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バレー男子、初の外国人監督となったワケ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

とうとうバレーボールも外国人監督の起用である。日本バレーボール協会は日本男子代表監督として、日系米国人のゲーリー・サトウ氏を決めた。なぜ初の外国人監督に踏み切ったのか。「嵐を巻き起こせるから」と、森田淳悟・強化事業本部長は説明した。

「もちろん日本人でも(嵐を)起こせるけれど、初という外国人に期待を込めて、新しい風を吹かせてもらおうということになった。今まで日本人にはなかった発想も、外国人は考えてくれるでしょう」

選考過程を簡単に振り返れば、日本協会は昨年秋、ロンドン五輪出場権を逃した日本男子代表の監督を公募した。約20人の応募があり、半数は米国人ほか、イタリア人、ドイツ人、ブラジル人などの外国人だった。日本協会の中野泰三郎会長や森田本部長らによる選考委員会がまず、指導実績や強化方法などが記された書類を基に選考作業を重ね、人数を絞っていった。最後はサトウ氏と日本人の2人となり、面談をした結果、このほど、リオデジャネイロ五輪に向けた日本男子代表のかじ取り役をサトウ氏に委ねることになった。

指導性、人間性などでポイント評価し、最後は約1時間のプレゼンテーションと質疑応答。10人中、サトウ氏就任に対して、賛成、反対、棄権が7人、2人、1人だった。指導実績だけでなく、低迷する日本代表の分析、強化策などについてデータを示しながら論理的に説明できる点が評価された。

森田本部長は、サトウ氏のポジティブな考え方も評価する。「例えば、選手交代。どんな状況でもミスした人を代えるのではなく、その時、だれが必要かと考えて交代させる。トスが乱れたら、それがサーブレシーブのせいなら、ミスしたセッターを直接責めず、いいレシーブができる選手に代えるのです」

外国人監督といえば、サッカーやラグビーもそうである。長所は日本人監督とは違い、所属チームとのしがらみや選手への先入観がなく、よりフェアな指導ができる点だろう。反面、語学の問題ゆえ、スタッフや選手とのコミュニケーションがおろそかになるリスクを負う。文化の違うもあろう。

それでも男子バレーボールは1972年ミュンヘン五輪の金メダル以来、40年間、五輪メダルから遠ざかっている。もはやナンダカンダ言っている場合ではない。日本代表チームとしては、男女を通じて初のチャレンジにかけるしかないのだ。

いわばショック療法に近い。サトウ氏は58歳。米国代表コーチとして、1988年ソウル五輪金メダル、92年バルセロナ五輪銅メダル獲得をサポートしている。会見で、目標は2016年リオデジャネイロ五輪のメダル獲得を掲げ、「スマートなバレーを目指す」と言い切った。

スマートとは頭を使うこと。的確な状況判断から、ミスのないスピーディーなバレーを実現できるかどうかである。さて世界のバレー界に嵐を巻き起こし、女子に続き、「バレーニッポン!復活」となるかどうか。

サトウ氏が「嵐を呼ぶ男」になれるかどうか、である。

【「スポーツ屋台村」(五輪&ラグビー)より】

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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