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東京セブンズ、日本の収穫と課題

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

間違いなく、ジャパンは強くなっている。でも勝ち切れない。23日、男子7人制ラグビーのワールドシリーズ『東京セブンズ』で日本代表は11位タイに終わった。通算1勝3敗1分け。ワールドクラスのチームとの差は『経験』といったらそれまでだが、ジャパンの収穫と課題は何なのか。

惜しかった。とくに3つ。第一日の1次リーグ初戦でアルゼンチンに終了間際のトライ(ゴール)を許し、引き分けた。ケニア戦では7-12と健闘した。下位トーナメント(9-16位相当)に回った最終日では格上のサモアに大勝したものの、続くウェールズにはサドンデス方式の延長戦の末、19-24で惜敗した。

ウェールズ戦では最後、相手がシンビンでひとり少ない状況だった。そのチャンスを生かしきれなかった。「惜しいではダメだ」と瀬川智広ヘッドコーチは悔やんだ。「後半、単純に逆サイドのキックオフを相手にとられたり…。一瞬、集中力を切らしていた。ワールドクラスの選手たちと比べると、経験の浅さの部分を露呈した」

今回の相手はどこもワールドシリーズを転戦してきたコア(中核)チーム(世界トップ15カ国・地域)だった。フィジカル&コンディショニングを強化してきた成果だろう、フィジカルではコアチーム相手にもある程度、戦うことができた。接点を避け、スペースに素早くボールを動かしてつないでいく「日本らしい」戦術も奏功し、攻撃力はアップした。

セブンズ初参加のスピードスター、21歳の福岡堅樹(筑波大)がサモア戦で2トライを挙げるなどし、スタンドのファンを沸かした。20歳の藤田慶和(早大)も判断よく相手スペースを突き、何度もチャンスをつくった。フィニッシャーの福岡とチャンスメーカーの藤田。福岡にはフィットネス、藤田にはディフェンスと課題はあるが、若き才能はジャパンの「希望」である。

さらにはロマノ・レメキ(ホンダ)の攻守にわたる活躍が際立った。でも各選手の経験値にはギャップがある。例えばボールを持っていないときの動き、ポジショニング…。それがよりディフェンスに出る。コアチームの選手と比べると、まだコース取りでスペースをつぶし、相手を抑えることができない。あるいは勝負どころでの判断、冷静さ、我慢…。

2016年リオデジャネイロ五輪を見据えた場合、選手の経験値をアップさせるためには、来季のワールドシリーズの全試合の出場権がかかるコアチーム決定戦(28~30日・香港)が非常に大事になる。1週間で改善可能なことは、キックオフ、スクラムの整備と選手間のコミュニケーション、ゲームマネジメントの確認だろう。もちろんコンディショニングもカギを握る。

いずれにしろ、コアチーム決定戦を翌週に控え、似たようなスケジュールのイベントを経験できたことは大きい。流れは悪くない。坂井克行主将も「チーム力が上がっているという実感があります」と手ごたえを感じている。「東京で勝ち切れなかった悔しさは、香港で晴らしたい。香港では勝つことが最大のターゲット。もう勝つしかない」

この東京での「レッスン」をしっかりものにできるかどうか。あと1週間。香港の戦いが、日本男子の五輪ロードの大きなポイントとなる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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