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光るNZUの基本プレー

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

時代は変われど、ニュージーランド学生代表(NZU)はいつも、ラグビーの基本の大事さを教えてくれる。昔ほどビッグネームがいるわけではないが、パスやボールのもらい方ひとつとっても、スキルが高い。

GW初日。好天に誘われて、秩父宮ラグビーをぶらり、訪れた。NZUが4年ぶりに来日し、初戦を関東学生代表と戦った。チームの全体練習は日本に到着してからの2日だけだったという。いわば、ぶっつけ本番。関東学生とて似たような状況だったのだろうが、だからこそ、個々の技術の差がでた。

前半は19-14の互角の展開ながら、NZUが後半には4トライを重ね、43-14と圧勝した。両チームの差は、簡単にいえば、「ボールポゼッション(保有率)」の差である。ボールを持つと、ミスをせず、当たって、リサイクルして、つないでいく。

サイズやフィジカルの差はともかく、「ボールキャリアー」がボールを確実に生かしていく。攻めはシンプル。いやらしくもない。関東学生のタックルの雑さもあろうが、ボディーコントロールとハンドリングがうまく、芯をはずして相手にあたっていくのである。

だから、関東学生は力で圧倒されたとは感じない。むしろスクラムでは圧力をかけた。主将を務めたフランカー金正奎(早大)は言う。「ディフェンスはしつこくいけたと思います。そんなにやられている感じはないけど、フィジカルの強さでこられて、ちょっとずつ押し込まれてしまいました」と。

確かに関東学生はタックルもしつこくいったのだけれど、全体的に少し頭が落ちていたと思う。だから、タックルをかわされる。ずらされる。顔を上げて、踏み込むのは、タックルの基本であろう。そのほか、パス、キック、フォロー、サポート、ブレイクダウン、戻り…。メンタルの差もあろうか。

もっとも、光るプレーも随所にあった。プロップ榎真生(NEC)の突進、SO小倉順平(早大)の的確なキック、WTB小原政佑(東海大)のパワフルなラン…。

NZUの基本プレー、日本の若い力の可能性を見るのはオモシロい。なのに、なぜ、観客は「1111人」なのか。寂しいじゃないの。NZUは4月30日にU20日本選抜(東京・江戸川陸上)、5月4日には関東代表(秩父宮)と戦う。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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