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王者帝京大のさらなる成長とは。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

今季も強いなあ、帝京大は。まず一人ひとりの体幹、フィジカル・フィットネスがしっかりしている。立ってボールをつなごうとの意識も伝わってくるのだ。

12日の日曜日。昨季のラグビー全国大学選手権決勝の再現となった関東大学春季大会の筑波大戦(帝京大百草グラウンド)だった。日本代表のSO中村亮土(帝京大)やWTB福岡堅樹(筑波大)らは欠場したが、互いの意地とプライドが激突した。王者・帝京大が8トライを奪取し、48-17で快勝した。

夏を感じさせるような強烈な日差しの下、帝京大フィフティーンは部員の花道を通ってグラウンドに散った。キックオフ直後、FKから主将代行のナンバー8、李聖彰が持ち込み、プロップ森川由紀乙が先制トライ。序盤は孤立するプレーやハンドリングミスが目立ったが、それでも接点とスピードで圧倒し、徐々にリズムをつかんでいった。

後半にはスクラムトライのほか、FW、バックスが一体となって走ってつないでトライを重ねた。「ナイスゲーム!」。試合後、円陣で岩出雅之監督は選手にそう、声をかけた。

「いいところもあって、ちょっと“う~ん”というところもあった。この時期、いろいろと試している段階ですから。まだ選手がボールの動かし方を理解していないところもあります。でも“いい空気”でやっています。順調かどうかはわからないけれど、(チーム力として)後退はしていません」

今季の目標が「大学選手権5連覇」と「打倒!トップリーグ(TL)4強」である。昨季までと違い、「打倒!TL」が加わった。だからだろう、基礎となるからだ作りのトレーニングの質量もコンタクト練習も増えた。

さらに社会人相手だと、簡単に倒れていては、ボールを継続することができなくなる。そこでまずは「スタンディング」の意識を徹底させようとしている。

「うちは私立文系の学生が多いので、“あれもこれも”はできませんから」と岩出監督は冗談を口にし、笑顔で説明する。「まずは根本に“立ち続けていこう”という意識を植え付けさせたい。これをしつこくやっています」

気のせいかな、岩出監督の顔には自信と余裕が漂う。選手が言い出した今季のスローガンが『成長』。選手に期待する成長の部分は、と問えば、監督はニンマリとした。

「私は欲張りなんでね。いろんなところで成長を期待しています。プレーヤーとしての資質もそうですし、組織としてもそうでしょうし…。我々が後退しないためには何が必要かというと、グラウンドだけでなく、学校生活のさまざまな部分もそうでしょう」

いわゆるチームカルチャーの醸成ということか。王者とはこうなのだろう、選手たちに慢心はない。主将代行の李聖彰が言う。

「今の時期では及第点だと思いますが、トップリーグ相手ならどうかというと、ミスも多かったし、満足できるレベルではありません。もっと成長しないといけません」

社会人のプレーに慣れるため、パナソニックやサントリーとの合同練習など、今季は社会人との交流も増やしていく。さらに成長するためには?

李聖彰は即答した。

「挑戦と反省、その繰り返しだと思います。満足や慢心はダメです。ラグビーだけでなく、人間力をひっくるめ、社会に通用する力をつけていきたい」

この高い目的意識。この覚悟、この謙虚な姿勢。学生王者がどれほど成長していくのか。楽しみであり、コワくもある。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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