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ホープ藤田が敗戦で学んだもの

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

若い才能のチャレンジには心が躍る。19歳のホープ、日本代表WTBの藤田慶和選手(早大2年)が25日、ラグビーのパシフィック・ネーションズ杯のトンガ代表戦にフル出場した。試合は17-27で敗退。終了の瞬間、藤田選手は頭の黒色のヘッドキャップを両手で抱え込んだ。

「悔しくて…。10点差だったので、一本トライ(ゴール)取って、ペナルティーゴールで同点というイメージがずっと頭にあったんですが…。ジャパンに流れがきていたのに、(トライを)取り切ることができませんでした」

まだ発展途上。当然、課題も多い。前半序盤、この日初めてボールを持って走り込んだ際、姿勢が高くてダウンボールしようとしたところ、相手に奪われてトライをとられてしまった。184センチ、91キロのからだを少し屈め、「チームに迷惑をかけてしまいました」と声を落とす。

それでも時間が経つと、動きはよくなった。持ち味のラグビーセンス、やわらかい動きでボールをつなぎ、スペースを見つけると、果敢に抜きにいった。ハンドリングミスはあったけれど、最後までチャレンジングな姿勢は変わらなかった。

なんといっても、途中から入ったWTB福岡堅樹選手(筑波大2年)と同じく、ボールを持つと何かを起こしてくれそうな空気にしてくれる。「後半はボディーポジションも低くなり、持ちこんでも、ボールを出せたのはよかったのかなと思います。(トンガは)腕っぷしは強いけれど、フツーにステップを切れば、(相手タックラーが)ずれて、ゲインすることもできました」

藤田選手は福岡・東福岡時代、全国高校ラグビーで3連覇を達成。7人制日本代表に選ばれ、世界大会を経験した後、昨年春、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)率いる15人制の日本代表にも選ばれ、昨年5月のUAE戦で史上最年少デビューを果たした。

その直後、ひざのじん帯断裂の大けがを負いながらも、ことし復活した。試練を味わったからだろう、顔つきも少したくましくなった。『ジュニア・ジャパン』の遠征や、先のアジア5カ国対抗の日本代表でも活躍した。

プレーもだが、考え方もポジティブなのがいい。この日の敗戦で学んだことは?と聞けば、藤田選手は即答した。

「チャンスが少ないのに、4回ぐらいトライチャンスでミスがありました。そこで取り切れないのが(ジャパンの)実力でしょう。少しのチャンスでも取り切れるようにしないといけません」

これからフィジー代表、ウェールズ代表など強豪国とのタフな試合がつづく。「チャンスをものにしないと、もう使ってもらえなくなります」。明るい表情につい、「次は“やるぞ”といった顔ですね」と声をかけた。

「いや、やらないといけないんです」。大けがからちょうど1年。歴代最多キャップの「79」に並んだ35歳のWTB小野沢宏時選手(サントリー)のいぶし銀もいいけれど、復活した19歳のはつらつさはうれしくなる。つい応援したくなるではないか。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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