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ラガー外交官10周忌追悼記念試合

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

もう10年が経つのか。ラグビーを愛した奥克彦さんがイラクで凶弾にたおれて。18日。『奥克彦大使10周忌追悼記念試合』が、東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれた。国会ラグビークラブと各国大使館連合チームの面々が、故人への思いを胸に楕円球を追った。

雲ひとつない青空のもと、日本協会の半旗が強風にたなびく。電光掲示板の画面には笑顔の奥克彦さんがずっと、映しだされていた。追悼セレモニーでは黙とうがささげられ、国会ラグビークラブ会長の中谷元・元防衛庁長官(衆議院議員)が試合前、しんみりと話す。「奥克彦さんの精神はそれぞれの人の中に残っています。ラグビーボールを彼と思って、みんなでつないでトライしたいと思います」と。

革靴ながら、同クラブ顧問の森喜朗・日本ラグビー協会会長(元首相)の気持ちのこもったキックオフで試合スタート。約20人の国会議員ほか、ニュージーランド、英国、オーストラリアなどの各国大使館員ら、約60人が参加した。早大ラグビー部の後輩にあたる清宮克幸さん、堀越正巳さん、中竹竜二さんも懸命にプレーした。

随所に猛タックル、鋭いランが見られ、意外にも激しい好ゲームとなった。20分×3本がおこなわれ、大使館連合チームが勝利を収めた。冷たい強風にも、なんだかハートフルな試合だった。

森会長はさすがにプレーしなかったが、「(10年は)早いね」と感慨深そうだった。「きょうは奥くんも喜んでくれているだろう。ほんと、いいオトコだった。わたしが総理の時、奥くんは官邸にくるたび、ワールドカップ(W杯)をやろうと言っていたものだ」

森会長は故人の遺志を引き継ぎ、ラグビーW杯招致の先頭に立った。そのW杯が2019年、日本にやってくる。「あと6年だよ。国会議員もみんな(W杯)熱が出てきたしな。オリンピック熱も大きくなっている」と、スポーツを通した国際交流と国際貢献を夢見ていた故人に思いをはせた。

ラグビー場には、奥克彦さんの外務省同期入省組や同省関係者、友人たちの姿もあった。ノーサイドのあとは、ラグビー協会のクラブハウスでなごやかな懇親会が開かれた。

奥克彦さんの兵庫・伊丹高校ラグビー部時代からの親友だった阪本真一さんがふと、漏らした。「奥は幸せなやつだと思います」

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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