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レフリーよ、もっとスクラムをしっかり見てください

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

いったいスクラムはどうなっているのだろう。いやレフリーのマネジメントは。18日のトップリーグのサントリー×ヤマハ(秩父宮)でも『コラプシング』の反則が続発した。何がどうなっているのか。

スクラムは、試合再開の型(いわゆるセットプレー)の重要なひとつである。競技規則では定義として「スクラムの目的は、軽度の反則あるいは競技の停止があった後、早く、安全に、公平に試合を再開することである」と記されている。この「公平に」、すなわち「フェアに」が重要である。

レフリーの役目としては、両チームのFWに対し、まっすぐの押し合いをさせなければならない。フェアに構えさせ、フェアにヒットさせ、フェアに押し合いをさせる。それを妨害したり、故意にスクラムを崩したりした場合、その原因をつくった選手にコラプシングの反則を与えることになる。

サントリー×ヤマハ戦では、ヤマハボールのスクラムは12回組まれ、うち半分の6回、反則の笛が吹かれた。サントリーボールのそれは6回あり、一度も反則行為の笛はなかった。ほぼヤマハボールの時だけ、スクラムが動く。崩れる。これっておかしくないか。

フツーに考えれば、ディフェンス側のサントリーが何らかの行為をしているのでは、と思いたくなる。これも駆け引きのひとつと言えなくもないが。ただレフリーがしっかり見て、ちゃんと指摘すれば、同じことが行われる可能性は小さくなるだろう。

海外ラグビーに詳しい某レフリーはこう、話す。「日本のレフリーはスクラムでペナルティーを宣告しても、その選手を指摘するだけで、あまり具体的な行為は言わない。海外だと、その選手がからだをねじったとか、腕やひざ、アングルの行為など、もっと説明する。再発を防ぐことも目的ですから」と。

また、いまだに釈然としないのが、全国大学選手権の決勝戦、帝京大×早大(国立競技場)である。この試合、スクラムはトータル8本だけで、うち6本がどちらかのコラプシングの反則をとられた。残る2本もスクラムがぐちゃぐちゃとなり、攻撃側の早大が球出しのコントロールを乱され、帝京にボールを奪取されている。

つまり、ゲーム再開の起点とされるスクラムから1度もバックスに普通にボールがでなかったことになる。ほぼ互角の力を持つFW同士にあって、極めて珍しい状況である。どちらかのチームが意図的に崩していたのではないか。結果論として、レフリーはスクラムをうまくマネジメントできていなかった。

確かに、今季はスクラムには試験的ルールが導入された。レフリーのコールが従来の「クラウチ」「タッチ」「セット」から、「クラウチ」「バインド」「セット」となった。フロントロー選手は相手と「バインド」でつかみ合って組むため、駆け引き、首の取り合い、技術などがより大事となった。結果、コラプシングが多くなったのかもしれない。

いずれにしろ、フロントローは小手先のプレーに走らず、まっすぐ押し合わなければ、スクラムの力はなかなかアップしていかない。フロントローはまず、ストレングス、筋力(とくに首の後ろから腰にかけての背部の筋力)が必要だろう。その上でスクラムワーク、テクニック、マインドセット(心構え)の構築が求められる。

選手やチームの成長は、レフリングとは無関係ではあるまい。スクラムの判定が難しいのはわかる。たぶん、メディアもファンもよく、分かっていないだろう。でもレフリーは違う。スクラムのメカニズムを熟知すべきであろう。当然、試合のレビュー(検証)はなされているだろうが、スクラムに関してのそれをもっと、もっとなされてはどうだ。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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