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なぜ五輪メダリストは礼儀正しいのか

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

この好感度はどうだ。ソチ五輪の日本代表選手は総じて礼儀正しかった。コトバもしっかりしていた。とくにメダリストは。日本選手団の橋本聖子団長はこう、言った。「人間力なくして競技力向上なしをテーマに戦ってくれました」と。

金メダルを獲得したフィギュアスケートの19歳、羽生結弦選手はもちろん、スノーボード・銀メダルの15歳の平野歩夢選手、銅メダルの18歳の平岡卓選手もきっちりしている。日本選手団最年少だった平野選手はまだ中学3年生だ。全日本スキー連盟(事務局・広報担当)の土谷守生さんは「一般の方からも、“非常に礼儀正しくて気持ちがいい”とのお褒めの電話をもらっています。こんなの初めてです」とうれしそうに説明する。

「(スノーボード)ヘッドコーチの上島さん(しのぶ)が、すごく神経がいき届いた指導をしてくれました。礼儀ができていない選手は競技をしてもダメだという考え方ですから。また、みんなが、ファンや企業、地域の人々への感謝の気持ちを大事にしているからでしょう」

スノーボードといえば、前回バンクーバー五輪で国母和宏選手がラフな服装や言動で世間から批判をあびた。そんな苦いこともあってか、女性の上島ヘッドコーチは服装や言葉遣いを大事にし、ナショナルトレーニングセンターでの合宿では必ず、「メディアトレーニング」の時間を設けてきた。選手同士で、記者役と選手役に分け、模擬インタビューを重ねさせてきたそうだ。

合宿ではまた、栄養士のアドバイスのもと、選手たち自身にカロリー計算をさせ、料理も作らせた。海外遠征にでれば、自炊する機会が増えるからだ。土谷さんによると、そうやってディシプリン(規律)を高め、自律を促してきたという。考え方がしっかりしているから、おのずとコトバにも力が生まれる。

さらにいえば、スノーボードの選手はほとんどがプロである。例えば、平野選手は小学校4年生でバートンと契約するプロ選手になった。スポンサー企業からサポートを受けている以上、自身の振る舞いやコトバでイメージを落とすわけにはいかない。いわゆるプロ意識も備わっているのだろう。

冬季五輪の競技の選手たちは、海外遠征がおおい。必要に迫られてか、トップ選手はほとんどがバイリンガルである。英語コミュニケーション能力が求められる今、なんとも頼もしい限りである。規律とコトバ、メダルとは無関係ではあるまい。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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