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ワセダ、次は”倍返しだ!”

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

夏の菅平高原の注目の一番。ワセダは、大学ラグビー4連覇の帝京大に24-39で敗れた。収穫と反省。手応えもつかんだワセダの後藤禎和監督は「こういう展開に持ち込んで、次は粘って勝ち切る」と言い切った。人気ドラマの半沢直樹ではないけれど、公式戦では<倍返しだ!>といったところか。

25日の菅平サニアパーク。やはり王者帝京大はでかくて強い。一人ひとりの体幹、フィジカル・フィットネスがしっかりしている。とくに強力FWの突進力は圧倒的で、ゴール前にいけば、FWラッシュでトライをもぎとった。計6トライ。スピードもある。

だがワセダも持ち味を出した。はやいテンポの連続攻撃などから、4トライを返した。まだ実力差はあるが、昨年の夏合宿の惨敗を考えれば、彼我の差は絶望的ではない。十分、射程圏内にあるとみた。

理由は2つ、である。この時期のチェックポイントの「ディフェンス」と「スクラム」がよかった。ことしのチームにはひたむきな選手が多いのか、低くて鋭く、粘り強いタックルで帝京大の猛攻をよく食い止めた。ビッグタックルもあった。とくにCTBからフランカーに移った布巻峻介、金正奎、小柄なCTB坪郷勇輝の好タックルが目立った。

スクラムは、帝京大を押していた。8月から試験的ルールが導入され、スクラムの組み方が変わった。レフリーのコールが従来の「クラウチ」「タッチ」「セット」から「クラウチ」「バインド」「セット」となった。つまりフロントロー選手は「バインド」で相手と掴み合って、スクラムを組むことになった。

ポイントは何かと言うと、ヒットがあまりできなくなるため、フロントローの駆け引き、技術がより大事となる。フッカーのマネジメント、スクラムワークがより必要となる。レフリーが「イエス」とコールした後、ボール投入となるから、レフリーとのコミュニケーション能力も求められることになるだろう。

で、この試合。ワセダのほうが新ルールに対応していた。組みこんで伸びてさっと沈む。固まって押す。後ろの押しがいいからで、つまりは8人の結束力があったということだ。相手のコラプシングの反則をとったし、ターンオーバーもあった。なんと言っても、3番の垣永真之介主将がよくなっている。

その垣永主将は言う。「帝京や明治とかはスクラムと言いますけど、僕らほどスクラムにはこだわってないと思います。僕らは絶対、8人がまとまり続けて、一緒のベクトルで押すことを意識しています」と。

でも、と表情を引き締める。「やっぱり、まだ細かい差が大きい。ブレイクダウンの動きなどで、徹底していくメンタルはすごいと思います。それに、これだけ前で相手を倒してもボールがとれない。一人ひとりのスキル、判断が劣っているからです」

細かい差とは、フィジカルや突破力はともかく、キックチェース、ハンドリング技術、ダウンボール、サポートプレーにも出ていた。実はこの細かい差が大きいのではあるが…。

帝京大の連覇をストップするのはワセダですか? と聞けば、後藤監督は「そうです」と言った。「こだわりがあります。昔から、強くてでかい相手に勝つためのラグビーを追求してきたのはワセダだと思います。差が大きければ大きいほど、ぶちまかすのが楽しみです。ぼくはそういうタイプなので…」

ワセダがひたむきにからだを張るのは当たり前である。そこに付け加えるとしたら、後藤監督は「集中力とクレーバーさ」とコトバを足した。やられたらやり返す、倍返しである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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