よき戒めのコトバだった。2020年東京五輪パラリンピック招致出陣式で、森喜朗・招致委評議会議長のあいさつは聞かせた。選挙の真髄を知る元首相。「選挙はまさに投票(箱)のカギを開けるまでわからない。ニコニコ笑って勝ったような顔をしていてはいけないと思います」と油断を戒めた。

メディアの報道だけでなく、招致委内部にも「東京優勢」との空気が流れ始めている。だが、情報を分析し、丁寧に票読みすれば、実際は東京、マドリード、イスタンブールの三つ巴の状態か。しかも潮目は毎日、変わっている。たとえ東京優勢だとしても、決してうぬぼれてはいけない。

過去、慢心から敗退するケースは多々、あった。名古屋がソウルに敗れた1988年五輪招致レースがそうだったし、パリがロンドンにやられた2012年五輪招致もそうだった。パリは投票前日、前祝いのようなパーティーをやってヒンシュクを買った。

招致委のうぬぼれ感は必ず、投票する国際オリンピック委員会(IOC)委員に伝わる。「選挙とは、投票する人々の真心をいただくことなんです」と森さんは言う。「ブエノスアイレスにいったらニコニコしないこと。真剣に、日本はほんとうに思いつめているな、なんとか日本のために一肌脱いでやろうじゃないか、と(IOC委員)みんなが思ってくれるようにしてください」

投票は、9月7日午後(日本時間8日午前)となる。「東京都のみなさん、JOC(日本オリンピック委員会)のみなさん、招致委のみなさんも、まさか7日の翌日に祝勝会などと書いてないでしょうね。書類に。そういうコトバが1つでも出ているようでは、心の緩みになるんです」。会場からは「そうだ!」の掛け声が飛んだ。

森さんは、前回の2016年招致のことを持ちだした。招致に失敗し、コペンハーゲンから成田への帰途、飛行機で隣の石原慎太郎都知事(当時)がずっと、悔し泣きしていたそうだ。「そんなことにならないように、最後までしっかり、この運動を展開していただきたい。この東京オリンピック・パラリンピックを、日本の多くのみなさん、アジアの多くのみなさんのため、ぜひ、勝ちとっていただきますよう、お願い申し上げます」

結果はわからないが、間違いないのは、今回は東京が勝負の土俵にのっていることである。あとは「謙虚」に「本気」で最後の最後まで、ノーサイドまで一丸で戦うことである。

ところで森さんは、挨拶の中で、IOC委員はどこに投票するかわからないという説明をする際、前回の2016年招致で敗れた後の水野正人専務理事のコトバを紹介した。「IOCのみなさんのことを信じられへんわ。ウソつきばっかりや」と言われたそうだ。これには会場から笑いが起きた。

森さんは、冗談のつもりだったはずだ。4年前の身内話の伝聞である。なのに、某全国紙では「IOCはウソつき」との見出しがついた。これって、おかしくないか。