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ラグビー伝統の雪かき

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ラグビー文化とはいいものである。社会人の試合のために、高校生や大学生が雪かきをしてステージを準備する。神戸製鋼の平尾誠二ゼネラルマネジャー(GM)兼総監督はうれしそうに漏らした。「古き良きボランティア精神だな、これは。ラグビー的ですごくいいと思います」と。 

19日。トップリーグのプレーオフ準決勝、神戸製鋼×サントリーが東京・秩父宮ラグビー場で行われた。先日の大雪の影響もなく、グラウンドは上々のコンディションだった。それもそのはず、2日前、大学選手権4連覇の帝京大のほか、東海大、日体大、早大、日大、中央大などのラグビー部員が駆けつけ、朝から一日中、除雪作業に励んだ。とくに帝京大からは岩出雅之監督をはじめ、泉敬主将ら約100人の部員が一緒にやってきた。

これは関東ラグビー協会から大学のトップチームにボランティアの作業をお願いしたところ、平日にもかかわらず、「いつもお世話になっているところだから」と続々と集まった。いわば恩返し。謝礼はもちろん、交通費も出ない。それでも手袋をはめ、グラウンドやスタンドの硬くなった雪をかき集め、表面を芝生のグラウンドに戻した。

試合は、サントリーが持ち前の超攻撃ラグビーで38-19と快勝した。選手たちが縦横に走りまわれたのも、学生たちの雪かきのお陰と言えなくもない。試合後の記者会見。神戸製鋼の苑田右二ヘッドコーチは開口一番、こう言った。「帝京大学、東海大学、その他の大学の学生のみなさんが雪かきをしていただき、きょうのセミファイナルを戦うことができました。非常に感謝しております」と。

神鋼のロック安井龍太は東海大OB。トライをあげたが、「東海って、ここから電車で1時間半ぐらいのところにあるんです。わざわざ出てきて作業をしてくれたなんて、すごくうれしいです。後輩たちの思いがこもったグラウンドで試合ができたことを、とても光栄に思います。まさに“ワン・フォア・オール”の精神ですね」。ぶ厚い胸をグンと突きだし、からだ全体から誇りがにじみ出ているようだった。

サントリーのプロップ畠山健介は早大OB。こちらもトライをマークした。「ありがたいですね。子どもや高校生たちのお手本となる姿勢がうれしいじゃないですか。僕らも感謝の気持ちとラグビー精神を忘れないようにしないといけない」と笑顔で話した。

もっとも、関東協会関係者によると、大学生による雪かきは「伝統」という。数年に一度はやってくる東京の大雪。毎回、東京の大学ラグビー部に「SOS」をかけてきた。「ずっと昔から、ここはラグビー仲間が(除雪作業を)手伝ってくれる。みんな寒くても、一生懸命に雪かきをしてくれます」。ラグビー文化は健在である。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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