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サントリーが負けない理由とは

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

サントリーが全勝街道を突っ走る。少々劣勢になる場面があっても、結局は負けない。なぜなのか。ひと言で言えば、ふだんの積み重ねによる選手の「ファンダメンタル(基礎部分)」、こうやって勝つんだというスタイルの確立があるからである。

トップリーグのプレーオフ準決勝の神戸製鋼戦(19日・秩父宮ラグビー場)はタフな試合となった。さすが準決勝である。ぬかるんだグラウンド、相手のラッシュディフェンスに、サントリーはペースをつかめなかった。はっきり言って、テンポが遅かった。ボールがあまり動いていなかった。即ち、神鋼ペース。持ち前の「超攻撃ラグビー」は鳴りを潜め、シンビンで一人多い時間帯に2トライを許し、6-19とされた。

ここで大久保直弥監督が動く。前半33分。SHデュプレア―SO小野晃征のハーフ団を、SH日和佐篤―SOトゥシ・ピシにスイッチした。監督の意図を選手たち全員が理解した。プロップ畠山健介も試合後、言うのだ。「ああ、テンポを上げろっていうことですから。FWのワークレートを上げていかないといけないと思いました」と。

サントリーの攻めにリズムが出始める。前半終了間際、CTBニコラス・ライアンがPGを蹴り込み、9-19とした。後半を考える時、これは大きかった。

後半は、接点でしっかりファイトし、走って、つなぐ、当たって、またつなぐ、サントリーの攻撃がよみがえった。ブレイクダウンで強く、前に出る。テンポよく散らす。ボクシングでいう強烈なジャブ、ボディーブローのようなものだ。プロップ畠山のトライを皮きりに4連続トライと畳みこんだ。

38-19で勝った。主将のロック真壁伸弥はほほ笑んだ。「自分たちのプレー、カタチはしっかり持っているので、帰るところがある。そこにしっかり帰ろうとしました」。全員がこう信じるチームは強い。なかなか負けない。

大久保監督はこうだ。「前半は多少、パニックになっている部分がチームにあった。でも最後、この2年間の経験が生きたかナ、と思います」。どこに2年間の経験が?「そういう厳しい中でも、どこに相手のスペースがあるかというところとか…。過去の経験からもそうですし、相手の疲れ具合、時間、点差など総合した中で、いまここでどう攻めるのか、守るのか、を判断できることです」

つまりは成功体験、経験値の高さである。それは簡単そうでなかなか培うことはできない。まずふだんの練習でそれぞれが目的をきっちり持ち、100%の努力を積まないと醸成されない。フィジカル、体幹の強さ、基本プレーの精度、体力、集中力の持続、意思統一…。さぞハードなトレーニングを高い意識で積み重ねてきたのだろう。

今季は昨季に比べ、対戦チームからより細かく研究もされているはずだ。でも負けない。全員が高度な仕事を80分間、続けることができる。不安と言えば、スクラムぐらいか。

次は決勝。無傷で頂点に立てば、トップリーグ初となる。大久保監督は最後、漏らした。「サントリーのラグビーで勝つ」と。いわば信念。自分らのカタチに王者ならではの自信が備わっているからである。

【『スポーツ屋台村』(五輪&ラグビーPlus)より】

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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