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世界のシライはフツーの高校生?

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

体操界に『新星』が現れた。先の世界選手権(ベルギー)のゆかで日本史上最年少の優勝を果たした17歳の白井健三。得意のひねり技の連発で世界をアッと驚かせ、新技も「シライ」と命名された。「ただただ、楽しかった。集中して、自分の演技がしっかり出せれば結果はついてくると思っていました」と、無邪気に笑うのだった。

「僕はフツーの高校生です」と、白井は言う。8日、都内で開かれた帰国会見。カメラのフラッシュはもちろん、記者の質問も“ひねり王子”に集中した。神奈川県立岸根高校に通う高校2年生。友人たちからの反応の予想を聞かれると、「あさってからテストなので、僕のことを相手にしないと思います」と漏らす。テストは大丈夫ですか?との声がとぶ。「ダメですね。非常によくないですね。向こうには勉強道具を持っていきませんでした。でも、ちゃんとした言い訳がありますから」と言って、記者を笑わせた。

好きな科目が「地理と日本史」。苦手な科目は「数学」と苦笑する。甘いものが好きで、メロンパンが好物だそうだ。友人とのおしゃべりタイムがリラックスできる。「体操部のみんなでお昼を食べている時が一番楽しいです」。ただ記者との受け答えは、17歳とは思えない、落ち着きぶりである。

体操選手としては、これからが大変である。メディアやファンが殺到する。周りの期待も大きくなる。その重圧の中でいかに自分の体操に集中し、体力、技術アップを図っていくか。早くも2020年東京五輪パラリンピックの話題を振られると、「23歳で迎えるオリンピックなので、ちょうどいい年齢かなとは思います。でも自分の努力次第なので。そこで日本チームを引っ張れる存在になっていたらいいなと思います」と言った。

言葉通り、内村航平(コナミ)みたいな『日本のエース』を目指すなら、得意のゆかと跳馬以外の種目の演技も強化し、オールラウンダーとして全6種目の安定した力を身につけなければならない。素材は文句なしだ。でも、20年東京五輪の前には16年リオデジャネイロ五輪も、世界選手権も控えている。

当の白井もわかっているようだ。今のところ、浮かれたところはない。「今回は世界選手権のためにゆかと跳馬を強化していた。経験を無駄にせず、この2種目を軸として6種目で点をとれていけたらいいなと思います。高校生らしく、6種目きっちりやりたい」と言うのだった。

「課題はたくさん、あります。この結果に満足せず、しっかり練習していきたいなと思います。目指すは、オールラウンダー。オールラウンダーにならないと、東京のエースにはなれません」

もはや体操選手としては”特別な高校生”である。でも周囲に惑わされてはならない。おごらず、浮かれず、焦らず。1つずつ、1つずつ、丁寧に。そうすれば、1つずつ成長し、「東京五輪のエース」となるのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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