東京五輪、辞任・猪瀬知事の功罪
当然である。むしろ遅きに失した感がある。2020年東京五輪パラリンピック招致成功の立役者、東京都の猪瀬直樹知事がついに辞職を表明した。19日、東京都庁での会見。意外にさばさばした顔で、「私の不徳の致すところです」と頭を下げた。
「2020年(東京五輪パラリンピック)に向かって、スタートダッシュしなければならない大事なこの時期に、私の問題でこれ以上、都政を停滞させるわけにはいきません。国の名誉のかかったオリンピック・パラリンピックの開催準備を滞らせるわけにも参りません。この局面を打開させるためには、私が自ら都知事の職を退くよりほかに道はないと判断しました」
粘りに粘った猪瀬知事も、18日、東電病院売却に関する疑惑が立て続けに報じられ、収賄容疑の立件も視野に入ってきた。ウソがつけない都議会の百条委員会の設置も決まり、ついに観念したもようだ。
さらには、石原慎太郎前知事と会談したことに触れ、猪瀬知事は五輪準備への悪影響に言及した上で、「こういう状況なら、辞職することにしようじゃないか、とお話をされた」と説明した。都知事選の選対本部長を務めた元Jリーグチェアマンの川淵三郎氏からも、知事辞職を促されたことを明らかにした。
猪瀬知事の東京五輪に関する功罪を考えると、功績は「石原前知事の意志を受け継いで、東京五輪招致の灯りをともし続けてくれたこと」(日本オリンピック委員会=JOC=平眞事務局長)である。傲慢ではあったけれども、「チームジャパン」づくりへの努力を惜しまなかった。「スポーツ好きの知事」を演出し、招致成功にひと役買った。
「東京オリンピック・パラリンピックが決まったことは歴史的なことだったと思う」と知事は振り返った。「最終プレゼンの前の日の夜はかなり緊張して寝ました。次の知事になる方には、2020年オリンピック・パラリンピックをぜひ、成功させてほしい。そして東京をスポーツやアートにあふれた街にしていく、そういう方に新しい都知事になってもらえれば、自分のやったことが少しは受け継がれていくのかなと思います」
反面、罪で言えば、2020年東京五輪パラ招致成功にケチをつけ、その価値をおとしめたことだろう。五輪推進派の都民の期待を裏切った。今回の混乱で、同五輪パラ組織委の設立に際し、東京都と政府、JOCとの調整がとどこおることになり、政府主導の色合いが強まることになりそうだ。
東京側と国際オリンピック委員会(IOC)との取り決めで、五輪パラ組織委は2月上旬には設立しないといけない。猪瀬知事は言う。
「もし僕がここで辞めれば、知事選挙が一月中か2月頭にされることになる。すべては新しい知事に受け渡すことができますので、組織委の人事も決められることができます。そういう意味で、ここで辞めることが、ギリギリ、都政を停滞させない一番のポイントだなと思っております」
もっとも、これは猪瀬知事の勘違いである。知事が誰になろうが、選挙がいつになろうが、組織委は1月中には設立されることになる。人事も決まる。JOCの青木剛専務理事は「(猪瀬知事辞任は)残念ですが、これで区切りはつきました。影響がでないようにベストを尽くすしかない。当初のスケジュールは変更できません」と言い切った。
問題は、東京五輪パラを開催する東京都の影響力が薄くなる危険性をはらむということである。組織委トップの人選はともかく、新しい都知事が誰になるのか。
猪瀬知事は「スポーツに明るい方」と期待した。「2020年東京五輪パラを迎えるにふさわしい方が次の知事になってくれたら本当に素晴らしいなと思います。何とかチームニッポンを作っていってくれる方に後は任せたいと思っております」
結局、猪瀬知事は医療法人『徳洲会』グループから受け取った5千万円の趣旨や経緯、東電病院売却問題については、何ら詳しい説明をしなかった。
ついでにいえば、作家の猪瀬知事は何度か自身を「アマチュア」の政治家と表現した。これは言葉づかいが違うだろう。大事なことはアマかプロかということではない。その職責に対し、誠実であるかどうか。あるいはカネに対し、きれいか、汚いか、である。
人として、カネや人に傲慢かどうか、なのである。