にはパフォーマンスがあまりよくなかった」とこぼした。

「ここはW杯への通過点だと思っています。もっともっとレベルアップして、ワールドカップの地でしっかりと(成功の)パーセンテージを高く蹴って、チームに貢献できればいいと思っています」

五郎丸は早大2年の2005年4月、ウルグアイ戦でテストマッチデビューした。ヤマハ発動機に進み、プロ選手となったが、会社の「活動縮小」に伴い、正規社員となった。一時チームの戦力低下もあって、日本代表から離れ、11年W杯出場を逃した。

でも、そんな試練が五郎丸をタフにした。ラグビーができる「感謝」を胸に、たゆまぬ努力を続けてきた。結果、キックは安定感を増し、ランとキック、パスの判断のスピードもついた。なんと言っても、課題とされてきたランニングスピード、ディフェンスもよくなってきた。

モットーは『克己心』『激しさ』である。歩み続ける理由を聞けば、五郎丸は背筋を伸ばした。「人に負けたくないという気持ちです。もちろん、自分にも負けたくない。周りにもそうだし、自分にも勝負しています」

巷では、サッカーのW杯が話題である。その盛り上がりは、とてもラグビーでは考えられない。「サッカーのような環境に2019年(W杯日本大会)にはならないといけないと思います。でも、その前に15年W杯で結果を出さないと、ラグビー人気は上がっていかないでしょ」

そうだ。15年W杯でトップ10入りを果たさなければいけない。「まずはW杯出場。そして(W杯で)準々決勝に行きたいですね」と、五郎丸は語気を強めるのだ。

エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)からの信頼は高い。「3年前と比べると、パワフルになった。いい判断ができるようになったし、いまやチームのリーダーの一員でもある」と褒める。もちろん、そうは言ってもまだまだ、完ぺきではない。

「完ぺきだったら、スーパーラグビー(SR)でプレーしているはずです」と、ジョーンズHCは言葉を足した。同HCによると、複数の海外チームが五郎丸獲得に興味を持っているそうだ。SRでプレーするためには、「クイック。もっとランニングスピードを上げること」と指摘した。

SR挑戦を本人に振れば、「オファーがあれば、行きたいですけど、まずはしっかりと目の前のことをやらないといけません。先のことを言ってもしょうがありませんから」と小さく笑った。

目の前のこととは、25日の香港戦(東京・国立)で勝ち、日本のW杯出場を決定させることである。さらには、キックの精度を高め、もっともっとプレーを安定させ、悲願のW杯の舞台に立つことである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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